石毛宏典から見た今季の西武 野手編

(投手編:髙橋光成、今井達也を絶賛も...ロン毛には「自分の考え方が古いのかもしれないが、反対」>>)

 昨オフにFAで森友哉がオリックスに移籍し、山川穂高(5月2日に一軍合流)と源田壮亮WBC組を欠いた西武だったが、実績のある選手たちと新外国人助っ人、ルーキーの児玉亮涼らも加えた打線で善戦。かつて"山賊打線"と恐れられた打撃が力を取り戻しつつある。



 投手編に続く野手編では、西武OBの石毛宏典氏に、打線を活気づけている外崎修汰や愛斗の好調の理由や課題などについて聞いた。

西武の「打のキーマン」を石毛宏典が分析 外崎修汰の復活の理由...の画像はこちら >>

打撃が好調の外崎(左)と1番での起用が続く愛斗

【長らく期待していた外崎の好調の要因】

――開幕間もない4月10日、4番の山川選手が出場選手登録を抹消され、西武は打線の核を欠くことになりました。ただ、39歳の中村剛也選手が奮闘し、3、4月の月間MVPも獲得しましたね。

石毛宏典(以下:石毛)中村は、山川穂高不在という苦しい状況を補って余りある活躍を見せましたね。彼が4番に入ることは相手チームにとって脅威だったでしょうし、成績(打率.330、7本塁打、14打点/5月11日時点。以下同)も文句なしです。

 ただ、ベテランなので休み休みの起用になると思いますし、頼りすぎる状況が続くのもよくない。

山川も戻ってきましたが、打線のつながりを生むためにも、野手全体の底上げが課題ですね。

――石毛さんは以前から、西武が勝つためには「外崎修汰が頑張らないといかん」と言われていました。ここ数年は不本意なシーズンが続いていましたが、今シーズンは好調を維持(打率.291、6本塁打、14打点)して打線をけん引していますね。

石毛 そうですね。現状は打つ、守る、走るすべての面で頑張っていると思います。昨シーズンまでは、打つポイントがけっこう差し込まれていたんです。
ボール1個から2個分ぐらい遅れていたのですが、今シーズンはタイミングの取り方を変えたのか、ポイントが少し前になっていて、それが功を奏していると思います。

――今シーズンはすでに6本塁打と、長打も増えている印象です。

石毛 それも打つポイントが前になっているからでしょうね。以前から、前の腕(左腕)は緩むことなくしっかりと張れていましたし、スイングそのものは常にいいんです。ただ、懸念していたのは「ポイントが近いバッターだな」ということ。ポイントが前にいけばヘッドを走らせる距離ができますし、ヘッドスピードも増していくので、「長打も打てるだろう。

打率も上がっていくだろう」とは感じていました。

――今はヘッドが走っている?

石毛 そうですね。ただ、もともとヘッドの使い方はうまいですよ。ヘッドが立っているので球威に負けないスイングができる。だから、体が大きくない割には打球を飛ばせるんです。ヘッドの使い方も含めて基本の打ち方は変わっていないので、タイミングを取るコツ、意識しなくても前のポイントで打てる何かを掴んだんだと思います。

【1番を打つ愛斗にとっては「かなり大事なシーズン」】

――石毛さんは「強いチームには、いい1番打者がいる」と言われていて、「西武は1番打者を固定できていない」と課題を挙げていました。今シーズンは4試合目からこれまで愛斗選手が1番打者を務めています。

石毛 一時は打率も3割を超えていて、走塁の積極性も目立ちます。守備もいいし、ガッツもある。頑張っていると思います。ただ、1番打者であれば出塁率(.289)を上げていかなければなりません。

出塁率.350くらいをキープしていくことが目安になるかと思いますが、そこをクリアすることが課題のひとつでしょうね。

――バッティングはどう見ていますか?

石毛 バットを短く持っている割に打球は飛びますね。外崎と同じように、左足を上げて踏み込んでいく時に前の腕(左腕)をしっかりと張れているのですが、そうすると飛距離が出やすくなる。課題を挙げるのであれば、バットが体からちょっと離れ気味になってしまうことです。

 肩や首の付近(体の近く)からバットがスッと出ていけばいいのですが、体から離れるとバットが遠回りしてしまうドアスイングになって、インパクトまでの到達が遅くなり、差し込まれてしまいます。体の近くからバットを出すようにスイングすれば、スムーズにバットが出るようになりますし、振り遅れや打ち損じなども減らせると思います。


 ドアスイングだとほとんどの球に詰まってしまいますが、グリップが先に出てバットの先が後から出るインサイドアウトで振ればヘッドが走るので、多少は差し込まれてもファウルで逃げることができます。先っぽに当たっても対処できるようになりますし、そうなると必然的に打率も上がっていくと思いますよ。

――1番打者だけでなく、近年はなかなか外野手を固定できませんでした。そういう意味でも愛斗選手には期待がかかりますね。

石毛 近年の課題を考えれば、愛斗にかかる期待は大きいですし、今シーズンは彼のキャリアにおいてかなり大事なシーズンになると思います。

――松井稼頭央監督の選手起用についてはいかがですか?

石毛 開幕前に松井監督と「我慢と競争をどう両立させていくのかが重要」という話をしましたが、愛斗に関しては今後不振に陥ったとしても我慢して使い続けていくような気がしますし、我慢する価値のあるポテンシャルを秘めていると思います。少し不振になったぐらいですぐに替えていたら、選手は育っていきません。

 その一方で競争させることも大事です。現状ではキャッチャーの柘植世那、古賀悠斗のほか、ショートの児玉亮涼、滝澤夏央など、各ポジションでいい競争をさせていると思います。以前にも話しましたが、松井監督自身が若い頃に我慢して使ってもらった経験があり、その後球界を代表する選手に成長しました。そんな松井監督が、どの選手をどう起用をしていくのかに注目しています。

【プロフィール】
石毛宏典(いしげ・ひろみち)

1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランド リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。