【挫折から復活のきっかけ】

 大阪府門真市にある東和薬品RACTABドーム。昨年12月にこの会場で開催された全日本選手権で輝きを取り戻したスケーターが、再びこの地で花を咲かせた。

青木祐奈が「全日本ビリのどん底」から取り戻した輝き 新設アカ...の画像はこちら >>
 トリノ五輪の荒川静香の演技に惹かれ、5歳でフィギュアスケートを始めた青木祐奈(21歳/日本大)。
羽生結弦を育てた都築章一郎コーチ指導のもと、その才能はノービスの頃から広く知られていた。

 国内外の大会で活躍し、ジュニアに上がると難易度の高い3回転ルッツ+3回転ループというコンビネーションジャンプや音楽表現豊かなスケートで観客を魅了してきた。

 しかし、ジュニアでは腰のケガや不振に悩まされ、スケートをやめようかと思うほどの苦しい時期を経験。2019年8月には左足首の骨折によりシーズン全休を発表。それでもスケートが楽しいという気持ちを胸に、手術とリハビリで翌シーズンに復帰を果たした。

 一番苦しかったのは、「(2021年の)全日本選手権の最終滑走でビリになった時は一番どん底」と本人が話すように、全日本の舞台でフリー進出が叶わなかったこともあった。
ここで青木は大きな決断をする。小さな頃から指導を受けてきた都築コーチのもとを卒業し、中庭健介コーチが率いるMFアカデミーへと移籍した。

 2021年に設立したばかりのMFアカデミーは、2面のリンクを擁する三井不動産アイスパーク船橋の環境やスケート以外にもバレエのレッスンもあり、全国から優秀な選手が続々と集まってきている。

 トリプルアクセルを武器に日本代表で活躍する渡辺倫果もMFアカデミーに所属。ジュニア、シニアのトップ選手たちと切磋琢磨できる環境で、青木が持っていた高い技術が戻ってきた。2022年の全日本選手権では7位。
日本スケート連盟の強化選手Aに認定された。

 大きな舞台で自信を取り戻し、グランプリ(GP)シリーズの日本大会であるNHK杯の選考会でも枠を勝ちとり初出場を決めた。

【自らの振付けでのびのび舞う】

 NHK杯前日に行なわれた日本代表の記者会見で青木は「緊張すると思うんですけど、のびのび自分らしい演技ができるようにすることで、今できるすべてを出して自己ベストを目指したいなと思っています」と笑顔を見せた。

 女子ショートプログラム(SP)の第1滑走で登場した青木は、自ら振付けた『Young and Beautiful』で前日の言葉どおりのびのびと滑りきった。

 コンビネーションジャンプとダブルアクセルで回転不足をとられてしまい点数は伸びなかったが、高い音楽性あふれる表現、一つひとつ丁寧に踏んでいくステップなど彼女のスケートの長所が随所に見られる演技だった。

 演技後は「昨日までの不安に打ち勝てた」との思いから小さく拳を握るシーンも。ずっと武器として磨いてきた3回転ルッツ+3回転ループのコンビネーションは「練習でステッピングアウトをしていたので、片足で立てたのはよかったです」と振り返った。



 観客からの大きな拍手に「すごく気持ちよかったというか、こんなにたくさんの方からの歓声を浴びることは現役じゃないとないと思ったので噛み締めていました」とうれしそうに話す。

 さらに「ケガとかいろいろあってからここまで来られたのはたくさんの方のおかげですし、自分としてもジャンプが少しずつ安定してきたということはいいことなのかなと思います」と、感謝を口にした。

 踊ることが好きで、将来は振付師になりたいという夢がある。「たくさんの方が見ている国際大会で、自分でつくったプログラムで出られたことはとても価値があることだと思いますし、挑戦してよかったです」と、将来に向けての大きな収穫も手にした。

【ありがとう、との気持ち】

 SP後に「いい演技をショート、フリーでそろえること。順位はあまり気にしていなくて、自分が満足できる演技を披露できたらいいなと思って今回臨みました」と話した青木は、フリーでもその輝きを見せた。



 ミーシャ・ジー振付けの『She』は、自らのスケート人生を重ねたというプログラム。伸びのあるスケーティング、音とともに多彩に変化する動きは見る者の心を動かし、「大きな会場で滑ることができて幸せを感じた」という気持ちは表情にも溢れていた。

 代名詞でもある3回転ルッツ+3回転ループのコンビネーションはルッツの単発になってしまったが、女子ではなかなか見ることのないダブルアクセル+オイラー+3回転フリップをしっかり着氷。中盤の構成を変更してコンビネーションジャンプのリカバリーをし、これまでの経験を活かした対応力も見せた。

 演技前は「緊張で足がふわふわしていた」とのことだが、それでも持っている力を出しきった。最後のポーズで見せた表情には万感の思いがにじんでいた。
その一瞬の表情について青木は、「(演技を)見てくれている方にありがとうという気持ち。私がこれだけ気持ちよく滑れたのは観客のみなさんのおかげですし、見てくださったうれしさと感動が大きかったです」と笑顔で大会を終えた。

 競技終了後のエキシビションでは、2021年から2シーズン使用したSP『The Artist』を再演。滑りで音を表現する唯一無二の演技で観客を魅了した。シーズン序盤には頭の片隅に今季引退もあった。

 だが、今回の経験で「ショートもフリーも大きなミスなく自分らしい演技ができたというのは自信になりましたし、今後につながっていくなと思いました」というように、全日本選手権、さらにその先に続く青木祐奈の未来に期待したい。