徳光和夫 インタビュー(全3回)
読売ジャイアンツ 前編

ファン歴は70年以上、熱狂的な「巨人親父」として知られる、フリーアナウンサーの徳光和夫さん(82歳)にインタビュー。2年連続のBクラスに沈んでしまった読売ジャイアンツをどう振り返るのか? 日本一に輝いた宿敵・阪神タイガースとの「差」についても言及した。

【阪神は選手全員が"熱いファン"】

徳光和夫 "こんなはずではなかった......"。2023年シーズンを終えた、僕の正直な気持ちです。

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 2022年のシーズンは、5年ぶりのBクラスとなる4位に終わり、原辰徳監督は「奪回」をチームスローガンに掲げて2023年シーズンに臨みました。

 僕も期待していました。WBC侍ジャパンが世界一になり、この勢いで巨人軍もペナントレースでセ・リーグを制し、日本シリーズも勝って日本一になる、こんな青写真を描いていました。

 しかし、酷暑が続く9月中旬。阪神がよりによって巨人に勝利してリーグ優勝を決めました。
その後、巨人は2年連続のBクラスが確定します。これには意気消沈しました。こんなに長い冬が来るとは思いませんでした。

 今季の阪神の分析をすると、阪神は選手全員が非常に熱い阪神ファンになっていたな、と感じました。阪神の試合は、甲子園をはじめ全国各地の野球場が満員になりました。そのファンの熱に負けないぐらいの熱さで選手たちは応援に応えていたように思います。
選手とファンの距離が近いように感じました。

【「巨人が弱いと...」炎上発言の本当の思い】

 一方、巨人の選手たちはどうだったか。熱いファンの人たちと気持ちが解離していたように思います。

 僕がラジオで「巨人が弱いと野球ファンが離れるかもしれない」と言ったことが、なんとなく(SNSなどで)炎上したみたいですが、炎上させた人たちに言いたいのは、あれは巨人の選手たちに向けて言った言葉だったんです。そういう気持ちを持って、歴代のOBたちはプレーしていた。それが今の選手たちにはあるのか!?と。

「巨人が弱いと野球ファンが離れる...」徳光和夫が明かす炎上発言の真意 「今の選手たちにはそういう気持ちがあるのか!?」
 阪神は矢野燿大さんが監督だった2022年にいきなり開幕9連敗しましたが、気がついたら3位になっていました。
つまりは、今季になって突然強くなったわけではなく、明らかに昨季から力をつけていたわけです。

 そのチームを、熱烈な阪神ファンでもある岡田彰布さんが引き継いだ。岡田さんは2軍の選手まで覚えて、1軍と2軍の風通しをよくしました。そして、2軍から上がってきた選手をすぐに1軍の試合で起用していました。岡田さんがしっかり選手を掌握していたことが、いい方向に向かった要因だと思います。

 先日、掛布雅之さんが「今のチームの雰囲気から、向こう3年は阪神の天下じゃないか」と言っていました。
今までの僕だったら、そういう発言を真っ向から否定していたのですが、今年はグサリと胸に刺さりました。今の阪神の強さは認めざるを得ません。

【原辰徳と阿部慎之助はまったく違う】

 クライマックスシリーズを逃し、東京ドームまで原さんに会いに行き、「1年間、ご苦労様でした」と労いの言葉をかけた時のことです。原さんからは「申し訳ございませんでした。来季こそ」という言葉が返ってきました。

 ぎゅっと握手をかわした時の力強さに、"このまま野球人生を終えるつもりはない。来季はこのチームで再出発をする"という強いメッセージを感じました。



 しかし......。

 原さんが退任し、阿部慎之助さんが新たに監督に就任しました。

 阿部さんは2軍監督を経て、1軍でヘッドコーチを務めていました。彼自身がよく言うのは「自分は昭和の野球だ」ということです。ある意味では、スパルタ式と言いましょうか。

 でも、その代わりに、選手全員をしっかり把握し、認識し、個々に個別にサジェスチョンし、アドバイスをするタイプの指導者になりたいと考えていたようです。
彼なりの指導者像を描いているのだと思います。とはいえ、いきなり来季から1軍の監督になるとは思っていなかったでしょうが......。

 それでも2軍監督だった時代にファームの選手と接してきたことは大きなベースになっていると思います。2軍監督を経験しているのは、阪神の岡田監督との共通点でもあります。その経験を存分に活かしてほしいです。

 現役時代の阿部さんは、我々巨人ファンにとって、ここぞという時に打ってくれるバットマンでした。「さよならシンちゃん」って言われていたぐらい、劇的なシーンを何度見たことか。平成の時代で彼ほどチャンスに強かった打者はいません。松井秀喜さんでも清原和博さんでもなかった。

 自分で「昭和の指導者」と言っているくらいですから、選手たちにはマンツーマンでいろいろ授けていくんじゃないかな。チャンスの時にどのボールを打ったらいいか、そういう狙い球を絞るような指導をするのではないでしょうか。

 原さんのもとでヘッドコーチをやっていましたが、原監督とはまったく違う野球を、阿部監督は展開すると思いますね。非常にドラマチックでありながらも、あまり気をてらわないような野球を。

 原さんは人気監督であったゆえに、森を見てはきたけど、じつは1本1本の木の成長までは目が行き届いていなかったんじゃないか。1本1本の木の成長が伴わなかったため、残念ながらいい形の森にはできなかった。逆に、阿部さんはこれまでに1本1本の木を見てきた。いいデザインの森ができあがるんじゃないかな。

 阿部さんは「昭和の指導者」を自称しながらも、そのじつ、相当柔軟性があります。たとえば、鳥羽一郎さんの『兄弟船』もカラオケで歌うけれど、YOASOBIもあいみょんも知っている。それぐらい振れ幅が大きい。たぶん、新しい学校のリーダーズなんかも阿部さんは知っているんじゃないかな。そういった柔軟性は指導や選手の起用にも活きてくると思います。

「巨人が弱いと野球ファンが離れる...」徳光和夫が明かす炎上発言の真意 「今の選手たちにはそういう気持ちがあるのか!?」

【ドラ1・西舘勇陽投手に大注目】

 今季も若手選手がたくさん起用されましたが、それは主力のケガがあったから。どこか苦しまぎれだった。だけど、来季はそうではないと思うんです。うまくチャンスをつかんだ若手を、シーズンの最初から起用してくるんじゃないかと思います。

 ひとつ、縁起がよかったのは、ドラフト1位で中央大の西舘勇陽投手を指名できたことです。これは大きい。

 花巻東高で西舘投手を指導した佐々木洋監督に言わせますと、「能力的には菊池雄星を超えるものがある。大谷翔平とも遜色はない」とのこと。相当期待できます。中大3年、4年で活躍しましたが、彼のなかには花巻東イズム、佐々木イズムがあったと思うんですね。それに、同じ岩手出身で同学年の佐々木朗希投手があれだけ活躍していますから、西舘投手もやってくれるでしょう。

 阿部さんと同じ中大出身というのも大きな縁を感じますね。就任してすぐのドラフト会議で、競合したにもかかわらず、みごとに引き当てた選手が中大の後輩って。阿部さん、"持ってる"と思うんですよ。打撃コーチにも亀井善行さんを置いていますし、中大ラインが敷かれて、活躍するんじゃないかな。

 私の好きな言葉に「運は縁に繋がり、縁は運を結びつける」というものがあります。誰が言ったかは知りません。福岡のスナックのトイレでこの言葉を見つけました(笑)。なるほど。歌手だろうと、スポーツ選手だろうと、いろんな人の人生に言えるな、と感心しました。

 西舘勇陽という強力な新戦力だけでなく、来季に向けて、いい縁と運をも同時にとったと思っています。

読売ジャイアンツ 後編<徳光和夫が巨人に愛のムチ「岡本和真は勝負強い打者になってほしい」「中継ぎ投手が踏ん張りきれない」>を読む

箱根駅伝編<沿道で徳光和夫は選手たちに声かけ&生実況「サザンオールスターズのあの音楽が聴こえるか」「烏帽子岩がほほ笑んでいるぞ」>

【プロフィール】
徳光和夫 とくみつ・かずお 
1941年、東京都生まれ、神奈川県茅ヶ崎市在住。立教大学卒業後、1963年に日本テレビに入社。アナウンサーとして『ズームイン!!朝!』や『NTV紅白歌のベストテン』、プロレス中継などの多数番組で活躍。1989年、フリーアナウンサーに転身。現在まで、アナウンサーやタレントとして活動している。熱狂的な読売ジャイアンツファンで、「CLUB GIANTS」アンバサダーも務める。箱根駅伝好きでもあり、毎年、沿道で観戦している。