沖縄・北谷(ちゃたん)の空に、豪快なスイングから放たれた打球があっという間に吸いこまれていく。打球の主は、ドラゴンズ移籍2年目を迎えた細川成也だ。
【毎試合、打席に立てることが幸せ】
── 立浪和義監督が「練習できる体力がある」と評価されていましたが、このキャンプでもいつも最後まで残っていて、本当によく練習されますね。
細川 いや、そんなことありませんよ。やっぱりまだまだ課題ばっかりなので、それに向き合っている、という感じです。
── 昨年、ついに待望の結果が出ました。ご自身ではどのように分析されていますか?
細川 去年はもう本当に「これで結果が出なければ野球を辞めなければいけない」という瀬戸際だったので、1年間、本当に死ぬ思いでやろうと決めていました。ドラゴンズに来てから、いろんなものを全体的に変えたということもあるのですが、キャンプから監督やバッティングコーチの和田(一浩)さんが、本当にずっと長い時間一緒にやって、その時々にアドバイスをいただけたので、その存在が一番大きかったかもしれません。
── DeNA時代は「あとはタイミングの取り方を見つけるだけ」とコーチの方が言われていたことを思い出しますが、ドラゴンズに来て立浪さん、和田さんの教えがハマったということでしょうか。
細川 ハマったんですけど、それはタイミングの取り方だけでなく、全体的にガラッと変えたところもあるので。感覚的なものや、もちろん大きく足を上げてタイミングを取るとか、複合的な部分が重なっていい方向にいけたのかなとは思います。ただ、まだ完璧というわけじゃないので、まだまだですけど、少しはよくなったのかな、と。
── 先日も立浪監督から1時間以上にわたり指導を受けていたようですが、昨年結果が出たところから、さらに飛躍を果たすために、今年は具体的にはどんなことに取り組んでいるんですか?
細川 いや、もうほんとにまだまだなのですが、細かいところで言えば、左足の使い方だったり、重心が前に突っ込まないようにするためとか......いろんなことを教えていただいているという感じです。やっぱり去年、試合に出させてもらっているからこそできた経験というものがあって、それはいいことも悪いこともなんですが、そこから見えてきたものもあります。ただ、やっぱり......なんていうんですかね、あらためて試合に出られるってホントに幸せなことなんだなと思いましたね。
── ベイスターズ時代は通算6年で123試合だった試合数を、昨年1年で上回る140試合の出場。打席数は通算229から、1年で576打席まで増えました。
細川 毎試合、打席に立てることが本当にうれしかったですね。これまでもひとつの打席を大事にしてきましたけど、1試合に出られるとやっぱり4打席あって、気持ち的にはだいぶラク......といったら、語弊があるのかもしれないですけどね。1打席1打席が僕にとっては本当に大切ですから。
でも代打の時とはやっぱりメンタル的に多少余裕があるのかなという感覚はありました。
【最低でも昨年以上の成績を残したい】
── 現役ドラフトで移籍して、代表的な成功例となりました。昨年とはまた違うオフを過ごせたんじゃないですか。
細川 そうですね。1年間試合に出られて、いろんな人がよろこんでくれました。とくに両親は「テレビで一軍の試合を観られる」ってよろこんでくれて、二軍ばかりの頃は元気な姿も見せられませんでしたから。あとは12月に倉本(寿彦)さん(現・ハヤテ)とも会ってきて、ベイスターズ時代ずっとお世話になっていた先輩だったので、活躍している姿を見せられて素直にうれしかったです。
── 移籍してきて背番号0での出発から、今季は長距離砲の代名詞である「55」に変わりました。期待の大きさを感じます。
細川 本当にいい番号をいただけたので、この番号に恥じないような活躍ができればいいなと思っています。もちろんホームランも打てたらいいですけど、僕はそれ以上に打点というものにこだわりたいんです。やっぱり、勝ちたいですからね。勝つためにはチャンスの場面でいかに打てるか。
── レギュラーとしての自覚がうかがえます。ドラゴンズは苦しい戦いが続いていますが、やはり勝つことに対して渇望はありますか。
細川 僕がどうこういえる立場ではないのですが、このキャンプでもみんなものすごい練習をやっていますし、一人ひとりが「勝ちたい」という思いを持っています。僕自身もそうですが、自分のやるべきことをしっかりやっていけば、絶対に勝てると思います。やっぱり優勝して、ドラゴンズのみんなとビールかけをしたいですね。
── 今季の目標として具体的な数字は考えるのですか。
細川 いや......具体的な数字は、なんていうんですかね、言いたくないです(笑)。ただ昨年の数字以上の成績は、最低でも残したいなというのはあります。
── 内に秘めた思いはあると。
細川 はい。でもやっぱり一番は打点を増やしたいです。チャンスの場面で打てばヒーローになれますし、裏を返せば打てなければ流れを悪くしてしまうこともある。勝ちにつなげるためにはチャンスでいかに打てるかです。去年は僕自身、得点圏でのバッティングに課題がありましたし、もっともっと意識を変えていかなければいけない。やっぱり打席に入る時の考え方をもっとクリアにすること。ピッチャーに対して、配球や狙い球を絞ったり、その状況に応じたバッティングもしていきたいとは思うのですが、考えすぎてもダメだし、頭の中をしっかりクリアにして挑むことができればとは思います。
── 昨年の得点圏打率2割8分。78打点でしたが、自分ではもっとやれたと。
細川 そうですね。やっぱり後半戦に落ちてしまったこともありましたし、試合に出続けていくうえで「疲れた」なんて言っていられないですから、コンディションを整えることも含め、もう一段、二段上のレベルにならなければいけないでしょうね。今年はまた去年とは違う意味で「やらなければいけない」という気持ちですが、そこは考えすぎず、力みすぎず、自分にマイナスにならないように挑めたらと思っています。
【中田翔と一緒にやれてうれしい】
── 移籍してきた中田翔選手が、打撃練習を見て「細川と鵜飼(航丞)は12球団でも屈指の飛距離を持っている」とおっしゃっていました。やっぱりホームランへの期待も高まります。
細川 そんなことないですよ(笑)。中田さんに言われたら、それは全然違うんですけど、ただ飛距離というものが僕の一番の魅力ではあることはわかっています。そこがなくなったら僕のいいところもなくなってしまうので、そこは消さずに、あとはもっと確率を上げていくことですね。
── 長距離砲の先達である中田さんの加入は、4番を争うライバルになるかもしれませんね。
細川 いやいや、ライバルだなんて。僕は中田さんと一緒にやれてうれしいんです。ドラゴンズに来られてからここまで本当にいろいろと話をしてもらいました。バッティングの技術面もそうですけど、考え方や心の持ち方とか、ここまで一軍の最前線で活躍されてきて、実績もケタ違いに持っている人は、こういう考え方をしているんだとか、話すたびに発見があります。これから1年間、一緒にプレーできることが楽しみです。
── 長距離砲としても、真の中心選手としても昨年以上に、大きな期待がかけられています。広いバンテリンドームでも細川選手なら関係ないですからね。
細川 やっぱり違う球場なら入っていたなぁ......というのは何本かありますよ(笑)。僕自身も子どもの頃からすごいホームランを打った選手のことは覚えていますし、全国のファンに名前を覚えてもらえるような、インパクトを与えられるような選手になりたいとは思ってきました。でも、それ以上にやっぱりチャンスに打ってチームを勝たせるバッターがカッコいいですよ。「アイツならやってくれる」「細川でダメならしょうがない」とチームに信頼される勝負強さを身につけたい。現状ではまだまだですけどね。そんな自分に少しでも近づけるように、引き続き頑張っていきます。
細川成也(ほそかわ・せいや)/1998年8月4日、茨城県生まれ。明秀日立高から2016年ドラフト5位でDeNAに入団。アレックス・ラミレス監督に長打力を買われ、1年目のシーズン終盤に一軍で起用されるとプロ初本塁打を記録。右の長距離砲として期待されるも2年目以降は力を発揮できず、22年12月の現役ドラフトで中日に移籍。23年はレギュラーをつかみ、チームトップとなる24本塁打、78打点をマークした。