清水直行インタビュー 前編

佐々木朗希のメジャー挑戦について

 ポスティングシステムによるメジャー挑戦の意向を表明したロッテの佐々木朗希。しかし、プロ5年間で規定投球回に到達したことがないなど、懸念の声も少なくない。

 長らくロッテのエースとして活躍し、2018年、19年にはロッテの投手コーチも務めた清水直行氏はどう見ているのか。佐々木がメジャーに挑戦するうえでの課題を、今季のピッチングの振り返りと併せて聞いた。

佐々木朗希がメジャーで活躍する可能性を清水直行が語る 結果を...の画像はこちら >>

【メジャーの野球が佐々木に合う可能性も?】

――清水さんは以前から、佐々木投手はシーズンを通してローテーションをしっかりと守り抜くことが課題、と言われていました。今季のピッチングを振り返っていかがですか?

清水直行(以下:清水) よくやったと思いますよ。故障で約2カ月間ローテーションを外れましたが、ふた桁勝利を挙げて防御率もいいですし(10勝5敗、防御率2.35)。奪三振率は一時よりも下がりましたが、1試合で投げるイニングも増加傾向でしたし、僕はよくやったほうだと評価します。

――球団がポスティングを容認してメジャー挑戦を表明していますが、どのような球団が適していると思いますか?

清水 佐々木が重視しているのは、やはり登板間隔をはじめとした起用法じゃないですか。獲得を狙っているメジャーの各球団も、佐々木のこれまでの歩み、慎重に起用されてきた過程を熟知しているでしょうから、いきなり活躍してもらうイメージはないと思うんです。

 160キロを超える真っすぐを高校生の段階で投げていて、体に負担がきているのは明らかです。プロ入り後はそれに耐えられる体作りを計画的に進めてきたわけですが、この5年間で、球団の想定よりも体は強くならなかったんじゃないのかなと。

――今季は右上肢のコンディショニング不良で離脱しています。

清水 そうですね。ただ、それが佐々木の判断なのか、トレーナーの判断なのか、もしくは提携している順天堂大が解析したうえでの判断なのかはわかりません。

――メジャーは過密日程なうえに登板間隔が短くなりますし、ピッチクロックなども含め、故障する要因が多くなる印象です。

清水 佐々木のメジャー挑戦は"一長一短"があると思います。悪いほうから言うと、メジャーでは中4日、中5日は当たり前ですし、レギュラーシーズンが162試合あるなかで先発ピッチャーの登板数を考えたら、かなり投げることになる。そういった先発ピッチャーに対して、球団は高い金を支払うわけです。佐々木はプロ5年間で一度も規定投球回を投げられていないわけですし、いきなりメジャーのローテーションで回るのは無理だと断言します。

 一方、いい部分について。これは逆転の発想なのですが、日本は先発の球数が多くなりがちで、勝負が遅く、作戦も増えますよね。佐々木のピッチングスタイルは、近年は球数が増えましたが、基本的にはひとりの打者に対して3球くらいで勝負してきた。そのピッチングスタイルを取り戻して追求していくのであれば、適しているのはメジャーのほうかなと。

――ピッチングスタイルがマッチする可能性があるということですね。

清水 ただ、メジャーのバッターは攻撃的にどんどん振ってくるので、ボールの質をどんどん上げていかないといけない。日本は守りが重視されますが、メジャーは「どれだけ点を取るか」という野球なので。

 それと、日本では完投、沢村賞などが先発ピッチャーの評価基準というか、"最初から最後まで投げる"という風潮が残っていますが、メジャーは完全に分業制。佐々木はもしかしたら、60球台で7回まで投げられるかもしれませんし、マッチする可能性はあるのかなと。

【メジャーで活躍するための課題】

――とはいえ、シーズンを通してローテーションを守るのは厳しい?

清水 そうですね。慣れていくうちに佐々木のピッチングスタイルがマッチする可能性はあると思いますが、やはりローテーションを守ってシーズンを完走するのはまだ厳しいんじゃないですか。

 ポスティングシステムのルール上、まずはマイナー契約からですし(メジャーの球団が25歳未満もしくはプロ6年目未満の海外の選手を獲得する場合、契約金や年俸の総額が制限され、入団時にマイナー契約しか結べない)、年齢を重ねていくごとに体を仕上げていき、3年後ぐらいにフルローテーションで回すイメージなんじゃないかと。そういうプランがある球団が合うはずです。メジャーに上がって何年の契約ができるのかはわかりませんが、彼の体の強さ次第だと思います。

――体力的な部分をお聞きしてきましたが、技術的には十分にやっていけそうでしょうか。

清水 十分にやっていけると思うのですが、今季投げていた真っすぐの質は、以前に比べて落ちている感が否めません。また、変化球を見極められてしまい、最後に真っすぐを投げるとなった時に、そこまでコントロールがいいピッチャーではないので苦しくなる。そういう点も含め、真っすぐの質は磨いていかなければいけません。

 それと、3年ほど前は真っすぐとフォークでピッチングを組み立て、後からバッターの目先を変えるためにスライダーも多く織り交ぜるようになり、ピッチングの際の体の動きも変わってきたと思うんです。

それに伴い、真っすぐの回転数や伸びなども変化してきたと思いますが、それらを一度リセットして、メジャーのボールにアジャストしなければいけないので相当な努力が必要だと思います。

――昨季まではマメで離脱することも度々ありましたが、その問題はどう見ていますか?

清水 5月や6月など湿度が高くなってくるとマメができやすいんです。アメリカは広いので地域にもよりますが、乾燥している地域であればあまりマメの心配はなくなるかもしれません。ただ一方で、ボールが滑るのであれば肩、肘の負担が増しますし、克服しなければいけない課題は新たに出てくると思います。

――メジャーに挑戦する佐々木投手にメッセージを送るとすれば?

清水 プロアスリートである以上、やはり結果で応えるしかない。入団当初から訴えてきた要望を球団がくみ取り、夢を後押しして送り出してくれるわけですしね。サポートしてくれている人たち、応援してくれているファンの期待に応えるのは、プロとして大事なこと。それだけは決して忘れず、歯を食いしばって腕を振ってほしいですね。

(後編:佐々木朗希のメジャー挑戦を受けて提言 ポスティングやFAのシステムは「見直しが必要」>>)

【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)

1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの中核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。

2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。

編集部おすすめ