F1第12戦イギリスGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
イギリスGPの決勝を前に、シルバーストンには再び雨が降りだした。
午前の雨は予報どおりで、F2やF3といったサポートレースは雨で荒れた展開になった。
だが、予報に反して雨が降り出し、さらに決勝スタートから30分後には別の雨雲が到来する見込みになった。
この空模様を恨めしい表情で見ていたのが、レッドブル陣営だった。
「我々はマシンをほぼモンツァレベルのローダウンフォースに振って、そのうえでマックス(・フェルスタッペン)がポールポジションを獲れるようなマシンバランスに仕上げることができた。技術的な観点から見ても、いい判断だったと思う。この判断は、日曜午前に20パーセントほどの雨の可能性があるものの、その後はドライになるという予報をベースにしたものだった。だが、あれほど激しく、しかもあんなに遅い時間に雨が降るなんて予報は、少なくとも我々の手元にはなかったんだ」(クリスチャン・ホーナー代表)
RB21には超高速のイタリアGPで使用するのと同じ超薄型のリアウイングが装着され、空気抵抗を極限まで削ってストレート速度を稼ぐと同時に、リアのダウンフォースを軽くしてマシンの回頭性を確保していた。それがフェルスタッペンのポールポジション獲得につながったことは、間違いのない事実だった。
ただしそれは、グリップの足りないフロントに合せてリアを削りバランスを取っただけで、全体としてのダウンフォース量は確実に減る。理想はフロントのダウンフォース量を増やしてバランスを最適化することだが、それができないがゆえの対処療法でしかなかった。
ホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーも、現地視察に訪れた三部敏宏社長に話していた危惧が現実になってしまったと振り返る。
「今朝のガレージツアーの際に『期待している』という話と同時にリアウイングの話もして、『できるだけ雨は降ってほしくない』という話はしました。
【ドライなら戦える可能性はあった】
自分たちにとっては苦しいコンディションであることが分かったうえで臨んだレースだった。だが、フェルスタッペンですらタイヤのスライドによるオーバーヒートとデグラデーション(性能低下)に苦戦を強いられ、スピンを喫してしまうほどだった。
そのフェルスタッペン車よりも旧型のフロアを装着した角田裕毅のマシンは、さらにダウンフォースが少なく、より厳しい戦いを強いられるのは当然のことだった。
「デグラデーションがクレイジーでした。ペースはかなりひどくて、特にインターミディエイト(タイヤ=小雨用タイヤ)のペースが全然上がらなくて。最初はよかったんですけど、そこからデグラデーションの進行があまりにもひどかったです」
11番グリッドからスタートで9位に上がり、序盤は集団のなかで走っていたものの、徐々にペースが低下。34周目にDRS(※)が解禁されると、集団のなかで走ってDRSが使える前走車たちと、そこから離れてDRSが使えない角田との差は、さらに広がってしまった。
※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。
路面が乾いてミディアムタイヤに履き替えた終盤は、3位ニコ・ヒュルケンベルグ(キックザウバー)と同等のペースで走り、周回遅れにされることは免れた。
つまり、ドライコンディションであればまだ戦える可能性はあった。だが、削りに削ったリアウイングと旧型フロアでは、ウェットコンディションでドライバーにできることはほとんどなかった。
ヒュルケンベルグと同じように、雨が到来する直前の9周目に先手を打ってピットインするギャンブルを打っていれば、その時点で4位まで上がることはできたはずだ。しかし、ウェットコンディションでそのポジションを維持するだけのペースは、角田車にはなかった。
それでも、予選で実質的にフェルスタッペンの0.1~0.2秒差までギャップを縮められたことに、角田は大きな手応えを感じていた。
「全体的にマシンパッケージが2ステップ古かったので、その影響はかなりあったと思います。それに加えてエンジンの問題(によるロス0.1秒)を差し引けば、Q2のマックスとの0.4秒差はかなりいい結果だと言えますし、少なくともショートランに関して成長できている点には満足しています」
次戦のベルギーGPでは、角田のマシンにも新型のフロアが投入される見込みだ。なかなか目に見える形で表われてこない角田の成長を、次こそは結果で示してもらいたい。