高卒2年目で早くも注目を集めるロッテ・寺地隆成、強肩強打の成長株・DeNAの松尾汐恩、即戦力ルーキーとして台頭する中日・石伊雄太。次代の正捕手候補たちが、厳しいプロの世界で存在感を放っている。

かつて自らも若くしてマスクを被り、名捕手として球界をけん引した伊東勤氏が、それぞれの現在地とこれからの可能性について語った。(選手の成績はすべて7月20日現在)

ロッテ・寺地、DeNA・松尾、中日・石伊 伊東勤が球界の未来...の画像はこちら >>

【類まれな打撃センスの持ち主】

── 高卒2年目捕手、ロッテ・寺地隆成選手が頑張っています。

伊東 プロ1年目の昨年、初打席で初球を二塁打。そして今年、4月18日の楽天戦でプロ初本塁打を含む1試合2本塁打。10代捕手の1試合2本塁打は史上4人目の快挙です。

── 左打ちの寺地選手ですが、右手一本でさばくバッティングはすばらしいです。

伊東 昨年、パ・リーグのベストナインに輝いた捕手の佐藤都志也が、6月に左足甲の死球打撲で一軍登録を抹消されました。その佐藤に代わり、類まれな打撃センスで最近は2番を任されています。

── ロッテの捕手は、ほかにも13年目の田村龍弘選手や、1年目に佐々木朗希投手(現・ドジャース)とバッテリーを組んで完全試合を達成した4年目の松川虎生選手たちがいます。

伊東 ロッテはチーム打率リーグワースト、得点も5位と苦しんでいます。そういうチーム事情もあり、打撃が魅力的な寺地に白羽の矢が立ったのでしょう。ほかの捕手が伸び悩んでいるなか、いい意味で色に染まっていないというか、抜擢して育成していこうという首脳陣の目論見もあると思います。このチャンスを寺地がしっかりつかみ取るかですね。

── 守備面はいかがですか?

伊東 7月2日、高校出2年目の同期・木村優人(霞ヶ浦高2023年ドラフト3位)をリードし、7回途中3失点で先発初勝利(今季2勝目)に導いています。ただ寺地自身、捕手になったのは高校2年秋からで、リードはまだまだ経験を積む必要があります。あと、投球を待って構える際、ミットが上下動します。そういった点を含め、まだまだ課題はありますが、現状では守備よりも打撃に比重を置いているということでしょうね。

── 田村選手も松川選手も寺地選手も、高校から入団して1、2年目で試合に出ていますが、難しいと言われるポジションでいきなりマスクを被れるものでしょうか。

伊東 起用する首脳陣も勇気がいると思います。ただ、私がロッテの監督1年目(2013年)に入団してきた田村の1、2年目より、寺地はすでに多くの試合に出ていますね。

── 伊東さんもプロ入り後、早くから試合に出ています。

伊東 とにかく多くの投手の球を受けることが大事です。そして投手の長所を引き出すために、自分から質問に行って、先輩投手とのコミュニケーションを図ることです。私はベテランの高橋直樹さんからいいアドバイスをいただきました。プロ1年目(1982年)に33試合、2年目に56試合に出場しました。

そして2年目に日本シリーズに出場し、自信を得て、3年目から100試合以上に出場しました。

ロッテ・寺地、DeNA・松尾、中日・石伊 伊東勤が球界の未来を担う「打てる捕手」候補の3人を分析
3年目の今季、プロ初本塁打を記録したDeNAの松尾汐恩 photo by Koike Yoshihiro

【昨季の日本シリーズの経験が大きい】

── DeNAの松尾汐恩選手はいかがですか。

伊東 強肩・強打の捕手として、大阪桐蔭時代は甲子園で活躍。ドラフト1位の鳴り物入りでプロに入ってきました。その実力を、プロ2年目の昨年から遺憾なく発揮しています。球団の思惑どおり、順調に育っていると思います。

 現在、DeNAや巨人は好捕手を複数人抱えています。DeNAは、昨年ベストナインとゴールデングラブ賞を獲得した山本祐大、クライマックス・シリーズのMVPに輝いた戸柱恭孝、ほかにもベテランの伊藤光がいます。そんななか、松尾は昨年の日本シリーズに出場して自信を深めました。

── プロ3年目の今季、すでにキャリアハイの試合数を更新し、プロ初本塁打も放ちました。

伊東 たとえば5月3日の巨人戦、1試合3つの盗塁を刺し、打っても決勝の犠牲フライを放ち、トレバー・バウアーの完封勝利に貢献しました。また、5月16日のヤクルト戦は5番で出場し、本塁打を含む4安打3打点。さらに7月3日には、プロ4年目の小園健太を好リードでプロ初勝利に導きました。

しっかり経験を積んでいますし、さらなる飛躍が期待できますね。

── DeNAはベテランから中堅、若手といい捕手が揃っていますね。

伊東 首脳陣もうれしい悩みですよね。私は、自分がそうだったので個人的には「捕手固定」の考えですが、今のDeNAは山本をメイン捕手として起用しつつも、松尾もしっかり育てている。高いレベルで切磋琢磨して、技術を高められるいい環境だと思います。そして、いざという時は安定感のある戸柱がいる。

── 今後、松尾選手に望むことは?

伊東 今シーズンはここまで阪神が独走していますが、Aクラスをかけた争いは熾烈を極めそうです。昨年、シーズン3位から「史上最大の下剋上」で日本一を果たしたDeNAもこのまま引き下がるわけにはいかない。シーズン終盤にかけてチーム力を上げてくるでしょうし、そのなかでどれだけマスクを被れるか。真価を問われるシーズンになることは間違いないです。

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6月11日の楽天戦で5打数5安打を記録した中日・石伊雄太 photo by Koike Yoshihiro

【ルーキーだけど経験は豊富】

── 伊東さんが2019年から3年間ヘッドコーチを務めた中日でも、フレッシュな捕手が出現しました。石伊雄太選手です。

伊東 近大高専から近大工学部、日本生命を経てプロ入りしたように、即戦力としてもともと高い評価を得ていました。社会人時代は、日本生命出身の福留孝介に打撃を指導されたらしいですね。

── 思いきりのいいスイングで、強い打球を飛ばします。

伊東 6月11日の楽天戦では1試合5安打をマークしています。なかなかできることではないです。

── 強肩でもあります。

伊東 遠投115メートル、送球速度147キロ、二塁送球1.8秒らしいですね。社会人も名門出身ですから、そのあたりは鍛えられていますし、ルーキーとはいえ経験豊富な捕手だと思います。

── リード面はいかがですか。

伊東 7月2日のDeNA戦で、同じくルーキーの金丸夢斗がプロ入り最長となる7回、118球を投げるも、初回の3失点が響いて敗れました。金丸が「初回からもう少し緩急を使えばよかった」とコメントしていましたが、一軍で試合に出続けることで学ぶことはたくさんあります。リードにしても、もっとよくなっていくと思います。

── 中日には木下拓哉選手や宇佐見真吾選手といった捕手がいます。

伊東 木下は5月末に左太ももを負傷してしまいました。ただ、ここまでの石伊の働きを見ていると、木下が復帰したとしてもチャンスは多いでしょう。高橋宏斗をはじめ中日は好投手が多く、広いバンテリンドームを本拠地としており、守り勝つ野球が信条のチームです。そのチームの司令塔として、試合をつくっていってもらいたいですね。


伊東勤(いとう・つとむ)/1962年8月29日、熊本県生まれ。熊本工高3年時に甲子園に出場。 熊本工高から所沢高に転入し、転入と同時に西武球団職員として採用される。 81年のドラフトで西武から1位指名され入団。強肩と頭脳的なリードでリーグを代表する捕手に成長し、西武の黄金時代を支えた。2003年限りで現役を引退。04年から西武の監督に就任し、1年目に日本一に輝く。

07年限りで西武の監督を退任し、09年にはWBC日本代表のコーチとして連覇に貢献。その後も韓国プロ野球の斗山のコーチを経て、13年から5年間ロッテの監督として指揮を執り、19年から21年まで中日のコーチを務めた。

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