夏の甲子園2025 準々決勝からの戦いを現地取材記者5人が予想(後編)
田尻賢誉氏(ライター)低反発バットと酷暑──。現代の夏の高校野球はこれに尽きるといっていい。
低反発バットは導入から1年以上が経ち、指導者、高校生ともにかなり対応しているように感じる。とはいえ、一定以上の角度がつくと打球が飛ばないことには変わりはない。今大会も3回戦終了時点(40試合)で7本塁打にとどまっている(昨年は41試合で6本)。低い打球を徹底できるチームでなければ勝ち上がることは難しい。
準々決勝以降になれば、相手は好投手しかいない。2ケタ安打は望みにくい。となれば、少ない安打で得点することが求められる。となると、大事になるのがアウトの内容。アウトでも走者を進める進塁打が打てるか。
その意味で、最も内容のあるアウトを積み重ねているのが関東一だ。フライアウトは2試合で5つのみ(中越戦はわずか1、創成館戦は4)。できるだけ走者の後ろ(右方向)に打ち、最低でも進塁させようという意識が徹底されている。
創成館戦では一死一塁でフライになった送りバントを相手三塁手が捕球できない場面があったが、一塁走者の藤江馳門は、ボールが落ちるやいなやすぐに二塁に走って進塁した。フライのため、捕球されたら一塁に戻れる位置で打球を見ていなければいけない。他校の走者なら二塁フォースアウトになっていただろう。走塁が鍛えられているのも、無駄なアウトを減らせる要因だ。
走者を進めるという意味では送りバントも必須になるが、関東一はこちらも鍛えられており、ここまで送りバント成功率は9割(10回中9回成功)。一発のある打者はいないが、しぶとくつないで点を取る意識はナンバーワンだ。
心配だったエース・坂本慎太郎頼みの投手陣だが、創成館との試合は東東京大会で2試合のみの登板だった石田暖瀬が先発して5回1失点と好投。石田が創成館戦に近い投球ができれば、昨年あと一歩で逃した頂点が見えてくる。
アウトの内容、バント成功率からいくと、関東一に次いで上位に挙がるのが京都国際と横浜。京都国際は昨夏の甲子園、横浜は今春のセンバツで見せた低い打球を徹底する意識を継続。横浜のバント成功率は9割2分9厘(14回中13回成功)と関東一を上回る。両校ともに地方大会から逆転につぐ逆転で敗戦寸前の試合をものにしてきており、強者ながら簡単に負けないしぶとさも持ち合わせている。
京都国際は昨夏の優勝投手・西村一毅が初戦(2回戦)の健大高崎戦で160球を投げて疲れが心配されたが、3回戦の尽誠学園戦では酒谷佳紀が5回を投げて西村の負担を減らした。関東一同様、2回戦からの登場というのがプラスに働くか。
1回戦から登場の横浜は主戦の織田翔希が初戦の敦賀気比戦、3回戦の津田学園戦を一人で投げ抜いた。いずれも完封する圧巻の投球だったが、敦賀気比戦では雨による1時間7分の中断を挟んでの完投、津田学園戦は体調不良のなかでの完投と、負担の大きいなかで投げ切った。背番号1の左腕・奥村頼人、綾羽戦で先発し146キロをマークした池田聖摩ら豊富な投手陣を抱えるが、織田がかなり疲弊しているのは間違いない。
酷暑のなかの終盤戦を見据え、関東一、京都国際以外にも東洋大姫路、県岐阜商がエースを先発させずに勝利をつかんだ。とはいえ、東洋大姫路・木下鷹大、2試合完投の日大三・近藤優樹、2年生の県岐阜商・柴田蒼亮ともに疲労の色が濃い。沖縄尚学は3回戦の仙台育英戦に備え、2回戦の鳴門戦で新垣有絃を先発させたが、仙台育英戦がタイブレークにもつれ込んだために、エースの末吉良丞は169球を投じた。
投手陣が最も疲弊していないのは山梨学院だが、194センチ、100キロ、最速150キロ右腕・菰田陽生は2年生で高校入学後の完投はゼロ。スポーツ紙では「ネクスト大谷翔平」と言われる逸材だけに、将来を考えて80球前後の投球制限があると思われる。
そうはいっても、酷暑、球数など関係なく、投げ切ってしまうのが高校生でもある。疲労から本来の投球ができず打たれても、逆転してもらって突如よみがえるのも高校野球では珍しいことではない。
はたして、時代に対応した野球が勝つのか、それとも、何もかも覆すミラクルを起こす高校生が現れるのか──。残り7試合、楽しみに観たい。

まずはお詫びから。今年も大会前の優勝予想を外してしまった。自分の力不足を見つめ直し、また精進したい。あらためて、申し訳ございませんでした。
とはいえ、聖隷クリストファーを優勝予想にしたことに後悔はない。高部陸という逸材の存在を、少しでも多くの野球ファンに知ってもらえたら幸いだ。
また、聖隷クリストファーが惜しくも敗れた相手が、私が沖縄尚学とともに「ダークホース」と評した西日本短大付だったことは、せめてもの救いだった。やはり戦力バランスの取れた、骨のあるチームだった。その西日本短大付も、3回戦で東洋大姫路に惜敗。あらためて、一発勝負の難しさを痛感する。
ベスト8が出揃った段階で優勝チームの再予想を......というリクエストを編集部から受けたものの、すでに一度予想を外している身である。すでに戦意は喪失している。ひねくれた見方などせずに、オーソドックスに横浜を挙げたい。
ここまでの戦いぶりは、盤石と言っていい。打線が爆発しているわけではないが、ディフェンス力が高く、安定した戦いぶりが光る。
とくに、今大会23回2/3を投げて無失点の2年生右腕・織田翔希は、投手としてまた一皮むけた感がある。
綾羽との2回戦、リリーフ登板時の初球に投げ込んだ152キロには痺れた。爽快な軌道を描くストレートに、変化球の精度と高い制球力を兼ね備えた実戦性。
ただし、ここからのカギを握るのは、エース番号をつけた奥村頼人になるだろう。ここまで今夏の甲子園での登板は、わずか打者ひとりのみ。4番打者として存在感を見せてはいるものの、最後は度胸の据わった左腕エースの力が必要だ。
勝負どころでワンポイント左腕の片山大輔(おおすけ)の登板があるかも注目したい。今夏はまだ登板機会がないが、片山がワンポイントリリーフに成功すると、直後に横浜打線が爆発するというジンクスもある。勝負の流れを呼び込める存在がベンチに控えているのは、頼もしい。