短期連載 プロ野球の「投高打低」を科学する
証言者:大瀬良大地広島東洋カープ) 後編

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 33歳になった2024年に、自身初の防御率1点台を記録した広島の大瀬良大地。スピードよりも投球術、緩急、駆け引きで勝負する投手にシフトチェンジし、球種も増やして好結果につなげた。

プロ12年目の今季も先発で活躍する右腕に、あらためて"投高"の要因を聞く。

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【1イニングで対応するのが難しい】

「僕が思うのは、今はどの場面で出てくるピッチャーでも球が速いですよね。僕が1年目とか2年目の時は、ビハインドで出てくるピッチャーだと、いろんな球種は操れるけれども、勝ちバターンのピッチャーよりか球速帯が少し落ちるイメージでした。それが今は、基本、リリーバーだったら150キロは超えてくる。そういうところもあるのかなと思いますね」

 これは今回の取材で、楽天の戦略ディレクター・行木茂満も、西武の中村剛也も言っていた話と共通する。以前に比べ、打者にとっての「チャンスピッチャー」がいなくなったと。

「何か、僕はそこに思うところがあります。バッターからしても、たぶんそういうことなんだろうと思いますね。相手が勝っている展開で出てくるピッチャー、とくに僅差で出てくるピッチャーが先発よりちょっとスピードが落ちてくると、『よっしゃ、チャンスがある』って思うかもしれません。

 でも、ビハインドで出てくるピッチャーが先発より速い。さらに、ひとついい変化球があるっていうところで、1イニングで対応しなきゃいけないとなると、やっぱり難しくなるでしょうね。ピッチャー目線からすると、今のバッターの難しさはそういうところにもあるのかなと」

【中距離タイプの打者の増大】

 一方で大瀬良自身、プロ1~2年目当時と今を比べ、マウンド上で感じる相手打者の変化、違いはあるだろうか。

「どうだろう......たとえば、ミスしたボールに対してですかね。『カットボールが抜けてしまった、真ん中にいった!』っていうボールを仕留められる確率は低くなっているかなって。

僕が若い時は、少しでも抜けるとホームランでした。外国人選手はとくにそうなんですけど、少しでも甘くいってしまうと長打っていうところが、今は減ってきているかなあって感じてます。

 もともと僕はホームランを打たれるケースがすごく多いピッチャーだったんですけど(笑)。昨年から球種が増えて、バッターは絞りづらいっていうのはもちろんあるにしても、何かミスしたときの大ケガみたいなことを意識するところが、1~2年目の時よりも少なくなっているかな、と思いますね」

 実際、昨年の大瀬良は155回を投げて被本塁打は5本だった。これまで、被本塁打は1年目の2014年に20本、18年に22本、22年に18本で3度のリーグワースト。比べてみれば激減したのだ。

「もちろん、バッターそれぞれの特性、役割があると思うんですけど、僕が1年目の頃、クリーンアップの選手は一発があって、振りが大きくてブーン!ってくるイメージがありました。今はどちらかというと、つないで、つないで、あわよくば右中間、左中間、抜いてツーベース、スリーベースっていう、中距離タイプの打者が多いのかなと。対戦していてそういうイメージがあります」

 一概には言えないにせよ、経験豊富な主力投手が、10年ほど前と今の中軸打者の違いを実感している。その違いは、球界全体で速い投手が増えたなか、両リーグ合計の本塁打数が年々減少しつつ、三振数も徐々に減っている、という事実と重なるだろう。

「やっぱり、強い真っすぐを大振りしてしまうと確率も悪くなると思うので。となると、バッターが当てにいくほうにシフトチェンジする。

確かにそれはあるかもしれないですね」

【投手が持つデータ活用の優位性】

 では、"投高"の要因のひとつといわれる精密な測定機器。近年、球界で急速に普及してきたが、大瀬良自身はどこまで活用しているのだろうか。

「数字はよく見てます。以前は感覚だけでやっていたのが、今はもう、変化球の曲がり幅とか、リリースの場所とかもわかるので。たとえば、打たれてしまった時と、よかった時と、照らし合わることはあります。『ちょっとボールを離す位置が早かったね。見る時間が、バッターは長かったかもね』とか、そういう確認もできたりするんです。取り組み方がまったく変わりました」

 たとえば、大瀬良にとって最大の武器であるカットボール。その回転数はNPB平均よりも多いとされるが、球質を保つためには回転数の数字自体を意識するのか、それとも自身の感覚を優先するのか。

「それも感覚じゃないです。数字が落ちた場合、そこに対してアプローチしたいなと考えます。トレーニングもそうだし、コンディショニングも、少し張りが強いのかなとか、疲れているかなあ、というところでアプローチしてみて、回転数を戻したいと考えることはあります」

 ひとつの球種の数値の変化を知ることで、自身の体調の変化を予測し、問題があれば解決に向かう。技術とデータ、トレーニングとコンディショニングが一体化した好循環。

こうした測定機器の生かし方は、打者にはなかなかできそうにない。スイングスピードを測定したり、スイングの軌道を修正したりするには有効そうだが。

「もちろん、相手のバッターにも、僕のデータは提供されているんでしょうけど......。とはいっても、バッターは本当に一瞬の世界で受け身なので。結局、感覚でバーってやるところも多いと思うんですね。そういうところも、ピッチャーのほうが手元にいろんな資料があって、すぐ生かせるって考えると、有利なのかもしれないですね」

【空振りが取れなくなった】

 いま現在、リアルにマウンド上から攻めている投手の言葉だから、なおさら「受け身」の打者は埒(らち)が明かない、という気がしてくる。だが、それでも打たれるのが投手だ。"打低"といわれるなかでも、打者だってレベルアップしていると感じる時はあるだろうか。

「先ほどおっしゃった、三振が減っていることに関連して言えば、まったく空振りを取れなくなったというイメージはすごくありますね。もともと僕は三振を多く取れるタイプではないんですけど、これまでの対戦だったら、ここに投げちゃうと一発がある、そのかわり、こっちにしっかり投げられれば三振してくれるっていうのがあったんです。

 でも今は、ここに投げたられ長打になっちゃうかもしれない。で、こっちに投げても三振はしてくれないっていう。

何か、いいところと悪いところの差が狭くなっているような印象があって......。もちろん慣れとかもあるんでしょうけど、空振りを取れないかわりにファウルで逃げられたり、あえてファウルを打たれたり」

 あくまでも試合を見ていての筆者の印象だが、最近、ファウルが増えたと感じる。

「はい。一生懸命ファウルにしてるのでもなく、このボールはこっちにファウル打って、もう少し甘い球を待とうというような。投げていて、『うわっ、嫌だな』『球数使っちゃうな』と、なんかいやらしさみたいなものを感じるようになっています。クリーンアップの選手でも、自分の長打が打てるところにくるまでファウル、ファウル。なかなか崩れたスイングしてくれないなぁ、と思って」

 ミスしたボールでの長打は少なくなった反面、なかなか思いどおりには打ち取れない。数字のうえでは"打低"で、防御率1点台を記録した大瀬良でも、これまでにない難しさを感じている。だからこそ、さらなるレベルアップを目指していく。

「カットボールをできるだけ真っすぐに寄せたいんです。僕のカットボールは、真っすぐに見えて曲がり幅が大きいってなるところが特徴らしいので。もちろん、いい真っすぐがあってこそ変化球が生きると思いますが、いろんなことを考えて新しい球種にチャレンジしたり、数字を見たり。

利用できるものは何でも利用しないと、遅れを取っていく時代になると感じています」

(文中敬称略)

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