「吹っきれたというよりは、やるべきことがシンプルになりました」
「勝ちにこだわるべきか、いろいろ整理していました」
「勝負を分けたところは特にないです」
それらの一徹で観念的な言葉の数々は、彼の生き方も示していた。何かをつかんだ気になっても、その瞬間に失われてしまうからこそ、彼は決して立ち止まらない。スパイクやサーブが決まれば、獲物をしとめた獣のように激しく咆哮したが、すぐに何もなかったように次のプレーと対峙した。失敗しようと、成功しようと、満足も後悔もせず、一瞬を生き続けるのだ。
2025-26シーズン大同生命SVリーグ、西田はチャンピオンシップで大阪ブルテオンを優勝に導き、MVPに輝いた。ひとつの結実だった。
「1年前からピーキングを持ってきて、結果として勝つことができました」
オポジットの西田は淡々と振り返っている。
シーズン開幕前のインタビューで、筆者は西田にこんな質問をぶつけたことがあった。
――昨シーズンはレギュラーシーズン1位にもかかわらず、チャンピオンシップは準決勝で敗退になりました。レギュラーシーズンで44試合も戦っての結果に「不条理だ」という周囲の声もありましたが......。
彼は少しの迷いもなく言いきった。
「(チャンピオンシップに向けて)準備していなかった、ということに尽きると思っています。自分たちは"結果を出すしかない"って割りきるしかなかった。ああだこうだ言っても変わるわけではなかったし、勝てばいいだけの話だったと今は思っています」
西田はそう言って腹を括っていた。"勝てばいいだけ"という割りきった気持ちで、彼は1年をかけた捲土重来を果たしたのだ。
今回のチャンピオンシップファイナルの3連戦で、西田の出来は尻上がりだった。第1戦から第3戦にかけてアタック決定率、サーブ効果率などいずれの数字も上昇。第3戦に至っては、アタック決定率は70%以上、サーブ効果率は33.3%と驚異的な数字を叩き出した。サントリーサンバーズ大阪のエースである髙橋藍に狙いを定めたサーブは、得体の知れない魔物でも憑依したかのような変化だった。
【キャプテンとしての役割も果たす】
〈チームを勝たせる〉
彼はそれを言葉ではなく、行動で示した。
「(ブルテオンはしばらく王座を逃しているが)優勝が遠のいているのは......(ひとつの試合を)"勝っている"で終わっている気がします。貪欲に勝ちを求め続けるべきで、どう勝つ工夫をしたのか、そこを掘り下げることも求めていきたい。
西田はそう語っていたが、勝ちも負けも少しも引きずらなかった。たとえばファイナルの第1戦は相手の勢いを跳ね返せずに落とし、第2戦は劇的な逆転勝利だったが、どちらの試合後も同じ表情をしていた。
「勝ち負けはつくものですが、シンプルに"バレーは面白い"って気持ちでやっています」
西田は悟ったように語るが、平常心でバレーを楽しんでいたのだろう。勝負をかけた第3戦、コートで暴れ回る姿は伝説の豪傑が戦場を闊歩するようだった。その一瞬に、本性が表出した。
「バレーを生きているようなもので、24時間じゃ足りない」
西田はそう言うが、そこまで没頭することで立つことができた境地があるのだ。
今シーズンの西田は、キャプテンという役も見事にやり遂げている。プロフェッショナルな背中を見せることで、チームを鼓舞。オポジットで一撃を託される選手が、自分のことだけでなくチームのことも考えるのは、リスクがある。しかし、彼は重責を背負いながら、それをエネルギーに変換し、スパイカーとして奮起したのだ。
ブルテオンのヘッドコーチであるトーマス・サムエルボもキャプテン西田に称賛の声を送っていた。
「(西田)有志はすばらしくキャプテンを務め上げました。
西田は戦い続けることによって新たなステージに入り、栄冠を手にしたと言える。
ふと、彼とのやりとりを思い出した。
――西田選手は感情量が豊富ですが、その感情のコントロールが最大値のプレーを出すカギだと思いますか?
彼はその問いに対し、明確な答えをしていた。
「入り込みすぎている場合、どう一歩引いて俯瞰できるか。それを意識せずできるようになるには、自分には経験がもっと必要ですね。次のステップは、そこがカギになるかなって」
今回のチャンピオンシップで、西田はバレーを楽しみつつ、勝負を俯瞰できていた。そのおかげで劣勢も覆せた。あるいは、彼にとって劣勢は劣勢ではなく、優勢も優勢ではなかったのかもしれない。逆説的だが、バレーに夢中になることで解き放たれていた。
「僕はキャプテンという立場で、"一番努力してチームの先頭に立たないと"と思っていました。
試合後の会見で登壇した彼は、少し安堵したようにも映ったが、それもつかの間、視線は先に向かっていた。
「見据えていることは、(2028年の)ロスのオリンピックでメダルを取ること。そこに向けてパフォーマンスをすべて向上させるだけです」
会見の最後に、西田は低い声で言った。どんな1点も、どんな1勝も、どんなタイトルも過程でしかない。それらは彼を形づくるが、どれも決定的ではないのだろう。あらゆることを飲み込んで、彼のバレー人生になるのだ。



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