スカウトが見た夏の甲子園2026年の逸材~投手編

「やっと仕事になる選手が出てきたよ」

 スカウトたちがそう言ったのは、大会4日目だった。それまでは、「大学野球で見たいオープン戦があるんだけど......」とこぼしながら、慣例となっている甲子園出場校の全校視察のため、連日甲子園に"通勤"せざるを得ない状況だった。

 今夏は山梨学院・菰田陽生、高岡第一・前田侑大、智辯学園・杉本真滉らドラフト候補が地方大会で続々と敗退。甲子園に出てくるドラフト候補が少ないことは、あらかじめわかっていた。ある地方大会のスタンドで会ったスカウト陣からは、「甲子園、行かなくてもいいんじゃない? まあ、横浜は出てくるか」という声まで聞かれたほどだ。

 では、そんな今大会でスカウト陣の目の色を変えた逸材はいたのか。4人のスカウトに聞いた。まずは投手から。

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【織田翔希が見せた圧倒的ポテンシャル】

 大会ナンバーワンは、文句なしで横浜の織田翔希だ。インパクトが大きかったのは、多くのスカウトが帰ったあとの2回戦・日南学園戦。6回裏無死二、三塁で救援登板すると、先頭打者を申告敬遠して無死満塁。それでも見逃し三振、二塁ゴロ併殺打で無失点に切り抜けた。この登板で甲子園球場のスピードガン表示では最速となる156キロをマーク。準々決勝の花巻東戦でも156キロを計測し、10奪三振で完封した。

「186センチあって、150キロ中盤を投げられて、140キロのフォークが投げられる。

この3つのポテンシャルだけで1位ですよ」(パ・リーグスカウトA氏)

「間違いなく高校生トップクラス。というか、別格と言っていい。今年豊富な大学生を入れても一番じゃないか。平均球速が150キロを超えるのは立派。変化球も多彩だし、プロでも決め球になる変化球を持っているよね」(セ・リーグスカウトB氏)

 ドラフト1位は確実。過去の高校生投手と比べても上位クラスの逸材であることは間違いない。ただ、期待が大きいからこそ、スカウト陣の注文も多くなる。

「カーブとチェンジアップを投げなくなった。カットボールが130キロ後半、フォークが140キロ、ストレートが150キロ前後。球速帯が似通っていて緩急がないので、150キロ中盤なのにバットに当てられてしまう。高校生相手なら、もっと空振りが取れてもいいんだけど......」(パ・リーグスカウトC氏)

「試合中なのにフォームをころころ変える。初戦ではグローブも変えていました。

バックアップに行かなかったり、そのあたりはちょっと気になりますね」(セ・リーグスカウトD氏)

 いい素材ほど、あら探しをしてしまうのがスカウトの性。それ以上に気になるのが、直接MLBへ行く可能性が取り沙汰されていることだ。それには「横浜高校OBのスカウトが何人もいるので、その方たちになんとかしてもらうしかないですね」と苦笑いを浮かべていた。

【夏の甲子園2026】スカウトの投手評「別格」の横浜・織田翔希ほか、「2年後に一軍で投げている」と絶賛されたのは?
日本文理戦で151キロをマークした大分商の平田玲翔 photo by Ryuki Matsuhashi

【スカウトが惚れた平田玲翔の将来性】

 評判どおりの実力を発揮した織田に加え、今大会で大きく評価を上げたのが大分商の平田玲翔(れいと)だ。じつは冒頭の「やっと仕事になる選手が出てきた」というスカウトの言葉は、大会4日目に登場した平田を指していた。

「ストレートがピュッときて、スライダーも曲げられる。リリースで力を伝えるのがうまいよね。ベースの上での強さがある。2年目の後半には一軍で投げられるんじゃないか」(パ・リーグスカウトA氏)

「体の使い方がうまくて、伸びそうなピッチャーだよね。ヒジが上がらないところはあるけど、許容範囲。細いけど身体能力は抜群。150キロが出るだけじゃなく、フォーク、スライダーもトップクラス。チェンジアップもある。

高卒でも指名されるけど、大学に行けば4年後にドラフト1位を目指せるレベル」(セ・リーグスカウトD氏)

 プロ選手を多く輩出している大分商とはいえ、地方の公立校とあって、まだ洗練されていない部分もある。敗れた英明戦では、一死一、三塁の投手ゴロで一塁へ送球し、その間に三塁走者の生還を許す判断ミスもあった。

「鍛えられていないし、厳しいことを言われていない部分があるので、それを嫌がる人もいるかもしれない。技術的にもヒジが上がってこないので、疲れたら体が横振りになってコントロールが暴れる。まだまだやることは多い。入る球団、指導者によって大きく変わると思います」(セ・リーグスカウトB氏)

【夏の甲子園2026】スカウトの投手評「別格」の横浜・織田翔希ほか、「2年後に一軍で投げている」と絶賛されたのは?
ヒジ痛の影響もあり本来の力を発揮できなかった沖縄尚学・末吉良丞 photo by Ryuki Matsuhashi

【本調子ではなかった末吉良丞のスカウト評】

 昨夏の甲子園優勝投手、沖縄尚学・末吉良丞は、選抜以降のヒジ痛もあり、本調子ではなかった。期待された横浜・織田との投げ合いも、3回6安打3失点。力を出しきれないまま甲子園を去った。

「完成度が高く、去年の時点で『ドラフト1位、高校生だけど即戦力』と思っていました。今年はヒジが痛かったのか、球速も落ちて、スライダーはカーブのようになってキレもなくなっていた。ちょっとかわいそうでしたね」(セ・リーグスカウトB氏)

「去年は140キロ台中盤が出て、スライダー、チェンジアップもよかった。ゲームメイクできるのが売りのピッチャーでした。今年は状態が悪いのか、真っすぐが走らない、コントロールはアバウト、決め球も微妙でした。

ヒジの状態もあるだろうけど、あまり伸びしろは感じませんでしたね」(パ・リーグスカウトC氏)

 試合後、末吉本人も進路について迷いがあることを口にしていた。

「もともと完成度が高いピッチャー。大きく伸びるタイプではない。大学、社会人など、そのカテゴリーでトップになってからプロ入りしたほうがいいタイプかもしれないね。球速が落ちてきていることを見ると、現段階では様子を見たほうがいいかもしれない。ただ、手術をする、しないにかかわらず、プロのほうがリハビリを含め環境がいいのは事実。しっかり考えて進路を決めてほしいね」(セ・リーグスカウトD氏)

 昨年から甲子園を沸かせ、「高校ビッグ4」と呼ばれた織田、末吉、菰田、そして聖隷クリストファー・高部陸。その高部は早々に大学進学を表明している。

「バランスがよくて出力を出せる。去年から騒がれながら、3年夏に成長して甲子園に戻ってきたのは立派。ストレートのラインが出るし、糸を引くようなボールを投げられる。スライダーもちゃんと投げられる。

高卒でも上位で指名するところはあるでしょう」(セ・リーグスカウトB氏)

 ただ、186センチの織田、188センチの平田に対し、高部は175センチと小柄。昨夏から秋にかけての登板過多もあり、ヒジの状態がよくなかっただけに、プロ側にも「じっくり鍛えてほしい」という見方がある。

「去年はスピードとキレだけ。勢いだけで投げている感じだったけど、今年になって狙ったところに投げられるコマンド力がついてきた。ただ、現段階ではプロのストライクゾーンで勝負できるレベルではない。それに勝負球にできる変化球もないので、大学に行くのは正解でしょう」(パ・リーグスカウトA氏)

「試合をつくる能力が高いですよね。150キロが出ると聞いていたのですが、県大会より出力が下がっているのが心配。変化球を投げる際、体が横振りになるので、今のままでは苦労するかもしれないですね。まだ勢いで投げているイメージがあるので、大学でしっかり鍛えてほしいですね」(セ・リーグスカウトD氏)

【夏の甲子園2026】スカウトの投手評「別格」の横浜・織田翔希ほか、「2年後に一軍で投げている」と絶賛されたのは?
中京のエース・鈴木悠悟 photo by Ryuki Matsuhashi

【スカウトが追う"4年後の候補"】

 ビッグ4以外で大会前から注目されていたのが、中京の鈴木悠悟だ。だが、霞ケ浦戦では5回2/3を6安打5失点(自責3)。不完全燃焼に終わった。

「指先の感覚がいいですよね。

再現性の高いフォームでコントロールもいい。右バッターのアウトコースにしっかり投げられるし、完成度は高いですよね。ただ、球が軽いように映ったのは気になりますが......」(パ・リーグスカウトC氏)

「体の使い方がうまい。ストレートも140キロ台中盤は出るし、変化球も多彩。大学に行くと重宝されるタイプだと思います。プロに行くなら、もう少し出力を上げたいところですね」(セ・リーグスカウトB氏)

 このほかで名前が挙がったのが、選抜で8強入りし、今夏も仙台育英を1点に抑える好投を見せた花咲徳栄・黒川凌大だ。

「仙台育英戦はベストピッチでしょう。粘られてもフォアボールを出さなかったし、闘志を前面に出して気持ちの強さを見せた。評価を上げたと言っていいでしょう。ただ、速い球を投げたいという気持ちが強く、頭を振りすぎる。バランスよく投げられるようになれば、もっといい球がいくと思います」(パ・リーグスカウトA氏)

 3季連続出場の高川学園・木下瑛二は、高岡商戦で帽子を飛ばしながら力投し、甲子園初の完投勝利をマークした。

「体は強そうですね。ただ、上体がぶれるフォームで、本塁方向にベクトルが向いていない。ロスが大きく、もったいない。ピッチングに関して、何で勝負するのかが見えてこない。試合をまとめる能力はあるので、大学や社会人で経験を積んでからプロを目指すものありかもしれないですね」(セ・リーグスカウトD氏)

 また、智辯和歌山戦で150キロをマークした社の岩井秀耶は進学予定だ。

「球が強く、フォームもボールの軌道も独特。面白い存在です。4年後が楽しみですね」(パ・リーグスカウトC氏)

 ほかにも、天理の長尾亮大、新田の築山朔弥、中京の西岡海心、福永龍矢ら、「大学や社会人で経験を積めば面白そう」とスカウトが語る素材は多くいた。

 大会前は「不作」と思われていたが、いざ始まってみれば織田という別格の存在が力を見せつけ、平田のように甲子園で一気に評価を高めた投手もいた。一方で、末吉や高部のように、この夏の結果だけでは測れない素材もある。

 はたして織田は日本のプロ野球を選ぶのか。それとも海を渡るのか。そして、この夏に評価を上げた投手たちは、数年後にどんな姿でプロの世界に現れるのか。甲子園での「答え合わせ」が終わっても、スカウトたちの仕事はまだ続いていく。

野手編につづく>>

田尻賢誉●文 text by Masataka Tajiri

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