2度目のチャンスが巡ってきた角田裕毅(レーシングブルズ)は、今週末に向けて「楽しむ」という言葉を一度も使わなかった。

 オランダGPでスムーズな順応と好走を見せたからこそのチャンスだ。

【F1】角田裕毅、2度目のチャンスに準備万端 レーシングブル...の画像はこちら >>
 2日前に知らされて、たった1日だけの準備で臨んだ前回とは違う。今回はイザック・アジャの回復が間に合わない可能性があるとわかったうえで、万一に備えてファクトリーでイタリアGPに向けたシミュレーター作業を行なっていた。その最中に出走決定を知らされた。

「いつものレース週末と同じようにすごく落ち着いています。1週間前のオランダGPの時はすべてが急でしたけど、今回はイザック(・アジャ)のケガのこともわかっていたので、また乗る可能性があることもわかっていました。あの時よりは準備ができていると言えます。

 この1週間は、2026年に入ってから一番ヘルシーに過ごした1週間だったかもしれません。それくらい、すごく準備万端という気分です。過去のどのレースよりも、今が最も準備ができていると感じていますね」

 オランダGPに代役出走が決まった角田は、とにかくF1を楽しむということを念頭に置き、ルーキーのような気分で臨んだ。限られた時間のなかで最大限に2026年規定のマシンを学ぶために、1周1周を無駄にしないように意識したそのアプローチが好結果につながった。

「レース後のデブリーフィングで『OK、楽しんだよ。これでシートを返すよ』と言ったら、アラン(・パーメイン代表)が『いやいや、来週また乗ってもらうことになるかもしれないから、準備しておいてくれよ』って言って。

なので、前回のレースで彼らからの信頼がさらに深まったんだと感じました。

 もし週末の出来が悪ければ、どんな結果になっていてもおかしくなかったわけで、今週だって呼ばれていなかった可能性もありますからね。そういう意味でも、今週またチャンスをもらえたというのは、とてもポジティブなことだと思います」

【モンツァで最も速く走る方法とは?】

 しかし、このイタリアGPへの代役出走は、前回のオランダGPとはまったく違う挑戦になる。

 ストレートが短く、エネルギー切れがほとんど発生しないオランダGPのザントフォールトでは、2026年型パワーユニットの弱点はほとんど出なかった。

 だが、イタリアGPの舞台モンツァはF1屈指の全開率を誇り、2026年型パワーユニットにとって最も厳しいサーキットと言える。4本の長いストレートの後半では早々にディプロイメントが切れ、車速が落ちていく。そして従来のようなハードブレーキングではなく、長くソフトに踏んでできるだけ回生を得る。それが最も速く走る方法であり、適応が難しいところだ。

 ある程度本能のまま走れたオランダGPに対し、イタリアGPでは、より頭を使ってマシンに適応する能力が求められる。

「オランダは幸運なことにエネルギーマネジメントが最も簡単なサーキットのひとつでしたし、それがすごくスムーズにマシンに適応できた理由のひとつだったと言えると思います。

 でも、今回は最も難しいサーキットのひとつです。その違いは、シミュレーターでもはっきりと実感しました。この2026年規定の一番難しいところが、エネルギーマネジメントだったり、早めのブレーキングだったりして、練習するのが難しいんです」

 予選アタックはある程度の"正解"があり、事前にフリー走行で試したうえで臨めるからまだいい。

しかし決勝では、ライバルたちのエネルギーの使い方に合わせて反応し、もしくは事前に読んで動かなければならない。

 すでに半年間にわたってそれを身体で覚えてきたライバルたちに対し、角田は頭で考えて適応していかなければならない。それも、決勝のぶっつけ本番のなかでだ。

「ショートランに関しては、そんなに心配はしていません。フリー走行で練習できますし、どういうことをやるべきか、というのは把握したうえで臨めますし、自分のことだけに集中すればいいので。でも、レースでは周りの動きを想定して動かなければならないので、しっかりと準備しておかなければいけない。オランダGPと違う部分はそこだと思います」

【モンツァは自宅から通える準地元】

 オランダGPで適応能力とバトル能力を見せたことで、既存の交渉相手との話は少しポジティブな方向に進んだという。まだ決定的な話には至っていないというものの、F1残留を最優先に据えて交渉を続ける角田にとって、オランダGPに続いてこのイタリアGPでどんな走りを見せられるかが大きなカギになってくる。

 レーシングブルズのマシンはモンツァに合っているはずで、なおかつ今週末に大きなアップデートを投入するだけに、その効果にも期待が集まる。

 しかしモンツァのようなサーキットでは、たちまち強いクセを見せる2026年型マシンに適応する必要がある。レギュラードライバーたちが開幕前テストからシーズン序盤戦にかけて苦戦していたような、オランダGPとはまったく違う挑戦が角田の前に待ち構えている。

 まずはFP1で走ってみてからではあるものの、今週末はポイント獲得を目指したいと角田は語る。

「そうですね......(目標は)FP1を走ってみてからですね。エネルギーマネジメントがどのくらい難しいか、まだ全然わからないので。マシンのペース自体はいいと思いますし、アップデートを投入するので、その効果を確認するのが楽しみです。それ次第ではありますけど、もちろんトップ10を目指したいですね」

 ミラノに住む角田にとって、モンツァは自宅から通える準地元レース。だが、決して相性のいいサーキットではない。

「いい成績は残したいです。なぜなら、僕はモンツァでいいレースができたことがないので(苦笑)。5年間で3回リタイア、そのうち2回はスタートすらできていませんから。

 でも今回、こういうチャンスをもらえて、もしかするとモンツァで走るのは最後になるかもしれないですし、ここは僕にとって第2の故郷みたいなもので、イタリアもイタリアの人も大好きなので、今年はいい結果を残せればと思っています」

 前戦オランダGPの繰り返しなどではなく、それとはまったく異なる大きなチャレンジが待ち構えている。そのハードルを角田がどのように乗り越えていくのか。その先にどんな結果が待っているのか。まさに角田の真価が問われる週末になる。

 それがわかっているからこそ、角田は「楽しむ」という言葉は使わなかった。

米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya

編集部おすすめ