UEFAチャンピオンズリーグに挑む
日本人プレーヤーの現在地(前編)

 ヨーロッパ最高峰の舞台「チャンピオンズリーグ」に、今シーズンも多くの日本人選手が挑む。なかでも注目を集めるのが、プレミアリーグデビュー戦で鮮烈な印象を残した鈴木彩艶(以下、ザイオン)だ。

 数年前まで、日本人GKがプレミアリーグやチャンピオンズリーグの舞台でゴールを守る未来を、どれだけの人が想像できただろうか。しかし今、ザイオンは名門アストン・ヴィラの守護神として、その景色を現実のものにしようとしている。

 9月8日、チャンピオンズリーグのリーグフェーズが開幕する。驚異的な身体能力と正確なキックを武器に、世界屈指のアタッカーたちを迎え撃つ。前編では世界一のGKを目指す24歳の可能性に迫る。

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【チャンピオンズリーグ】鈴木彩艶は「モンスター」 バルセロナ...の画像はこちら >>
 8月31日のアーセナル戦で、鈴木彩艶は実に見事なプレミアリーグデビューを飾った。

 至近距離から放たれたヘディングシュートを難なく弾き出し、アーセナルのプレスもどこ吹く風。右足でも左足でも、精度の高いミドルパスやロングパスを何度も通した。

 クロスへの対応を一度だけ誤ったものの、そのミスを引きずらず、むしろ発奮材料に変えたかのようなプレーは、外国人選手に厳しいイングランドのメディアも非常に高く評価している。

「落ち着きがあり、フィードもすばらしい」『BBC』
「1対1の対応は申し分なく、キックの精度も高い」『Aston Villa Review』
「正確なキックで局面を打開した」『Sky Sports』
「実に堂々としていた」『The Independent』
「スズキのキックは新しい武器になり得る」『The Guardian』

 近代フットボールのGKに必要不可欠とされる「キックの精度」が特に絶賛されている。『Aston Villa Review』が触れた1対1の対応は、おそらく75分のシーンだ。

 中盤でボールを回され、DFラインの背後をアーセナルのカイ・ハヴァーツに突かれた。

オフサイドではあったものの、ザイオンは威風堂々と構え、事もなげに防いでいる。「どうやって止めたんだ?」ハヴァーツも臍(ほぞ)を噛んだ。日本代表の正GKはデビュー戦で強烈なインパクトをもたらしている。

【目指すべきGK像はエデルソン】

 長らくアストン・ヴィラのゴールを守ってきたエミリアーノ・マルティネスがチェルシーへ移籍し、その後継を担う立場となった。2022年ワールドカップ王者のアルゼンチンが誇る名手の後釜に、見ず知らずの日本人がやってきたのだから、当然のように周囲は不安視する。

 しかしたった1試合で、ザイオンはサポーターの心をつかんだようだ。

「world's number one GK ZION SUZUKI」

 昨シーズンまでエミリアーノ・マルティネスに贈られていたチャントで、ザイオンは称えられていた。試合後、スタンドに向かって深々と一礼したザイオンの礼儀正しい振る舞いも好感を持たれたようだ。SNSでは「ファン全員が一斉にお辞儀を返したら最高じゃないか」といった声も上がった。

 アストン・ヴィラに合流して数日しか経っていないのだから、周囲との連係が整うまでには時間が必要だ。チームメイトたちはザイオンの特徴を知らず、ザイオンも彼らの個性をつかんでいない。

 しかし、この問題は試合を重ねていけば解決できる。彼の武器でもある正確なフィードから、ニコラス・ジャクソンやヨハン・マンザンビが決定機をつかむシーンはいずれ必ず訪れる。

 そして目指すべきGK像は、エミリアーノ・マルティネスではなく、マンチェスター・シティで一世を風靡したエデルソン(現フェネルバフチェ)だ。彼は70~80メートルにもおよぶロングフィードで幾度となくビッグチャンスを創出した。ザイオンはブラジル代表としてもプレーした名手の域に達するほどのキック精度を備えている。

 また、プレミアリーグならではの激しいボディコンタクトに関しても、まったく不安はない。190cm・98kgの肉体は、まさに筋肉の鎧(よろい)そのものだ。アストン・ヴィラのキャプテンで、サポーターが絶大の信頼を寄せるジョン・マッギンも次のように語っていた。

「ザイオンはモンスターだよ」

【11月にバルサ戦、12月にPSG戦】

 チャンピオンズリーグは、まさに「モンスターの品評会」でもある。名将が駆使する高度な戦略・戦術もさることながら、異常な強度で戦い続ける選手たちの肉体的な魅力も、また軽視できない。レアル・マドリードのキリアン・エムバペ、マンチェスター・シティのアーリング・ハーランド、パリ・サンジェルマンのウスマン・デンベレなどは「人間離れ」したフィジカルの持ち主だ。

 今シーズン、ザイオン所属のアストン・ヴィラはチャンピオンズリーグに出場する。9月8日から開幕するリーグフェーズでの日程は以下の通り。

第1節=2026年9月8日 クラブ・ブルッヘ(ベルギー)A
第2節=2026年10月14日 フェネルバフチェ(トルコ)H
第3節=2026年10月21日 バイキングFK(ノルウェー)H
第4節=2026年11月3日 バルセロナ(スペイン)A
第5節=2026年11月24日 ガラタサライ(トルコ)A
第6節=2026年12月8日 パリ・サンジェルマン(フランス)H
第7節=2027年1月19日 ドルトムント(ドイツ)H
第8節=2027年1月27日 スラヴィア・プラハ(チェコ)A
※現地時間。H=ホーム、A=アウェー。

 対面する相手は、いずれ劣らぬ強敵ぞろいである。ガラタサライはレロイ・サネ、ヴィクター・オシムヘン、ラファエル・レオンという強力な3トップと中盤にイルカイ・ギュンドアンを擁し、本拠地ラムズ・パークでは、対戦相手の神経を逆なでするほどの大歓声が待ち受ける。

 だがやはり、ザイオンの活躍がアストン・ヴィラの命運を握る試合といえば、バルセロナ戦とパリ・サンジェルマン戦だろう。

 創造力あふれるボールタッチで対戦相手の守備組織を根本から破壊するラミン・ヤマル、高品質のフリーランを絶え間なく繰り返すラフィーニャ、崩しの局面で違いを見せつけるフェルミン・ロペスなど、バルセロナ攻撃陣は多士済々だ。

 一方、パリ・サンジェルマンは先述のデンベレに加え、世界最高の左ウイングとの呼び声も高いフヴィチャ・クヴァラツヘリア、独特の技巧で異彩を放つデジレ・ドゥエ、レフトバックながら驚異的な攻撃力を誇るヌーノ・メンデスなど、圧倒的な選手層でチャンピオンズリーグ3連覇を目指している。

【市場価値はどこまで上がる?】

 両チームは優勝候補の本命と対抗格であり、ザイオンも無傷で乗り切るのは至難の業だ。大量失点することになれば、大歓迎したメディアやサポーターが手のひらを返すかもしれない。

 だが、ザイオンの潜在能力をもってすれば、完封することも不可能ではないはず。そうなれば、メガクラブは移籍リストのトップに「ZION SUZUKI」の名を記すだろう。

 リバプールのアリソン・ベッカー(33歳)、先に触れたチェルシーのエミリアーノ・マルティネス(34歳)、レアル・マドリードのティボー・クルトワ(34歳)あたりは、キャリアの終盤を意識する年齢に差しかかってきた。バイエルンのマヌエル・ノイアー(40歳)も、今シーズン終了後に引退する可能性を示唆している。彼らの後釜に、24歳の日本人が座ることになれば痛快だ。

 もちろん、これからプレミアリーグでもチャンピオンズリーグでも痛い目に遭うことはあるだろう。だが、すべての名手は艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて今日の地位を築いている。GKはフィールドプレーヤーに比べて現役生活が長い。この先、数多くの経験がザイオンをさらに飛躍させるに違いない。

 ザイオンの市場価値も、とんでもない勢いで跳ね上がってきた。2025年3月上旬には900万ユーロ(約17億円)だったが、同月下旬には1400万ユーロまで上昇。現在は3000万ユーロに達している。アストン・ヴィラがパルマに支払う移籍金は3000万ユーロで、出来高を含めると最大3500万ユーロ(約64億5000万円)と報じられている。

 数年後には5000万ユーロ(約92億円)、いや、2018年にアスレティック・ビルバオからチェルシーへの移籍で成立したケパ・アリサバラガ(現アーセナル)の8000万ユーロ(約147億円)までいくことも......。

 決して遠くない未来に、「ZION SUZUKI」はさらなるビッグネームになるだろう。世界一のGKが日本人!? プライドをくすぐってくれるじゃないか。

(つづく)

◆後編>>「鈴木彩艶」以外で世界に名前を広めそうな日本人は?

粕谷秀樹●取材・文 text by Hideki Kasuya

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