◇報知プレミアムボクシング▽激闘の記憶 第17回 WBO世界スーパーフライ級(52・1キロ以下)タイトルマッチ12回戦 〇井上 尚弥(KO2回3分1秒)オマール・ナルバエス●(2014年12月30日、東京体育館)

 井上尚弥(大橋)が約12年前に当時世界最速となるプロ8戦目で2階級制覇を達成した試合。WBC世界ライトフライ級王座を返上した井上は、「アルゼンチンのレジェンド」といわれるWBO世界スーパーフライ級王者オマール・ナルバエスに挑み、初回に2度、2回にも2度倒し圧巻のフィニッシュ。

世界タイトルを2階級で27度防衛したナルバエスを完膚なきまでに打ちのめした。ライトフライ級から2階級ウェートを上げた尚弥が「リアル・モンスター」となった瞬間であり、世界中に「ナオヤ・イノウエ」の名が知れ渡り、伝説がスタートした。(敬称略)

 ライトフライ級からフライ級を飛び越え2階級ウェートを上げた尚弥は、高い壁に挑んだ。フライ級時代に16度、スーパーフライ級では11連続防衛中という王者・ナルバエスへの挑戦。大手ブックメーカーの掛け率では、尚弥がやや有利という数字は出ていたが、危険な相手という声が多くを占めた。ゴングが鳴ると、そんな不安は一瞬にして消え去った。18歳上の王者に対し、21歳の怪物は臆することなく前に出た。まずは、あいさつ代わりに右ボディーをヒット。ナルバエスの表情が変わる。そして開始約30秒、右ストレートであっさりとダウンを奪う。再開後は左をテンプルにあて2度目。あと1回ダウンを奪えばKO勝ち(スリーノックダウン制)という状況を早くも作り出す。

ナルバエスはリングを回り、回復のための時間を稼ぎ、何とか終了のゴングを迎えることができたのだが…。

 2回、尚弥はさらにプレッシャーを強めた。ジャブを打ち、ボディーを攻めて前に出る。左でこの試合3度目のダウンを奪うと、再開後も攻めて、攻めて、攻めた。下がることしかできない王者がロープを背にすると、渾身(こんしん)の左ボディー。ナルバエスは苦痛に表情をゆがめ、膝からキャンバスへと崩れ落ちた。レフェリーのカウントに必死に立ち上がろうとするが、立てない。10カウント、361秒の圧勝劇。名王者・ナルバエスを相手にここまで実力差を証明するとは、誰が予想しただろう。あまりのパンチの強さに、ナルバエス陣営はグローブの中に何かを入れているのではないかと疑い、試合後のリング上でチェックに行ったほどだ。それほど尚弥のパンチは桁違いであり、これまで対戦した相手とは比較にならないほどの破壊力を持っていた。

 ナルバエスは言った。

 「ドネアは私に一度も効いたパンチを与えなかったが、井上のパンチは上の階級の重さを感じた。彼には大きな未来が待っているだろう」

 尚弥戦の3年前に対戦し、判定負けしたノニト・ドネア(フィリピン、元世界5階級制覇王者)以上であることを証言した。

 アマ時代から無敵の強さを誇り、怪物と騒がれプロ入りした。6戦目であっさり世界王座(WBC世界ライトフライ級)を獲得するが、減量苦からベストな状態でリングに上がることはできなかった。「ボクシングは減量を苦しむスポーツではない」と8キロ減量していたライトフライ級とは決別。2階級上げるためにパワーアップを図った。それまでは週3回だった筋トレを、日々のジムワークにも織り交ぜた。幼い頃から継続してきた自宅近くの緩やかな坂で乗用車を押すトレーニングも、軽自動車から約300キロ重い普通自動車に変えた。結果、恐るべき強さにバージョンアップした姿を証明した。

 「防衛戦、統一戦…。王者として誰の挑戦でも受ける」と21歳の若武者は貫禄十分に口にした。そして、ここからスーパーファイトへとかじを切っていく。

バンタム、スーパーバンタム級での4団体統一。世界戦28連勝、世界戦最多23KO。さらにパウンド・フォー・パウンド1位と、すべての栄冠を手にした。来春予定される次戦はWBA世界バンタム級スーパー王者のジェシー・ロドリゲス(米国)か、それとも5階級制覇を目指しフェザー級王者への挑戦なのか。デビューから14年間負けなし。日本ボクシング界の最高傑作であり、生きる伝説となった尚弥の挑戦は、まだまだ続く。

 ◇井上 尚弥(いのうえ・なおや) 1993年4月10日、神奈川県座間市生まれ。小学校1年からボクシングを始め、高校3年で全日本選手権優勝。2012年10月にプロデビュー。4戦目で日本ライトフライ級、6戦目でWBC世界同級王座を獲得。その後、スーパーフライ、バンタム、スーパーバンタム級を制し4階級制覇を達成。バンタム、スーパーバンタム級では主要4団体の王座を統一。

プロ戦績は33戦全勝(27KO)。身長165センチの右ボクサーファイター。

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