次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線
第28回 仙台育英・有本豪琉
── 有本豪琉(ありもと・たける)選手は、このままいけば高卒でドラフト候補になれるんじゃないですか?
秋季東北大会2回戦(10月13日・仙台育英7対0光南)の試合後。仙台育英の須江航監督に、聞かずにはいられなかった。
須江監督は「可能性はあると思います」と即答し、こう続けた。
「身長(175センチ)があと5センチあれば、説得力が出るんですが。(スカウトの)みなさん、サイズ面を気にされるので。でも、バッティングは力強くなっているし、守備も地肩が強いんです。今は砂(涼人)がいるのでセカンドをやっていますが、ショートも守れます。早熟なタイプでもないですから、ひと冬越えてもう一段体が強くなってくれば、十分にドラフト候補になってくるはずです」
【スーパー1年生が遂げた驚異の進化】
有本について「スーパー1年生」と記憶する高校野球ファンは多いだろう。昨夏の甲子園、有本は1年生ながら仙台育英の二塁手として大舞台を踏んだ。さらにキーストーンコンビを組んだのも、同じ1年生の砂涼人。2回戦の開星(島根)戦で、「アリスナコンビ」は超高校級のビッグプレーを見せた。
二遊間を抜けそうな打球を有本が逆シングルで好捕、すぐさま二塁ベースカバーに入った砂へとグラブトスを送る。送球を受けた砂は反転しながら体勢を一塁へ向け、すぐさま転送。ダブルプレーを完成させた。往年の名コンビ「アライバ(荒木雅博、井端弘和/元・中日の二遊間)」を彷彿とさせる美技だった。
このプレーが鮮烈だったために、有本について「守備がうまい選手」というイメージを抱くファンも多いかもしれない。しかし、その後の有本は劇的な変貌を遂げている。
今年6月、仙台育英のグラウンドを訪れた際に衝撃を受けた。打撃練習中、屈強な体躯の右打者が放つ強烈な打球に釘づけになった。上背こそ乏しいものの、鋭いターンで弾き返す打球は一瞬で外野上空へと飛んでいく。今秋のドラフト候補だった田山纏(まとい)に「あの選手は誰ですか?」と尋ねると、「有本ですよ」と教えてくれた。1年時よりも体つきが大きく変わっていたため、同一人物とは信じられなかった。
1年時は69キロだった体重が、その時点で79キロまで増量していた。有本は「1年時にフィジカルが弱いことを痛感したので」と、肉体改造に着手したという。
「1年秋に東北大会で聖光学院に負けてから、自分の体に向き合ってきました。トレーニングはもちろんですが、一番こだわったのは睡眠時間です。最低でも8時間は寝られるように、22時~22時半には眠るようにしていました」
【"アリスナコンビ"誕生秘話】
ひと冬越えると、見違えるように打球の質が変わっていた。有本は「泳がされても、差し込まれても、詰まっても、打球が外野の頭を越えるようになりました」と語る。
もともと左翼方向に引っ張るのは得意だったが、須江監督から「逆方向に打つ練習をしたら」とアドバイスを受けたことで、打撃面の進化が加速する。
「いつでも逆方向に打てる自信がつきました。インコースは回るだけで、引っ張って強い打球が打てますから」
東北大会2回戦では、有本は左翼方向へダメ押しとなる2点適時二塁打を放っている。その3日後には、花巻東との準々決勝で高校通算15本目の本塁打を放った。その打球スピードの速さは、高校球界で異質と言っていい。
持ち前の好守に、打力が身について鬼に金棒。てっきりそんな心境なのかと思いきや、有本は意外な本音を打ち明けた。
「自分、守備が苦手で高校に入ってきたんです」
捕球にも送球にも自信がなかった。そんな時、同じ1年生に格好のお手本がいることに気づいた。二遊間のパートナーになる砂である。砂は楽天ジュニア、侍ジャパンU−15代表とエリート街道を歩んでおり、すでに熟練の技術を持っていた。
「砂はいつも脱力していて、落ち着いて打球をさばけるんです。
1年夏の甲子園で披露した砂との「アリスナプレー」について聞いても、有本は「よくあんなプレーができたなと思います」と、まるで他人事のように振り返る。あの美技について聞かれるたび、「たまたまです」と答えているという。
「今また同じ打球が飛んできても、できないと思います。自分で思い出してみてもびっくりします」
甲子園という大舞台が、いつも以上の力を引き出したのだろうか。それでも、有本が地道に培ってきた守備力は、今や高いレベルにあるのは間違いない。
【先輩たちの指名漏れで知るプロへの険しさ】
有本自身は、高卒でプロを狙う野心はあるのか。そう尋ねると、有本は神妙な表情でこう答えている。
「まったく考えたこともないので、何とも言えないです。自分はまだレベルが低いですから。勝負どころでの決定率もフィジカルも足りないし、野球勘もまだまだ。野球に対する考え方も、もっと上げないといけないと思っています。
仙台育英という高い次元でもまれているからこそ、プロという世界がいかに険しいかを自覚しているのだろう。
2学年上の吉川陽大(王子)や高田庵冬(立正大)はプロ志望届を提出しながら、あえなく指名漏れ。さらに東北大会終了後に開かれたドラフト会議では、1学年先輩の田山も指名漏れに終わっている。
それでも、有本にはまだまだ時間が残されている。仙台育英は東北大会で優勝し、明治神宮大会への出場を決めた。来春には選抜出場が確実視される。
聖地で再び華々しい活躍を遂げたその時、有本豪琉は新たな扉を開くように思えてならない。
菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi










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