この記事をまとめると
■トヨタが水素エンジンに取り組んでいることは広く知れ渡るようになった■「水素のトヨタ」というイメージ作りで水素カローラが果たしてきた役目はとても大きい
■現在もトヨタが先頭に立って水素エンジン車の実用化を目指して研究開発を進めている
「水素=トヨタ」というイメージが定着
トヨタの水素エンジン車の知名度は上がってきたのではないだろうか。
2023年5月、国内モータースポーツのスーパー耐久シリーズ・富士SUPER TEC24時間レースの現場を取材して、そう感じた。レーシングスーツ姿の”モリゾウさん”が水素カローラと一緒にスターティンググリッドにいる様子に対して、メディアや他のチーム関係者も、違和感を持つことはなくなってきた印象がある。
時計の針を少し戻せば、トヨタが2021年の富士24時間での水素カローラ参戦を発表した際、「なぜいま、EVでも燃料電池車でもなく、トヨタが水素エンジン車なのか?」とユーザーもメディアも疑問を持った人が少なくなかった。
さらに、2021年シリーズ最終戦になると、トヨタの豊田章男社長(現会長)がスバル、マツダ、川崎重工の各社社長と共同記者会見をして、2022年シリーズから水素カローラに加えて、カーボンニュートラル燃料を使う「GR86」と「BRZ」、そして次世代バイオ燃料を使う「マツダ2」(現在はマツダ3に変更)が、各社本社が直轄管理する、いわゆるワークス体制でフル参戦することが発表された。

2022年シリーズに入ると、スーパー耐久シリーズ開催会場では、各社がカーボンニュートラルに係わる技術展示などを行うなど、サーキットがモーターショーのような雰囲気になっていった。
そうしたなかで、とくに水素については、社会全体におけるエネルギーのあり方を考えるうえで、一般メディアが取り上げたことで世間で大きな話題となるなど、水素カローラが果たしてきた役目はとても大きいと言えるだろう。
内燃機関を使うクルマの新たなる可能性を考えるトヨタ
また、自動車メーカー各社などでつくる業界団体の日本自動車工業会は、「カーボンニュートラルに向けた自動車のあり方は、国や地域の社会情勢によって差があるため、さまざまな方法を考慮する必要がある」という方針を貫いてきた。

具体的には、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、燃料電池車、カーボンニュートラル燃料などの合成燃料を使う内燃機関車、そして水素エンジン車などである。
一方で、水素の利活用についてはグローバルで新しい動きが出てきた。
とくに欧州では、ロシアのウクライナ侵攻の影響で、欧州域内のエネルギー安全保障の観点から再生可能エネルギーに由来する水素に関する投資が急激に高まっている状況だ。いわゆるグリーン水素と呼ばれる分野だ。

日本政府も、2023年春、6年ぶりに水素に関する国の全体方針を改定した。そのなかで、グリーン水素の製造地域を全国各地で拡充したり、オーストラリアなどからCO2を地中に埋蔵する方式を取るプロセスを経た水素を輸入するなど、さまざまな施策を打っている。
このように、水素にかかわる状況が大きく変化するなかで、トヨタとしては燃料電池についてはトラック、バス、電車、定置型蓄電池などB2B(商用向け)事業の拡大を進めている。

これを合わせて、内燃機関を使うクルマの新たなる可能性を広げるうえで、トヨタが日本メーカーの先頭に立って、水素エンジン車の実用化を目指して気体水素と液体水素に関する本格的な研究開発を進めている状況だ。