この記事をまとめると
■ホンダにはかつて「N-BOXスラッシュ」というモデルが存在していた■オーディオに特化したカスタムが施されており、当時の軽自動車としては高額だった
■ホンダ特有の「ノリ」で商品化されたクルマであった
N-BOXスラッシュとはなんだったのか
2023年11月に、スズキ・スペーシアがフルモデルチェンジを行ったが、ラインアップされるのは標準ボディとエアロパーツを装着するカスタムだけだ。SUV風のギアは用意されず、商用車として届け出されるベースは、フルモデルチェンジを受けずに従来型を継続生産する。
SUV風のスペーシアギアが用意されない理由は、メーカーによると「開発や生産上の都合」だという。
それならかつて存在したN-BOXスラッシュはどうなのか。
N-BOXスラッシュとは、2014年12月に発売された初代N-BOXの派生車種だ。全高は2WDが1670mmだから、ベース車の初代N-BOXに比べて110mm低い。後席側のドアは、N-BOXはスライド式だが、N-BOXスラッシュではスイング式になる。
そうなると機能はN-WGNに近いが、N-BOXスラッシュは外観が個性的だ。N-BOXと同様にサイドウインドウの下端が高く、天井は低いからウインドウの面積が狭い。しかも、サイドウインドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げたから、ボディ後端のピラー(柱)は太い。後席側のドアノブは目立たないように配置され、背の高いクーペ風に仕上げた。

したがってN-BOXに比べて実用性は低い。天井が下がって車内は狭まり、スライドドアも装着されない。
この手のクルマがもう1度蘇ってほしい!
商品化の経緯もユニークだ。デザイナーが遊びで描いたスケッチが「これは面白い」という話になって具体化された。車内には乗員を包むような雰囲気があり、「ふたりで楽しむオーディオルーム」というコンセプトも与えられた。
そのために、サウンドマッピングシステムも用意され、8個のスピーカーや360Wのパワーアンプを採用した。吸音ウレタンや制振シートで音響効果を高めたデッドニングキットも用意され、通常の走りでも静粛性が向上して、ドアの開閉音まで重厚になった。

このように、N-BOXスラッシュは軽自動車のスペシャルティカーだから価格も高かった。Xターボパッケージは176万円で、オプションを加えると200万円を超えた。2014年当時では、かなり価格の高い軽自動車であった。
そして、クルマは高額商品で、派生車種でも膨大な開発費用を要する。それなのにN-BOXスラッシュは、計画的な開発ではなく、思いつきやノリで商品化された。

思いつきやノリは、いわばシャレだから、長く続けるとヤボになる。だから2017年に登場した2代目N-BOXに、スラッシュは設定されなかった。2020年まで初代ベースのN-BOXスラッシュを作り続けた。そして3代目の新型にもN-BOXスラッシュはない。
それにしても、最近はN-BOXスラッシュのようなホンダ車が登場していない。2015年に発売され、2022年3月に終了したS660が最後だ。

ホンダのホームページの「カーラインアップ」を見ると、寂しいというか、ちょっと心配になる。