この記事をまとめると
■1972年のパリ・サロンで発表されたコンセプトカーがBMWターボだ■BMWターボはガルウイングドアや直4ターボを横置きミッドシップするという挑戦的なモデルだった
■BMWターボのスタイリングはのちのBMW M1に大きな影響を与えた
100周年を機にBMW自身が「BMWターボ」をプレイバック
どこの自動車メーカーも、その歴史を紐解いてみれば挑戦やイノベーションが見つかるものですが、とりわけBMWは興味深いものが少なくありません。BMWが100周年記念の一環として過去のコンセプトカー「BMWターボ」を掘り下げてみせたことで、その思いを強くした方は少なくないのではないでしょうか。
1972年のパリサロンで、BMWが発表したコンセプトカー。
むろん、BMW自身も「BMWターボ」はそうした歴史的モデルの始祖、ベースとなっていることを認めています。それにしても、50年以上前の挑戦としてはじつに画期的であり、また現代へ通じるエンジニアリングとして的を射たものだと、驚きは禁じえません。

まずは、その車名にもあるターボですが、ご承知のとおりBMWは世界で初めて市販車にターボを搭載しています。1973年に登場した「2002ターボ」は、そのやんちゃなキャラクターがポルシェを大いに刺激して、彼らに930ターボ(1975年)の開発を決意させたといわれています。
で、市販車に搭載する予定だった4気筒SOHCターボエンジンを軽くチューニング。200~280馬力を発揮したとのことですが、おそらくは過給圧だけをいじくった理論馬力かと。実際、同じ系統のエンジンが搭載された2002ターボは170馬力とされていたので、機械式のインジェクターやインタークーラーの装備がないことを考慮すれば、その程度がちょうどよかったのかもしれません。

で、これを横置きミッドシップにしたというのが、クルマとしての実用面を犠牲にしたくなかったBMWらしい良心かと。しかもマウンティングにはゴムベアリングを4つも使って、振動防止や位置決めをさせていて、彼らの卓見ぶりが垣間見えるというもの。これがイタリア人のスピードジャンキーに作らせるとなにがなんでも縦置き! ってことになるのかもしれませんんが、それはのちのピュアスポーツ「M1」で実現しています。
また、BMWターボのシャシーレイアウトで優れているのは、50年前の当時ですでに4輪への荷重がほぼ均等を実現していたことにほかなりません。安全性を念頭に置いたクルマの動的スタビリティ、これは現代のBMWでも隠れた美点のひとつであり、ドライバーの誰もが本能的に感じる安心感へと連なっているのです。
M1そしてZ1やi8につながる歴史的モデルの始祖
そして、M1やi8に通じるスタイリッシュなボディも当時のBMWらしいディテールやこだわりが散りばめられています。コンセプトモデルらしいといってしまえばそれまでですが、1972年当時としては見る者の目を奪う仕掛けばかり。

たとえば、丸いヘッドライトが主流だったころにリトラクタブルヘッドライトを用いたり、上下に薄いドアをガルウイング化したり、あるいはリヤタイヤハウスをカバーで覆うデザインなど、まさに全部載せってくらいの勢い。
デザイナーはフランス人のポール・ブラックで、彼は当初メルセデス・ベンツでW107など縦目、羽ベンのデザインで頭角を現した人物。後のM1はジウジアーロによるデザインとされていますが、BMWターボのプロポーションやディテール(リヤエンドにふたつのエンブレムをつけたり、シャークノーズ風のフロントセクションなど)が継承されていることは誰の目にもわかるポイントかと。
さらに、ポール・ブラックはインテリアデザインも得意としており、BMWターボのコクピットを見れば、ドライバーオリエンテッドな風景がそれを如実に語っています。メーターパネルやブレーキコントロール、ライトのインジケーターまでもがドライバーに向けられ、これまた現代のBMWが綴るデザインフィロソフィそのものといっていいでしょう。

BMWターボがコンセプトモデルに終わらなかったもうひとつの証左は、パリの翌年に開催されたIAA(フランクフルトモーターショー)に向けて2台目のモデルが作られたこと。
むろん、初代と同じくエンジンを積んだ走行可能モデルで、これは後に風洞実験やサーキットテストにも用いられたとのこと。M1は発表年次こそ1976年ですが、それはイタリアのチームとのいざこざが長引いたせいであり、BMWターボをベースとした開発はすでに1974年にはおおむね完了していた模様。

すると、i8やZ1といったイカしたモデルと似通っていることも大いに頷けるのかと。コンセプトモデルにこれだけの要素を詰め込み、しかも市販モデルにしっかりとフィードバックをしてきたBMW。「駆け抜ける歓び」、このひと言だけでは到底あらわせないスケールを感じさせてくれるメーカーに違いありません。