この記事をまとめると
■凄腕デザイナーとして「ワルター・デ・シルヴァ」という人物がいる■アルファロメオやセアトといったメーカーのクルマを手掛けている
ワルター・デ・シルヴァとは
今年生産50周年を迎えたVWのゴルフ。1月に行われたマイナーチェンジではよりシャープになった顔付きが好評ですが、このゴルフを筆頭に、近年のVWデザインの基礎を築いたのが敏腕デザイナーであるワルター・デ・シルヴァといえるでしょう。今回は、氏が手掛けたクルマから、あらためて5台を振り返り、その才能に迫ってみたいと思います。
●名声を決定付けたイタリアン・スポーツセダン
1951年、イタリアに生まれたワルター・デ・シルヴァは、70~80年代にフィアットやI.DE.Aで経験を積み、86年にアルファロメオのチェントロスティーレで責任者に就任。97年のフランクフルトモターショーで発表された156が、のちの氏の名声を決定付ける「作品」となりました。

I.DE.Aによる前作155はウエッジの効いたシャープな造形でしたが、これを全身柔らかな面に刷新し、上質さを加味させた点がポイント。ボディとの一体感を高めたキャビン、ボディ中央で消える繊細なキャラクターライン、ハンドルを隠したリヤドアなど「適度なスポーティさ」が同社最大のヒット作に繋がったようです。

後年、基本デザインは巨匠ジウジアーロだったなんて話も聞かれますが、異形ランプによる独特のフロントフェイスや、ボディ全体に漂う繊細さはデ・シルヴァ独自の感性であったように思えます。
●エモーショナルでありながら普遍性を感じるデザイン
98年にVWグループのセアトへ移籍した氏は、まず01年登場の3代目イビザでその才能を発揮します。ジウジアーロが手掛けた端正な初代・2代目に対し、張りを持たせたボディに繊細なキャラクターラインという、先の156によく似た表情を織り込みました。異形ランプやエアインテークを組み合わせた独特のフロントも同様でしょう。

一方、これまたジウジアーロが初代を手掛けたレオンでは、05年登場の2代目でまったく新しい表現に組みました。それが、フロントフェンダーからリヤタイヤへ流れるナナメのキャラクターラインで、その後アルテアにも施された手法です。

マツダの魂動デザイン初期にも似た表情が見られましたが、こうしたエモーショナルなラインに時間的な耐性を与えるのは非常に難しく、その点で一連のセアト車は成功した希有な例かもしれません。
日本でもお馴染みの名車も担当
●世界でもっとも美しいクーペセダンを目指す
次は、2002年に移籍したアウディでの初代A5を取り上げます。2007年のジュネーヴモーターショーで発表された同車を直接手掛けたのは日本人デザイナーである和田智氏とされていますが、もちろん当時の統括役としてデ・シルヴァの存在がありました。

クワトロを想起させる前後のフェンダーラインは、エモーショナルでありつつエレガントさも感じさせるもので、美しいショルダー面からリヤフェンダーの張り出しへの流麗な流れなど、磨き抜かれた造形は圧巻です。

A6に準じるシングルフレームも、シンプルなボディに巧妙に溶け込んでいて、決してグリルだけが目立つようなことはありません。
●コンパクトカーでも独自の個性を生み出す
デ・シルヴァは2007年にVWグループ全体のデザインを統括することになりますが、その5年後に登場したup!も見るべき点が多いニューカマーと言えます。
デザインコンセプトは「シンプル&クリーン」とじつに明快なもの。前身となるルポも十分シンプルでしたが、それとはまったく異なる個性を創り上げた点がポイントです。

実際、ワゴンタイプの軽自動車と似たようなパッケージでありながら、スマートフォンをヒントにしたリヤガラスやユニークな縁取りのバンパー、丁寧に面取りされたサイド、リヤパネルなどによって次元の異なる存在感を得ているのです。

さて、駆け足で5台を振り返ってきましたが、イタルデザインがVWグループ傘下となったことを考えれば、氏とジウジアーロの関係はずいぶんと長期間に渡っていることがわかります。ただ、互いに高い普遍性を追求しながら、それでもデ・シルヴァのシンプリシティには独自の「動感」が込められているのが特徴といえそうです。