便利だから広まるとは限らない!
自動車の技術、装備には、インパクト十分に登場したものの、その後、なにかしらの理由で使われなくなったり、ライバルメーカーがいっこうに追従しないものがある。
古くは、スバルのワゴン系に採用されていた、ラゲッジルームの換気扇があった。採用の目的は、魚釣りに出掛けた際、釣った魚をラゲッジルームに積んでも、生臭い臭いが解消できる……と記憶している。
ノイズ、という点では、スズキ・スペーシアや、最近では日産ルークスなどに採用されている、後席天井に設置されたサーキュレーターがある。たしかに、容量系軽自動車の車内空間は広すぎるほど広く、インパネのエアコン吹き出し口からの冷風だけでは、車内を均一に冷やせない。後席に幼児を乗せる機会も多い、この種の軽自動車では、子供の熱中症も心配だけに、個人的にはあっていい快適装備に思える。

が、ホンダN-BOXやダイハツ・タントには採用されていない。なぜ、追従しないのか。そのひとつの答えが、タントに開発陣から聞いたこの理由だ。
「リヤサーキュレーターの問題点として、やはり騒音があります。それが、頭のすぐ上にあり、お客様からのクレームになりやすいのです」。なるほど、そこで改めて、スペーシアとルークスの後席に座り、リヤサーキュレーターをONにしてみた。
かつて、ミニバンに採用されていた消臭天井も今ではみかけない。天井の内張りに消臭効果のある素材を使っていたと記憶するが、これもまた効果が実感しにくい技術、装備だったかもしれない。禁煙ブームの今では、あったとしてもそれほど歓迎されないはずだ。もちろん、コスト的にもそのぶん低減できるのだ。

目から鱗のアイディアだけどよく考えると……
今ではなつかしい、トヨタの名車、マークIIの6代目に用意されたサイドウインドウワイパーも、完全に過去に葬り去られた技術、装備だろう。こんなものがあったら雨の日の視界確保に便利かも、という良心の発想で登場したはずだが、なにしろ見映えが悪い、カッコ悪い。撥水剤などを使えばほぼ解消できることもあって、姿を消したのだろう。

今でもごく一部の車種にある装備で、これまた、他車が採用しないそうびとしてあるのが、スズキ・ワゴンRや、歴代ホンダN-WGNが採用する傘の収納。

最後に紹介するのは、先進性はバッチリながら、採用が拡大しない機能装備の、レクサスESに用意されたデジタルアウターミラーだ。これは2018年10月に発売された当時、量産車世界初の技術であり、まさにドアミラー革命!! と思われた。
その技術は、従来のドアミラーに相当する部分はあくまでカメラ。その後方画像を、左右Aピラー部に設置されたモニターに映し出すというもの。ドアミラーに相当する部分がコンパクトなため、それによる死角が低減、同時にドアミラーによる風切り音の騒音低減、見え方の自由度(画角、明暗)、雨の日の視界の向上……など、さまざまメリットがある、ように思える。

しかし、先進装備に積極的な輸入車を含め、追従する自動車メーカーは今のところ、見つけにくい。レクサスESではオプションということもあって、装着率にしても決して高くないのである。
実際、体験してみると、慣れなのか、ドアミラーで確認すべきときに、うっかりカメラ機能しかないドアミラー部分に目が行ってしまいがちだし(後方確認が一瞬遅れる可能性/慣れの問題だが)、老眼の筆者にとっては、ドアミラー画像を映し出すモニターの瞬間的な焦点が合いにくかったりしたのである。また、後続車との距離感をつかむにも慣れが必要に感じられた。

こうしたミラー関係では、ルームミラーに後方カメラ映像を映し出すシステムが軽自動車にも用意されている時代だ。こちらは、いつものルームミラーと同じ位置、画面であり、ラゲッジルームに荷物を目いっぱい積んで、リヤウインドーからの後方視界が遮られるように場面でも(そもそもそうした荷物の積み方はいけないが)、しっかりと後方視界を確保できるメリットがあるのだが、デジタルアウターミラーには先進性のアピールはあっても、エクストラコストを払うだけのユーザーフレンドリーな魅力、説得力がないということかもしれない。

ただし、年内発売予定のホンダの小型電気自動車、Honda eには、アウターカメラとインパネ左右端のアウターミラーの代わりになるモニター(「SideCamera Mirror System」)が”標準装備”されるようだが、こちらはドアに小さなカメラユニットの突起(シャークアンテナのような感じ)があるだけ。空気抵抗の向上、風切り音の低減につながるのはもちろん、よりスマートに、さりげなく感じられるし、先進感たっぷりのEVコミューターとの相性はよりいいように思える(見え方は未確認だが)。
