ある職場で、女性従業員が「男性従業員から盗撮された」と申告したにもかかわらず、会社が適切な対応をとらなかった。この事件について、裁判所は「会社の対応が不適切であった」として慰謝料40万円の支払いを命じた。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
Aさん(女性)と、Aさんを盗撮したBさん(男性)は、いずれもガソリンスタンドで勤務していた従業員である。■ 盗撮
AさんとBさんが同じスタンドで働き始めて、約2年後のことである。Aさんに好意を抱いていたBさんが、Aさんの姿を写真に残そうとして、スマホで盗撮を始めた。
Bさんはスマートフォンのシャッター音を消した状態で、勤務中のAさんを至近距離から無断で撮影していた。防犯カメラの映像からは、こうした行為が少なくとも6日間繰り返されていたことが確認されている。なお、撮影された際のAさんは帽子やマスク、長袖・長ズボンを着用していた。
■ 心身症
Aさんは盗撮に気づいたが、その約1か月後に心身症と診断された。盗撮されたことに加え、過去にBさんがAさんに対して「踏んでほしい」「叩いてほしい」と言ったり、犬の真似をして追いかけたりするといった行動をしたことも、その原因として考えられる。
■ 上司に相談
心身症と診断を受けた翌日、Aさんが上司に対して「Bさんから盗撮された」と訴えたところ、会社はAさんの休職を認めた。その後、Aさんは訴訟提起後も休職を続けている。
■ 会社は直ちにBさんに事実確認をせず
会社は、防犯カメラを確認したにもかかわらず、「Aさんを撮影したかどうか」について直ちにBさんに事実確認を行わなかった。
■ 警察に相談
Aさんは、警察に相談し、その翌日、上司に対して「心身ともに辛く、家族とも相談した上で、今回の件を警察に相談する事になり、相談いたしました。」とのメッセージを送った。
■ 会社の対応に不満を抱く
会社の対応が不十分だと感じたAさんは、弁護士を立てて、Bさんと会社に対して損害賠償金を払うよう求めたが、会社は応じなかった。
その後、Aさんは、Bさんと会社に対して訴訟を提起した。
裁判所の判断
裁判所は「盗撮をしたBさんは約70万円を支払え」「会社は安全配慮義務に違反したため慰謝料40万円を支払え」と命じた。順に解説する。■ 本件撮影行為は違法
まず、本件撮影行為は「違法」と判断された。理由は以下のとおりだ。
- Aさんは、一般人であること
- 同僚から無断で勤務中の姿を撮影されることなど、通常は想定も許容もしない
- したがって、撮影を行うのであれば、Aさんに一言断ってから撮影することが常識
- それにもかかわらず、Bさんは無断で撮影した
- さらに、Aさんが帽子、マスク、長袖および長ズボンを着用していたことを踏まえても、Bさんによる撮影行為は、その態様において著しく不相当
- また、撮影の必要性も認められない
そして裁判所は、Bさんに対して、休業損害約30万円(2か月の休職分)に加え、慰謝料40万円を支払うよう命じた。
■ 会社の責任
Aさんは、「私が被害の申告をしたにもかかわらず会社は不適切な対応に終始した」として、会社に対しても損害賠償請求をした。この点について裁判所は「会社には安全配慮義務違反があった」と認定した。以下、詳述する。
まず裁判所は、会社が負うべき安全配慮義務として、以下のとおり判示している。
- 会社は、遅くともAさんが上司にメッセージを送った時点において、Bさんから盗撮被害を受けたとのAさんの訴えが虚偽や勘違いといったものではなく、Aさんに深刻な精神的苦痛が生じている可能性が極めて高い状況を認識した
- 労働契約上の付随義務として、会社が従業員に対してかねてから周知していた方針に従い、速やかに関係者から事情を聞くなどして事実関係を確認し、事実確認を終えた後には、Aさんがさらなる精神的苦痛を被らないよう、配置換えを行ってAさんがBさんに接触しない で済む体制を整えるなどAさんに対する適切な配慮をしていく義務があった
- 会社は、AさんからBさんによる撮影行為に関する申告を受け、Aさんに対する休職を認めながら、Aさんに対する詳細な事情聴取はおろか、Bさんに対しても速やかな事情聴取さえ行わなかった
- その後も、Aさんに対しては、別のガソリンスタンドへの配置換えを打診した程度で、特段の配慮ある行動をとっていない
- しかも、会社は「服を着た姿を撮影されたもので盗撮事件とまではいえない」とか「Bさんが退職するような事態とならないように慎重に対応しようとした」などという認識の下で上記の対応に及んでいる
- しかし、このような認識は、心身症と診断され休職するに至ったというAさんが被った被害結果を適切に評価しておらず、また、被害者と加害者の優先順位を見誤った不適切なものといわざるを得ない
最後に
本件は、盗撮という加害行為の違法性そのものだけでなく、その後の会社の対応が厳しく問われた事案である。被害申告があった時点で、会社は、①速やかな事実確認、②被害者と加害者の接触遮断、③被害者の心身への配慮という基本的な対応を直ちに講じる必要がある。この初動が、その後の法的責任を大きく左右する。

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