国内最大級のショッピングサイト「アマゾン」の配達員が業務委託契約を結ぶ会社に超過労働分の残業代の支払いを求めている裁判で、4月14日、横浜地裁で弁論準備手続期日が開かれた。
原告側が配達員の「労働者性」などを改めて主張したのに対し、被告側はこれを否定する姿勢を示し、最大の争点をめぐる対立が続いている。
(ライター・榎園哲哉)

配達員らが約1億1700万円の支払い求め提訴

インターネット上から注文し、早ければ翌日には商品が届く。その目を見張るようなサービスは、配達員らの労働によって支えられている。
アマゾンの日本法人「アマゾンジャパン」(本社・東京都目黒区)の配送業務を担っている株式会社Gopal(旧若葉ネットワーク、本社・神奈川県横浜市)。同社と業務委託契約を結ぶ配達員計16人が同社に対し超過労働分の残業代約1億1700万円の支払いを求め、2024年5月、横浜地裁に提訴した。
原告の一人、Aさんによると、2020年1月に業務委託契約を結び活動を始めた当初は歩合制(荷物1個あたりの報酬×配達数)で報酬が支払われていたが、同年5月、アマゾンジャパンの配達管理のAIシステム導入に伴い、支払いが日給制に変わった。
しかし、管理の効率化に相反して荷量は増加。システム導入前は1日に配達する荷物の量はおおむね80~140個ほどだったが、導入後は160~220個、セール時などは300個に達することもあったという。
荷量は増えても日給制のため報酬は変わらず、労働時間だけが伸びた。
Aさんは「配達が終わるまでは帰って来ないようにと命じられ、朝8時から夜23時まで配達をしなければならないこともあった」と、1日15時間に及ぶ勤務実態を語る。
会社側は、1週間の労働時間を60時間以内、1日12時間を労働時間の目安としているが、原告の配達員Bさんも「とても週60時間で配達をすべて終わらせることはできない」と訴える。

“業務委託”の配達ドライバーは「労働者」なのか

本訴訟の最大の争点が、業務委託契約で働く配達員が労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかだ。
原告側は、実態として会社の指揮監督下にあると主張。その根拠として、主に次の3点を挙げている。
  • 配送コースや荷物量について諾否の自由がない
  • GPSで業務の遂行状況を把握され、会社から具体的な連絡や指示を受けている
  • 会社が労働時間管理表を作成し、各配達員の労働時間を管理している
さらに、原告の主張を補強するのが、配達員Bさんの労災認定だ。

Bさんは2022年9月、配達先の玄関前階段の最上段(15段)から足を滑らせて地面に転落。腰椎圧迫骨折の重傷を負った。
業務委託契約の場合、本来は労災の対象外となるが、Bさんは横須賀労働基準監督署にこれを申請。同署は、Bさんの業務実態に鑑み、「実質的には会社から指揮監督を受けていた」として労災保険法上の「労働者」と認め、休業補償の給付を決定した(2023年9月)。
4月14日の期日後に行われた報告集会で、原告代理人の有野優太弁護士は、この労災認定について、厚生労働省の通達で「行政上も広く通用する事例だと紹介されている」とし、配達員は労働者であるとの主張を裁判でも展開した旨を報告した。

被告側は「時間的拘束性はない」と反論

一方、有野弁護士によると、被告側は配達員の労働者性を全面的に否定しているという。
被告側は、ドライバーが使用する業務管理アプリのログイン・ログオフ時間が各人で異なり、出退勤は自由であることから「時間的な拘束性はない」と主張。また、業務上の指示に従うかどうかの「諾否の自由がある」と反論している。
労働時間の算定についても見解が分かれる。原告側が配送倉庫からの出庫から帰庫までを労働時間と主張するのに対し、被告側からは「休憩1時間と、午前便と午後便の間の空き時間」は労働時間から差し引くべきとの主張がなされたという。
審理は長期化の様相を呈している。被告側が反論の根拠として労働法学者の意見書を提出したが、原告側が別の学者の意見書で再反論したところ、被告側が追加の意見書を用意する意向を示した。
しかし、その提出時期が明確になっておらず、審理が停滞する一因となっている。
報告集会に参加した配達員Cさんは、「団体交渉も行っているが、全く環境が変わっていない。荷物の量が増え、不利益なこともたくさんある。とにかく早く労働者性を認めていただき、アマゾンで働いている方々がより良い環境で働けるようになってほしい」と、全国のドライバーの労働環境改善への期待を語った。
配達員Dさんもまた、「裁判をきっかけに、配達環境が良くなる日が来ることを願っている」と語った。
次回の弁論準備手続期日は6月10日、次々回の口頭弁論期日は8月20日に予定されている。判決の見通しについて有野弁護士は「どんなに早くても結審は10月頃、判決は年明け頃になると思われるが、読めないというのが率直なところだ」と語った。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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