心浮き立つ4月、入学、新学期の季節である。制服に身を包んだ学生たちが笑顔で道行くのを見るたびに、こちらもウキウキしてくる。


制服で過ごす時期というのは、多くの人にとって中学、高校時代だけに限られるものだろう。だからこそ制服は青春の象徴であり、それは韓国も同じだ。

あえて制服を着て遊びに出掛けたり、着方をいろいろ工夫したり、学生にとってはただのユニフォームではなく、1つのファッションでもある。

現役の中高生だけでなく、すでに高校を卒業した大学生や社会人の間でも、テーマパークで制服を着ることがトレンドであるし、韓流ドラマの影響もあり、制服をレンタルして観光地巡りをする外国人観光客も多い。

「制服」に特別な意味を見いだしているからだろう。

そんな韓国の制服だが、今後は本当にレジャー先で思い出作りや写真撮影のためだけに存在するものになるかもしれない。というのは、2026年2月、韓国の教育省が制服を“廃止する”という方針を打ち出したからだ。

制服を着ない学生が増えていること、家庭の経済的負担が大きいことがその理由だ。

■学校では何を着るのか
制服を廃止するというと、私服になるのかと思う人もいるかもしれない。そこで韓国の学生は学校では何を着ているのか簡単に説明しよう。

多くの学校がジャケットタイプの「正服」に加え、「生活服」「体操服」の3種類を指定しており、一般的にはジャケットタイプの正服を制服と呼んでいる。これは日本の制服と同種のもので、白シャツ、ベストにジャケット、スカートあるいはズボンというスタイル。


生活服は、動きやすい素材で作られたトレーナーやパーカー、襟付きのTシャツなど。学校ごとに少しずつデザインが違い、必ず校章が縫い付けられている。体操服はジャージ、半袖Tシャツと短パンなどだ。

日本の場合は、毎日制服を着て通うのが原則だが、韓国では先の3種類のうちどれを着用するかは生徒に委ねている学校が多い。

そのため比較的着心地のよい生活服や体操服の人気が高く、制服は特別な行事がある日以外はほとんど着ないという学生もいる。今回廃止の対象となったのは、ジャケットタイプの制服だ。

制服の購入にあたり、自治体ごとに1学生当たり30万~40万ウォン(3万2000円~4万3000円)ほどを支援しており、制服購入は実質無償化したといわれてはいる。しかし替えのシャツ、生活服、体操服まで全てを補うことはできない。

そういった事情があり、李在明大統領は制服の購入を「背骨ブレイカー」(「親の背骨が折れるほど家計を圧迫する高額な出費」の意)と指摘し、高額の制服は段階的に縮小し、生活服と体操服着用へ転換する方針を打ち出したというわけだ。

これに対して、経済的な負担が減るなど賛成の声がある一方、学校の伝統が失われる、制服を着る当の学生の声を聞く調査などが行われないまま性急に方針を固めた、などといった批判もある。

最終的に廃止をするか否かは各自治体の教育庁や学校に委ねられているが、現状に鑑みると、廃止を決める学校も少なくなさそうだ。

■過去にも制服が廃止された時期が
「制服はあるべきか、なくてもよいものなのか」この問題はこれまでも繰り返し議論されてきた。
そして実際に制服が廃止された時期もある。韓国の制服の歴史を振り返ると、今回再び廃止の方針が打ち出された理由がよく分かる。

韓国では、日本による統治時代に制服としての韓服が禁止されて以降、日本スタイルの学生服が採り入れられた。1969年に中学校標準化政策が実施されると、 女子は白い襟付きブラウスに黒スカート、男子は学ランに統一される。

その後1983~1985年まで、家庭の経済的負担の軽減、学生の多様性や創造力の育成などといった理由で制服自由化が実施され、制服が廃止された。この時期の学生は私服で通学している。

しかし間もなく、学生指導上の問題や、私服購入費用の負担増を理由に反発があり、86年からは再び制服を導入する学校が増加。制服の採用は学校の裁量に任されることとなり、デザインも多様化した。

この時期に現在のようなジャケットタイプの制服が採用されている。

90年代後半~2000年代には制服専門のブランドがいくつも登場し、アイドルを起用した広告を展開、おしゃれな制服をアピールするようになる。制服が「ファッション」になったのだ。

今でも制服ブランドのモデルは人気アイドルが務めるのが慣例のようになっており、BTSもかつて制服モデルをしていたことは韓国ではよく知られている。


韓国の制服は日本のそれとは比較にならないほどほっそりしているが、現在のスリムフィット人気はこの頃に始まったものだ。デザインや生地のこだわりは制服の価格に反映され、徐々に高額になるにつれ、制服廃止が議論されるようになり今日に至る。

ジャケットタイプの制服廃止が学校現場全体で定着していくのか、はたまた過去にそうであったように見直しを求める声が上がるのか……。

いずれにせよ、制服は必要なのか否か、そしてそもそも誰のため、何のために存在するのか。この先も韓国では制服にまつわる議論が続きそうだ。

▼松田 カノンプロフィール在韓18年目、現地のリアルな情報をもとに韓国文化や観光に関する取材・執筆、コンテンツ監修など幅広くこなす。著書に『ソウルまるごとお土産ガイド(産業編集センター)』などがある。All About 韓国ガイド。
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