2005年4月25日、乗客106人と運転士1人が亡くなったJR福知山線の脱線事故。去年、事故車両の保存施設が完成しましたが、遺族の中には「興味本位で見られたくない」という意見もあり、JR西日本は一般には「非公開」としています。
事故の教訓を忘れないために…施設の在り方を取材しました。
JR脱線事故から20年の去年「保存施設」が完成
2005年4月25日。兵庫県尼崎市でJR福知山線の快速電車がスピードを出しすぎた結果、カーブを曲がり切れずに脱線。マンションに激突し、乗客106人と運転士1人が死亡、562人が重軽傷を負いました。
未曾有の事故から20年が経った去年12月、大阪府吹田市にあるJR西日本の社員研修センターの敷地内に、「福知山線列車事故車両保存施設」が完成したのです。報道関係者は撮影・録音をしないことを条件に見学することができました。
地下1階には事故現場が実寸大で再現
施設は地上1階と地下1階に分かれています。損傷が激しい1両目から4両目は、部品ごとに分けて展示。吊り革や椅子は、当時の車両が想像できるように配置されています。5両目から7両目はそのまま展示されています。
地下1階には事故現場が実寸大で再現されていて、犠牲者の遺留品なども展示されていました。
「生きた人、亡くなった人が分かれた場所だと如実に伝わってくる場所」
(2両目で負傷 小椋聡さん)「(座席に)たくさん血のあとも残ってました。オイルまみれになっているところもありました」
最も多くの犠牲者を出した2両目に乗っていた小椋聡さん。足の骨を折るなどの重傷でした。
(2両目で負傷 小椋聡さん)「あの中で生きた人、亡くなった人、生きることができなかった人が分かれた場所だと、如実に伝わってくる場所でした」
JR西日本は「一般公開は慎重に検討する課題」
JR西日本はこの施設について「脱線事故後に入社した社員が多くを占めるなか、社内で事故を継承するための場所にしたい」と説明。
ただ一般の人に公開するかどうかについては…
(西日本旅客鉄道 倉坂昇治社長)「一般公開に関しては慎重に検討する課題。(事故車両は)亡くなられた場所そのもの、おけがをされた場所そのもの。(施設の中の)映像が世の中に流布されることに『とても耐えられない』というお声も多数いただいております」
遺族や被害者、JRの社員、当時救助に携わった消防や警察の関係者などを除き、一般の人には原則「非公開」としました。
「興味関心を持つのは悪いことではないが…」当事者の思い
以前は、施設は広く見てもらうべきだと考えていた小椋さんも、展示された生々しい車両を見て気持ちが揺らいでいるといいます。
(2両目で負傷 小椋聡さん)「実際に施設を見に行って、安易に公開とか公開しないとか、そういう議論をするのは危険だなと。あまりにもインパクトが強すぎて」
また、別の被害者は…
(事故で負傷 Aさん)「事故の当時の現場の写真など結構ネットに上がっているのですが、そういったもの(写真)を上げて『心霊写真が見つかった』みたいな(ことを言う人がいる)。興味関心を持つのは悪いことではないですけど、その後ろに被害者がいるということを忘れがちになってしまう流れはしんどい」
被害者の中には一般公開を望む人も
その一方で、被害者の中には一般公開を強く望む人がいるのも事実です。
3両目に乗っていて腰の骨を折るなどのケガをした増田和代さん(56)。
(3両目で負傷 増田和代さん)「見たらたたきつけられるじゃないですか、現実に。戻されるでしょ、あの当時に」
自身は、直接見る勇気はまだないといいますが、当時のままの車両は「事故の悲惨さを何よりも物語るはず」だと話します。
(3両目で負傷 増田和代さん)「一般の人に見せないと、私たち(被害者)は全部知ってる。見てくださいって。風化防止に手助けしてくださいって、みんなで安心安全な社会にしていきましょうよって」
関係者によりますと、2019年にJR西日本が遺族を対象に行った調査では、「一般公開すべき」「限定的に公開すべき」「公開に反対」がいずれも同数の23人、当事者の間でも、意見は分かれているのです。
燃えて真っ黒になったロッカー、熱で受話器が溶けた公衆電話
事故の遺構を一般に公開することは、どのような意義があるのでしょうか。事故の性質は異なりますが、社会に広く公開している場所が韓国・大邱市にありました。
2003年、地下鉄の電車内に男が放火し、192人が死亡する事件が起きました。緊急時の避難誘導の仕組みが整っていなかったことなどが、被害拡大の一因とされています。
(中央路駅 クァク・ビョンホ駅長)「火事になった現場をそのまま保存しています」
事件があった駅には、燃えて真っ黒になったロッカーや熱で受話器が溶けてしまった公衆電話などがそのまま残されています。
(中央路駅 クァク・ビョンホ駅長)「安全のことを思い出す『生きた資料』だからです。一般市民たちが安全のことを思い出すきっかけになればと思います」
当時も燃えた車両の実物が一般公開
同じ大邱市内にある大邱市民安全テーマパーク。ここには、当時燃えた電車の実物も一般に公開されています。真っ黒になった車両には、つり革などのがれきが散乱しています。
さらに、この施設では、地下鉄の車内で火災が起きた際、安全に避難する方法を体験しながら学べるというのです。
(参加者)「実際に体で体験することによって長く記憶に残ると思う。次に同じような事故が起きたときに、体が覚えているからこそ回避できることもあるんじゃないか」
「命が無駄にならないよう教育の場にする空間が必要」
事故車両が公開されていることについて、遺族はどう考えているのでしょうか。この火災で長女を亡くしたファン・ミョンエさん。
(長女を亡くした ファン・ミョンエさん)「(母親の)私が見なかったら誰が(遺体を)見るんだと、だから私がしなければならないと確認した。(遺体を)確認したけどその場で崩れ落ちてしまった。
また、別の遺族は…
(長男を亡くした リュ・イェジュさん)「(Q当時は皆さんが公開に賛成?)反対したのは数人だけでした。それぞれ思いはあったんでしょうけど、多くの人は賛成したと思います。遺族が今どういう思いをしているのかを(見学した人に)知ってほしいからです」
どう未来へつなぐか…
社会への啓発と、被害者の感情。災害や事故が人に与える影響を研究している明治大学の小林秀行教授は「JR西日本が現時点で、被害者に寄り添い非公開と判断していることを支持する」としたうえで…
(明治大学 小林秀行教授)「事故の現場の痕跡を残すことがなぜ大事かというと、これは社会に『楔を打つ』、忘れないでほしいという風にアンカーを打ち込むということだと思う。関係者以外は見られませんよと非公開な形で閉じたままでいると、楔を打ち込むという効果は決して強いものにはならない。多くの方が納得をして、公開もしくは非公開という判断を最終的にしていく、“納得の醸成”が必要。(これから)時間をかけてその在り方をつくっていく、関係者の方が納得できる形をつくっていくというのが大事」
4月25日で事故から21年。凄惨な記憶をどう未来へとつなぐのか。安全を問い続けることに終わりはありません。
(2026年4月24日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)

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