この原稿を書いている時点では、未知数の部分が多いが、16歳の顔見知りの少年が、「知人友人に誘われて」強盗に加わったことは、一過性の事件として看過すべきではない。闇バイト勧誘のメカニズムに加えて、斯界(しかい)の専門家により、犯行に加担した少年たちの心理を徹底的に研究する必要がある。(ノンフィクション作家・廣末登)
「重大な犯罪」という自覚がない少年加害者
強盗殺人で有罪となれば「死刑または無期拘禁刑」となる可能性が高く、刑法で定められた犯罪の中でも、もっとも重大な部類に属する。少年法51条1項は、犯行時に18歳未満だった者については「死刑をもって処断すべきときは、無期拘禁刑を科する」としており、今回、実行役として逮捕された16歳の少年らが死刑になることはないが、死者が出ていること、被害者を複数回刺して殺害している残忍性などから、情状酌量の余地が乏しいと判断され、有期の拘禁刑へと減軽された場合でも、長い量刑が打たれる可能性が高い。
筆者は、法務省更生保護就労支援事業所長や保護司に加えて、ノンフィクション作家の立場で、多くの闇バイト従事経験者と面談してきた。その中で、かつては考えられなかったような少年犯罪の現実を目の当たりにした。それは、覚せい剤を含む違法薬物の密売、各種特殊詐欺、そして強盗である。
実際に強盗に従事した少年(犯行当時17歳)に聞いた話は、筆者に少なからず動揺を与えた。特に衝撃的だったこととして、彼は高齢の被害者を殴り倒しているにもかかわらず、反省の色がみられなかったことだ。
むしろ、喜々として強盗の状況や奪った金額を持ち逃げしたこと、その使い道などを話してくれた。その時、筆者は「こういう倫理道徳観が未熟な青少年は彼だけではなかろう。いずれ、少年の強行犯(殺人、強盗、放火、性犯罪などの凶悪犯のこと)が殺人に至る事件が起きるだろう」と考えた。
今回の事件後に知人の弁護士と昨今の少年強盗につき話したところ、「自分が担当した事件では、少年に重大な罪を犯したという自覚がない。それは親も同様である」という。
手加減を知らない少年たち
闇バイト強盗の報道に触れて「見ず知らずの人をあんなに簡単に殴れるなんて」と驚くかもしれないが、彼らの中には事件にかかわるまで「人を殴ったことなんてなかった」という者も少なくない。おそらく、少年らの多くは、喧嘩の経験が少ないから手加減を知らない。加えて、犯行現場で被害者と鉢合わせしたら、未経験の恐怖と犯行の失敗を危惧することから自制心を無くし、その障害を目の前から除去したい一心で、危害を加えている可能性がある。まさに素人の犯行である。
一方、プロの犯罪者は、犯行で得られるカネと、逮捕された際のリスク、すなわち、量刑を天秤にかける。1000万円奪って10年の拘禁刑なら年収100万円であるから「割に合わない」。しかし、1億円奪って5年の拘禁刑であれば年収2000万円と「割に合う」犯罪ということになる。
しかし、闇バイト等で敢行される強盗の実行役は、ここ数年の事例をみてもほぼ100%逮捕される。さらに、末端ゆえに報酬を得ることなく使い捨てられる可能性が高い。計算ができる者であれば、まず手を出さない。だから、無知で犯罪の素人である青少年が勧誘される。
指示役が少年に吹き込むウソ
犯罪の指示役は、少年たちの勧誘に際して、万一逮捕されても未成年だから少年院で済むと告げ、大人よりリスクが低く手っ取り早く儲かることを強調する(ただし、特定少年(18歳・19歳)の場合は17歳以下の少年に比して厳しい扱いがされる)。是非弁別能力が涵養(かんよう)されていない「無知な」少年は、そうした情報を鵜呑みにして犯行に至る。
さらに悪いことは、誤った情報は少年たちの非行サブカルチャー内で共有される。彼らの仲間内では、犯行によって「社会からの信用を失うリスク」は、その情報には入らない。
「社会的信用を失うリスク」は見落とされている
未成年の子どもが強行犯で検挙されると、その家族は現在の居住地を離れることを余儀なくされる可能性が高い。恥の文化を有する日本社会ならではだ。そして、事件が地域社会に知られ信用を失うため、本人も就職等の活動が困難になる。さらに、刑事罰を科された場合には前科がつく。
少年をそそのかし、強盗を実行させる犯罪者は、こうしたリスクに言及することはない。
「令和4年版犯罪白書」によると、受刑者らを対象にした調査で《社会からの信用を失うこと》が犯罪を思いとどまる「心のブレーキ」になると回答した20代は、わずか7.8%。一方、65歳以上で19.3%、50~64歳で16.9%に上ったとあり、世代間で対照的である。
未成年の加担が際立つ強盗
昨年1年間、特殊詐欺における少年の検挙人員は463人(+47人、+11.3%)で、総検挙人員に占める割合は20.1%(+1.8ポイント)であった(「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について」(暫定値))。今月19日の日経新聞ウエブ版によると、「強盗は特に未成年者の加担が目立つ。警察庁によると、トクリュウによる強盗事件で25年に摘発された少年は116人だった。摘発者全体の38%にあたり、詐欺(14%)や薬物事件(11%)を上回る」とある。
10代実行犯勧誘の過半数は顔見知り
今回の事件は、少年の1人がSNSで闇バイトに応募し、知人の少年3人を実行犯に勧誘したとあるが、これは珍しいことではない。【図1】は「特殊詐欺の受け子になった経緯」を調査したものである。【図1】警察庁「特殊詐欺の被害状況と通信技術の悪用実態」(2025年5月9日)より
10代は、「知人等紹介」が過半数である。少年たちは狭い社会で生きており、先輩や同輩の勧誘は断り難い。断ったらイジメの対象となり、地域社会に住めなくなる可能性すらある。
こうした数値をみると、現代社会の深刻な病理としての匿名・流動型犯罪(トクリュウによる犯罪)に、少年が巻き込まれ、利用されていることがわかる。一刻も早く、彼らの加入を阻止すべきだが、ハードルは高い。
悪化の一途をたどる特殊詐欺被害
今年2月に公表された警察庁の資料では、昨年の特殊詐欺の検挙件数は6590件、検挙人員は2307人。主犯(グループリーダーおよび首謀者等)の検挙人員は66人で、総検挙人員に占める割合は2.9%。預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪で5193件、3579人を検挙とある(いずれも暫定値)。特殊詐欺の認知件数・被害額は、2万7758件・1414億2000万円で、いずれも過去最悪を更新している(投資・ロマンス詐欺は含まない)。
2021年以降、認知件数・被害額ともに右肩上がりに上昇しており、もはや、旧態依然とした考え方では、闇バイトは防げない。
筆者が考えるに、3つの改善点がある。
第一に、警察頼みではなく、文科省(倫理道徳および情報リテラシー教育)、総務省(SNSプラットフォーム整備)、厚労省(キャリア教育)と、省庁の垣根を越えた協働を念頭に置くべきである。
第二に、行政目線ではなく、若者に刺さる警告を発し続ける必要がある。
第三に、周知徹底のため広報・啓発活動を強化すべきである。これらが不足していることは、コロナ禍における三密を避ける等の広報と比べれば、一目瞭然であろう。
国民の一人として、一刻も早い実効的な政策実現を、政府に期待する。
■ 廣末 登
1970年、福岡市生まれ。社会学者、博士(学術)。専門は犯罪社会学。龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員。2008年北九州市立大学大学院社会システム研究科博士後期課程修了。著書に『ヤクザになる理由』『だからヤクザを辞められない』(ともに新潮新書)、『ヤクザと介護』『テキヤの掟』(ともに角川新書)、『闇バイト』(祥伝社新書)、『ヤクザが消えた裏社会』(ちくま新書)等がある。

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