男性ビジネスマンの皆さまへ。部下の女性を「ちゃんづけ」で呼んでいないだろうか?
もし心当たりがあるなら、注意が必要だ。
なぜなら、「ちゃんづけ」で呼んだことがセクハラ認定された実際の裁判例があるからだ。
以下、事件の詳細を見ていこう。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

女性従業員のAさんは、宅配便などの輸送に関する事業を営む会社で、営業所のカスタマーサービス課に勤務していた。今回、セクハラ認定された上司Bは、営業課で係長の役職に就いていた。
■ 「ちゃんづけ」で呼ぶ
Aさんの具体的な仕事内容は、顧客からの電話対応やクレーム対応で、業務上、上司Bに対して相談や報告をすることがあった。そして上司Bは、Aさんのことを日常的に「Aちゃん」と呼んでいた。
詳細は後述するが、上司Bがさまざまな不快な言動を続けたことから、入社から約1年9か月後には、Aさんは、出勤時に涙が流れるような状況となってしまった。その後、心療内科を受診したところ、うつ病、PTSD、適応障害と診断された。
そこで、Aさんは、上司Bに対して損害賠償(治療費等相当額と慰謝料)を求める裁判を起こした。

裁判所の判断

Aさんの勝訴である。「ちゃんづけ」以外のセクハラ行為も認定されている。順に見ていこう。
■ 「かわいい」発言
Aさんと上司Bが、営業所で、顧客の荷物を探していたときのことである。Aさんが荷物を発見したところ、上司BがAさんに走って近づいた。
それに驚いたAさんが「きゃっ!」と声を上げると、上司Bは「今の、かわいい」と発言した。
この発言に対して、裁判所は、「驚いた際のAさんの様子や言動についての冷やかしやからかいの趣旨であったと認められ、業務上の必要性は見いだし難く、また、Aさんに不快感や差恥心を与えるものであった」と指摘している。
■ 下着に関する発言
この発言も同様に、Aさんと上司Bが2人で荷物を探していたときに起きた。Aさんが前かがみの姿勢になったときに、上司Bは、Aさんに対して「それ胸元が・・・はだけて見えてしまうよ」と発言した。
この発言に対して、裁判所は、「(1)Aさんと上司Bの性別の違い、(2)下着が見えるという言葉は女性の性的な姿を想起させるものであること、(3)上記発言はAさんが前かがみの姿勢となった際のものであり、実際に上司BからAさんのの胸元や下着が見えてしまっていたという意味にも受け取れることからすれば、Aさんに強い不快感や差恥心を与えるものであったといえる」と断じた。
■ 体型に関する発言
さらに同じときに、上司BはAさんに対して、「格闘技か何かやってるって聞いたけど、体型良いよね。俺なんかガリガリだよ」と発言した。
この発言に対して、裁判所は、「原告の体型に関して言及するものであり、業務上の必要性は見いだし難い上、原告に不快感や差恥心を与えるものであった」と認定した。
■ 電話での発言
Aさんが上司Bに電話をかけて業務報告をしたときのことである。その日、上司Bは休日であり、資格試験の勉強をしていたようだ。上司BはAさんに対して、試験勉強で慌ただしいことを述べた上で「こんな愚痴や話を聞いてくれるのはAちゃんだけだよ」と発言した。
この発言に対して、裁判所は、「Aさんに不快感や羞恥心を与えたとはいえない」「ただし、『Aちゃん』という呼称を用いた点は不適切である」と述べている。

■ 「ちゃんづけ」発言に対する裁判所の評価
「ちゃんづけ」について、裁判所は、「一般的には幼少の子どもに対して用いられ、成人に対して用いられるのは交際相手等の親密な関係にある場合が多く、業務上においてこのような呼称を用いる必要性は直ちには見いだし難い」と指摘している。
そして、「親しみを込めて『ちゃんづけ』をしたとしても、上司BとAさんの年齢や性別、従業員同士にすぎないという両者の関係性等に照らすと、Aさんを『ちゃんづけ』で呼ぶことはAさんに不快感を与えるものであった」と判断した。
なお裁判所は、「厚生労働省が公表している『心理的負荷による精神障害の認定基準』(令和5年9月1日付け基発090ユ第2号)においても、『○○ちゃん』等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされたことが、心理的負荷を与える出来事の例として挙げられている」と付言している。
そして、慰謝料は20万円と算定された(うつ病等との因果関係は認められなかった)。

ほかの裁判例

体型等に関する発言についてのセクハラ裁判としては、「色も白いし、胸もあるし80点くらいだと思うよ」「俺が抱きたいと思う様な女になれ」「彼氏はいるのか?」「結婚しないのか? 」などの発言をして、解雇されたセクハラ上司の事件がある。
【関連記事】セクハラ「飲みの席だから」は許されない…女性職員らの被害申告で“スピード解雇”、不服訴える男性次長を裁判所が一蹴

最後に

さすがに今の時代、部下に対して「結婚しないのか?」などの発言をするアホな人はいないと思うが、「ちゃんづけ」で部下の名前を呼んでいる人は、意外に存在するかもしれない。
上司側が「仲がいいから」と認識していたとしても、呼ばれた相手が本当はどう思っているのかはわからない。うっかりセクハラ上司にならないよう、本記事が、女性従業員との距離感を測る際の参考になれば幸いだ。


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