
7月7日に東京都心で今年初めての猛暑日を記録。本格的な夏が到来した。
サングラスを解禁する公務員
6月12日、熊本城の運営センターは公式サイトにて、「屋外接客スタッフのサングラス着用」についてアナウンスした。
〈熊本城運営センターでは、直射日光の乱反射による各種事故の防止や、紫外線による目の健康被害を防ぐため、スタッフがサングラスを着用する場合があります。その他、暑さ対策として、給水・冷却グッズ・日よけなどを活用し、着席してご案内を行うことがあります。皆さまのご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます〉
熊本市は高温多湿な盆地に位置し、駐車場などコンクリートの照り返しが強い場所では夏の体感温度は40℃を超えることもある。そこで運営スタッフはサングラスのほか、空調服なども使用して接客を行なっているようだ。
こうした動きは警察や消防の現場にも広がっている
5月には京都府警がサングラスの導入を開始。さらに6月20日、長崎県警察の公式Xも、〈猛暑がやってくる!しかし、警察官は倒れるわけにはいかない!〉〈だから…サングラス着用!〉と投稿した。
7月1日には、岡山県警察が〈夏の日差しが強いときは、警察官がサングラスをかけることがあります。日差しも犯罪もシャットアウトの精神で今日も頑張ります〉とポスト。茨城県のつくば市北消防署も、〈7月1日から緊急車両運転中のサングラス着用が可能となりました。
いずれの投稿も「ご理解ください」と市民への理解を促しており、従来の“サングラス=不適切”という空気の名残が感じられる。しかし一方で、SNSでは肯定的な意見も相次いでいる。
〈サングラスに対してなんか変なイメージあるのって日本くらいなのでは〉
〈紫外線から目を守る事も出来るし目線を隠せるから警察官には必須だと思う〉
〈むしろ今までなんでやってなかったのか。お偉いさんを小一時間問い詰めたい〉
〈全然いいと思います。むしろバカな庶民の声にいちいち断りを入れなくてはならないこと、痛み入ります〉
80年代の夏とは全く違う?
さらに、サングラス着用の波は学校にも広がりつつある。メガネブランド「Zoff」は2025年夏、紫外線を100%カットする"SUNCUT Glasses"を発表。東京都内の女子中高一貫校と連携し、制服にサングラスを取り入れるプロジェクトを開始した。
WHO(世界保健機関)によれば、人が一生で浴びる紫外線の半分以上は18歳までに浴びるとされている。にもかかわらず、日常的にサングラスを着用している日本人は2割に満たない。
Zoffを運営する「インターメスティック」の上野博史代表取締役社長は「本当はかけたいのに、校則が障壁になっている」と語り、今後は欧米並みのサングラス着用率を目指していきたいと語った。
では、実際に近年の猛暑はどれほど過酷なのか。
ところが最近10年では、猛暑日がゼロの年は一度もない。むしろ年間20日以上を記録することが当たり前になっている。2023年や2024年は、都心で20日を超える猛暑日を記録している。つまり、1990年代の"普通の夏"が、今では"危険な夏"に変貌しているのだ。
こうしたことから、SNSでも、我が子にサングラスを着用させたいと願う保護者の声も多く確認できる。
〈こんだけ日差しが強いと登下校にサングラス必要じゃないかと思ってる。けど流石に学校に聞けない〉
〈日傘を使うの当たり前として、次は登下校のサングラスを使用を許可して!〉
〈子どもの日焼け止めもサングラスも日傘も全部認めないとまた死人が出るのでは?〉
では、医療の立場から見たとき、サングラスは本当に健康に効果があるのか。そして、子どもが着ける必要性はあるのか。
子どもには紫外線がメリットになっている可能性も
「紫外線は角膜炎(雪目)や翼状片、白内障などを引き起こし、網膜にもダメージを与えて加齢黄斑変性のリスクを高めますが、UVカット機能付きサングラスは適切なものを選べば眼への紫外線曝露を約90%カットでき、さらに、UV400表示レンズならUV-A/B両波長を99%以上遮断すると言われています。
しかし一方で、子どもは屋外で活動することが近視の進行抑制に有効とされ、その一因として紫外線も関与すると考えられています。つまり、子どもの場合は紫外線をすべてカットすべきとは言えないのが現状です」(ドクターK氏、以下同)
特に、登下校中の片道20分程度ほどの短い時間ならば、目への影響はあまりないと考えられるため、近視の進行抑制を考えると着けるメリットはあるとは言えないという。
そのうえで、「お子さんの場合は、紫外線をサングラスで避けるのではなく、帽子や日陰をうまく利用して、紫外線を直接目に浴びない対策が有効です」とドクターK氏は話す。
紫外線を完全に防ぐことが、必ずしも子どもの発育にとって最善とは限らない。それでも、いまや日本の夏は、かつての感覚が通用しない“異常な夏”に変わりつつある。サングラスを含めた「猛暑から身を守る装備」は、大人も子どもも、誰かの目を気にせず、自由に、当たり前に選べる社会であってほしい。
取材・文/集英社オンライン編集部