未婚化や単身世帯の増加、家族・親族とのつながりの希薄化を背景に、日本では「遺族がいない死者」が急増している。身元不明の死者だけでなく、家族や親族が判明していても遺骨が引き取られず、自治体に委ねられるケースが目立っているという。
死別後の悲嘆とグリーフケアを研究する坂口幸弘氏が解説した『人は生きてきたように死んでいく 「死の準備」してますか?』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち3回目〉
増える「遺族がいない死者」
近年、日本では、遺族がいない死者が増えている。50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合は、2020年には男性が3割弱、女性が2割弱であった。日本では長らく、「男性は結婚して家庭をもって一人前」とされてきた風潮があり、結婚しないという人生の選択肢はほとんど存在しなかった。
実際、1950年の男性の生涯未婚率は1.5%に過ぎない。男性の生涯未婚率は1990年以降、大幅に上昇しており、1990年に50歳だった人は現在80歳を超えている。現時点では、亡くなった男性の中で一度も結婚したことがない人はまだ少数だが、今後、未婚のまま死を迎える高齢男性が急増することは確実であり、そうした社会はまもなく到来する。
未婚の男性に限らず、頼れる家族や親族がいない、言い換えれば死後の世話をしてくれる遺族がいない死者は増えている。
私は10年ほど前、大阪市の依頼で火葬場に関する仕事を引き受けた経験があり、その際に施設を見学させてもらったことがある。案内された火葬場の一角にある倉庫には、天井近くまで届く金属製の棚がいくつも整然と並んでいた。そしてその棚には、引き取り手のいない骨壺がすき間なくぎっしりと並べられており、その光景は今でも鮮明に覚えている。
案内役の職員の方が「最近は、連絡がついても引き取りに来ない遺族が多いんです」と、何とも言えない表情で話されていたのが印象的だった。
各自治体では、引き取り手のいない遺骨が近年、増え続けている。しかも、身元がわからない行旅死亡人(氏名や住所などが判明せず、引き取り手もいない死者)ではなく、身元が判明し、家族・親族もわかっている遺骨が多いのが最近の傾向である。
日本では、死後に火葬や納骨をする人がいない場合、自治体が遺族に代わってそれらを行うことが法律で定められており、基本的に費用は公費で負担されている。全国で最も無縁遺骨が多い大阪市では、2018年に2366柱が公営の無縁堂に安置されたが、このうち身元不明の行旅死亡人は50人にも満たなかった。経済的に余裕があっても、既婚者であっても、家族・親族との関係が希薄だったために、死後に無縁遺骨となるケースは珍しくない。
もちろん、生前にいくら疎遠だったとしても、家族や親族の遺骨を無縁遺骨として自治体に委ねることに抵抗を感じる人もいる。
ここ数年、家族や親族が宅配業者を利用して遺骨を郵送する、いわゆる「送骨」を受けつける寺院が全国で増えている。送骨による納骨代として数万円がかかるが、「納骨に高額な費用をかけられない」「遺族が高齢で納骨に立ち会えない」「遺族がいない」などの理由で利用されているようである。
増える「家族葬」「直葬」「ゼロ葬」
近年、「家族葬」と呼ばれる、近親者のみで行う小規模な葬儀が増えている。僧侶であり、ジャーナリストでもある鵜飼秀徳氏によれば、こうした形式はかつて「密葬」と呼ばれ、世間に死の事実を知られたくない場合に行われる「タブーな葬式」とされていたが、今では東京都心部では家族葬が主流となっているという。
1990年代以降、葬儀の参列者数は減少傾向にあり、公正取引委員会が2005年に全国の葬儀業者を対象に行った調査では、5年前と比べて「参列者が減少した」と答えた業者は67.8%にのぼり、2016年にはその割合が86.8%にまで増加している。
葬儀の場所も変化してきている。日本消費者協会の全国調査によれば、過去3年以内に葬儀を行った人のうち、自宅で葬儀を行った人は1985年には58.1%と過半数を占めていたが、1991年には52.8%、1999年には38.9%、2007年には12.7%と減少を続け、2014年にはわずか6.3%にまで落ち込んでいる。
また、通夜や告別式などを行わず、火葬のみを行う「直葬」や「火葬式」と呼ばれる新しい形式も増えてきている。さらに、火葬後に遺骨を引き取らず、すべて置いて帰り、火葬場で処分してもらう「ゼロ葬」と呼ばれる形式も話題となった。
このような葬儀の変容の背景には、核家族化や単身世帯の増加、死亡年齢の高齢化、親族や地域とのつながりの希薄化、未婚化・非婚化といった現代の社会環境があると考えられる。こうした現状において、私が日頃接している大学生の中には、葬儀に一度も参列したことがないという学生も少なくない。
葬送儀礼への価値観が揺らぎ始めている
葬儀の形態だけでなく、その本質そのものが変化してきているとの指摘もある。文化人類学者の波平恵美子氏は、現在の葬儀では「葬送」の「送」の部分の儀礼が、ほとんど意味を持たなくなっていると述べている。
本来、仏式であれ神式であれキリスト教式であれ、死者をこの世からあの世へと送るために葬儀は行われてきた。しかし、人々の「死者の世界」に対するイメージが希薄になり、死後の世界がぼんやりとしたものになってしまったことで、「死者を送る」という考え自体が不明瞭になっているという。
かつては、きちんとした葬儀を行わなければ「故人が浮かばれない」、すなわち故人の魂が成仏できず、この世をさまようといった意識があったが、そうした感覚も失われつつあるのかもしれない。
私が喪主経験者500人を対象に実施した2024年の調査では、回答者の約2割が「葬儀は大切ではない」、約3割が「通夜は大切ではない」と答えており、葬送儀礼そのものに対する価値観が揺らぎ始めているといえる。
民俗学者の新谷尚紀氏は、葬送儀礼において供養という要素が弱まり、死を穢れと捉える感覚も薄れ、死者との記憶や交流を重視する新たな段階に入ったのではないかと指摘している。葬送儀礼の中心は故人ではなく遺族となり、死者への供養ではなく、遺された者の心の安定が儀式に求められるようになってきているという。
こうした葬儀を含む葬送儀礼の変質は、「世俗化」や「私事化」と呼ばれる。同朋大学特任教授の蒲池勢至氏によれば、葬儀の世俗化とは、葬送儀礼における宗教性が薄れ、葬儀が商品化されることであり、伝統的あるいは宗教的な形式から、遺族のニーズに応じて葬儀が演出されるようになってきたことを指す。
また、「私事化」とは、葬儀の簡素化や多様化が進み、社会的な儀礼や慣習であった葬儀が、故人や家族の意思を優先した形で実施される傾向を意味している。
文/坂口幸弘 写真/Shutterstock
人は生きてきたように死んでいく 「死の準備」してますか?
坂口 幸弘

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