劇団新派の俳優・喜多村一朗(47)が新派・松竹新喜劇合同喜劇公演(5月9~19日、東京・新橋演舞場)で幹部に昇進する。とび職、サーフショップの店長、歌舞伎俳優を経て37歳で新派に入団した異色の経歴。

昨年7~8月に上演された歌舞伎「刀剣乱舞」の北条義時役でも注目された新派のホープに現在の心境や今後の抱負を聞いた。(有野 博幸)【後編】

 ターニングポイントは2016年1月。師匠の喜多村緑郎(当時は市川月乃助)が歌舞伎から新派に移籍した。

 緑郎から意思を尋ねられ、「僕も行きます」と即答。緑郎の2代目喜多村緑郎襲名に合わせて、喜多村一郎(後に一朗)に。歌舞伎と新派の違いには悩むことが多く「カルチャーショックでした。緑郎さんにも初めて『そんなんじゃ、周りの人が芝居できないよ』と叱られました」

 「歌舞伎では見せ場があって、そこで輝こうと思っていた。でも、新派は違う。作品全体の世界観になじまないといけない。僕が浅はかだった。歌舞伎の頃から形だけで芝居をして、心から芝居ができていなかった。芝居をしているつもりになっていた。

新派に来てから、徐々に気付かされました」

 24年11月には人生初のオーディションを経験して「#大森カンパニー大感謝祭」(下北沢小劇場)に出演。「歌舞伎では大きく見せようと思って芝居をしていた。小劇場では、客席との距離が近いので、ささやく感じでも声が届く。細かい芝居も求められる。すごく貴重な経験になりました」。新派に軸足を置きながら、ほかにも坂東玉三郎特別公演、平成中村座など歌舞伎にも出演している。

 昨年7~8月には東京・新橋演舞場、福岡・博多座、京都・南座で上演された歌舞伎「刀剣乱舞」に出演。当初、出演予定だった師匠・喜多村緑郎の体調不良にともなう代役で北条義時役だった。「稽古の段階から出ることが決まっていたので、焦ることなくできました。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の義時とも違う描かれ方でしたね。大きな人物として演じることを意識しました」。気品のある存在感が観客から好評だった。

 新派・松竹新喜劇合同喜劇公演(5月9~19日、東京・新橋演舞場)では松竹新喜劇の人情喜劇「お種と仙太郎」(演出・齋藤雅文)の清之助役、ホームドラマの金字塔「明日の幸福」(演出・石井ふく子)の内山信吾役を務める。劇中で波乃久里子からの紹介を受け、幹部昇進のあいさつが予定されている。

 「『お種と仙太郎』では育ちのいい坊ちゃんの役。いいアクセントになるように頑張ります。『明日の幸福』では、最近少しずつ分かってきた新派の味を出せたらいいかなと思っています。新派で大事なのは、絵としての美しさ、きれいなせりふ、そして心の動き。去年12月に水谷八重子さんに誘っていただいて『大つごもり』の朗読に参加させていただきました。その経験も生かせたらと思います」

 幹部昇進で今後、大役を任される機会も増えそうだ。「劇団新派の未来を担う役者になれるように頑張ります。新派の古典を現代のお客様のニーズに合わせて上演したり、新しい芝居にも挑戦したいと思っています」と意欲的だ。国立劇場の養成所に入って25年。試行錯誤の役者人生だったが、もう迷うことはない。

新派を引っ張っていく。

 ◆喜多村 一朗(きたむら・いちろう)1978年8月2日、大阪生まれ。47歳。2002年、国立劇場第16期歌舞伎俳優研修修了。同年、6月歌舞伎座で初舞台。9月に松本染二郎を名乗る。06年1月、3代目市川猿之助門下となり市川猿琉(えんりゅう)を名乗る。16年1月、劇団新派に移籍。喜多村一郎(後に一朗)を名乗る。着やせするタイプだが、筋トレが趣味で筋骨隆々の肉体が魅力。

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