2022年6月、韓国のボーイズグループ「BTS」は兵役義務の履行のため、メンバー7人全員が兵役を終えるまでの間、グループ活動を休止することを発表した。

BTSの何がそんなにすごいのか?メンバー7人の兵役・3年9ヶ...の画像はこちら >>
 同年12月、最年長メンバーであるJINが最初に入隊した。
1年半を経た2024年6月、最初に兵役を終えたのも彼だ。他のメンバーが兵役を終えるのを待つJINは、ソロ活動を通じて、(2026年の)BTS復活の瞬間を温めるかのように、グループの留守番役を担った。

「世界的なボーイズグループ」と形容されるBTSが世界的であり続ける理由について、JINという存在を中心に考えてみたい。“イケメン研究家”加賀谷健が解説する。

BTS長男JINの美声は地中海から聞こえる?

 2026年3月21日、世界的ボーイズグループ「BTS」のカムバック公演、その名も『BTS THE COMEBACK LIVE | ARIRANG』が、韓国ソウル市内の光化門広場で開催された。待望の瞬間を待っていたARMY(BTSファン)たちが世界中から集結。熱狂のライブはNetflixでリアルタイム世界配信された。

 一曲目は「Body to Body」だった。2022年6月リリースのアンソロジーアルバム『Proof』以来、約3年9ヶ月ぶりにリリースした最新フルアルバム『ARIRANG』の1stトラックであり、韓国民謡「アリラン」(ARIRANG)をサンプリングしている。最新曲に伝統を織り込みながら、新しい歴史を刻んだ。

 そんなカムバックに相応しいパフォーマンス中、最年長メンバーJINが、さりげなくも美しい歌声を吹き込んでいたことに胸を打たれた。同曲で彼が担当する最初のソロパート“Somebody like you”に傾聴すれば、BTS長男の美声が以前にも増して洗練されていることがわかる。

 何を隠そう、JINペン(推し)の筆者は、この美声を世界の中心音だとさえ思った。
これは言い過ぎではない。さらに意外に思われるかもしれないが、我らがJINの美声は韓国から遥か遠く、世界史上、文明の源流(中心)と考えられることも多い地中海世界から聞こえてくる気がする……。

除隊後の期間、復活の火をたやさなかった

 というのも、復活ライブの翌週3月27日にNetflixで世界配信されたドキュメンタリー映画『BTS:THE RETURN』が、ギリシア神話に着想を得ていることと関係している。

 同作の監督バオ・グエンは、ARMYの元に帰還したBTSのストーリーを、オデュッセウスの物語になぞらえている。ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の主人公である、英雄オデュッセウスだ。

「トロイの木馬」で有名なトロイア戦争を勝利に導いた知将オデュッセウスは、故郷イタケに帰還するまで10年かかった。彼は地中海を漂流し続けたのだ。海から海を行く過程では恐ろしい怪物に遭遇することもあった。多くの船乗りを、その美しい歌声で惑わせた魔女セイレーン。姿形は半人半獣の鳥人間といったところか。

 大英博物館にある壺絵には、オデュッセウスが難を逃れる場面が描かれている。彼が帆柱に括り付けられているのは、美声をどうしても聴きたいと思ってしまうからだ。

 世界的なコーヒーチェーン「スターバックス」の創業者が、セイレーンのように人々を魅了するコーヒーを提供したいという思いをロゴに込めたエピソードは有名である。


 セイレーンは地中海広域で誘惑の存在として恐れられたが、例えば、ソロ曲「Running Wild」や「Don’t Say You Love Me」など、怒涛のファルセットを駆使するJINの美声もまた、リスナーをたちまち虜にする。

 ナチュラルなハイテナーともいえる甘い声は魔力そのものではないか。それでいて親父ギャグを連発するところは少し塩辛い。これは、特にティレニア海沿いのリグーリア州(イタリア)など、高塩分濃度の地中海に由来する成分が含まれているのかも……?

 メンバーが入隊するため、活動を一時休止したBTSだが、2022年最初の入隊者だったJINは、一足先に除隊(正確には、現役兵から予備兵に移行する転役)した2024年6月12日以降の期間、国内外のあらゆる活動を通じて常に美声を響かせ、2025年にソロ公演があった日本を含む世界中を魅了し続けた。

 彼はそうして一人、BTS復活の火をたやさなかった。

BTSのいったい、何がすごいのか?

 JINは除隊から5日目に、BTS公式YouTubeチャンネル「BANGTANTV」内のソロコーナー「Run JIN」初回エピソードの撮影を敢行。韓国の最高峰ハルラサンを登頂した。他のメンバーにしろ、2025年6月11日に除隊した、グクミンことJIMINとJUNGKOOKは、除隊から4日後に(なかばどっきりで)旅番組『Are You Sure?!』シーズン2の収録を行っている。

 同番組がDisney+で世界配信されたのは同年12月3日。驚くべきスケジュール感だ。

 BTSメンバー7人全員の除隊が完了したのは、SUGAの除隊日である2025年6月21日だった。カムバックに向け、メンバーたちはロサンゼルスに集結した。そこで5thアルバム『ARIRANG』制作に取りかかる様子を、『BTS:THE RETURN』のカメラが記録している。


『ARIRANG』はリリース後、全米アルバムチャート、シングルチャートともに1位。凄まじい勢いでチャートアクションを展開し、約7年ぶりの来日公演が4月17日と18日に迫る中、さまざまなメディアで必ずといっていいほど、「世界的ボーイズグループ」と枕詞をつけるBTSのいったい、何がそんなにすごいのか?

 世界中、誰もが聴いたことがあるだろう、あの軽快なディスコ調ナンバー「Dynamite」が、2020年の全米シングルチャートで1位に輝く歴史的快挙を成し遂げたからか。

 アルバム『BE』収録曲「Life Goes On」もまた、韓国語曲(英語以外の曲)として初めて同チャート1位になり、第63回から65回までのグラミー賞で3年連続ノミネートされた。

 今回、『ARIRANG』のタイトル曲「SWIM」が1位になったことで、「Dynamite」以来、通算7曲がチャートを制覇したことになる。比類なき戦略とスター性に裏打ちされている、すべての功績がすごすぎる。

「世界の精神的支柱」と呼ばれるメンバーがいること

 彼らは世界のアイコン的存在であり、今や「21世紀のビートルズ」と言われることだってある。歴史を更新し続けることは並大抵のことではない。(そんなことあり得ないとわかりつつ)、そこでこんな疑問を浮かべてみた。

 もし、JINが復活の火に薪をくべ続けなかったら?

 除隊後、2024年のパリオリンピックで聖火ランナーにもなった彼は、どれほど孤独な活動の中でも復活の瞬間まで決して火をたやさず、「世界的」という重圧に対して身を挺してグループを守った。

 そういうメンバーが常駐していること。何とも素朴だが、実はこれこそ、BTSが世界的であり続ける理由だったりするのではないか? 2025年8月、世界ツアーを完走したJINが一人遅れて合流するところから始まる『BTS:THE RETURN』冒頭を見て、そんなことを思う。

 黒み画面に「A NETFLIX DOCUMENTARY」という字幕がフェードインする。
編集上のタイミングとはいえ、画面奥から盛んに「ハロー!」と美しく人懐こい美声を響かせたのは誰だったか。JINだ。その声が、作品全体の通奏低音になっていることに深く感動するのだ。

 2025年に出演した、Netflix番組『キアンの破天荒ゲストハウス』では、韓国のWEB漫画家キアン84が主人となる民宿の従業員として働いた。主人を献身的に支えたJINはキアンからこう呼ばれた。「世界の精神的支柱」。

 BTSには「世界の精神的支柱」と呼ばれるメンバーがいること。それこそがBTSの凄さなのだと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。

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