「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」岸田戯曲賞同時受賞の蓮見翔×大石恵美が語った“演劇界への本音”と危機感
「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」岸田戯曲賞同時受賞の蓮見翔×大石恵美が語った“演劇界への本音”と危機感

演劇とお笑いを越境しながらエンタメ界を席巻する「ダウ90000」の蓮見翔さんが、記憶と創作をめぐる群像を描いたコメディ『ロマンス』。そして、尖った文学性と迸る関西弁の一人芝居で注目される「ダダルズ」の大石恵美さんが、痛みと笑いの彼岸を活写した『よだれ観覧車』。

好対照とも称された二本の戯曲が、先ごろ第70回岸田國士戯曲賞で同時受賞を果たした。演劇の新たな可能性を体現するふたりが、2026年の演劇界への危機感と期待、そして両者の表現の核をなす「笑い」について、じっくり語り合った。(前中後編の前編)

どうしても岸田戯曲賞が欲しかった

――おふたりの同時受賞が決定してからひと月半ぐらい経ちましたが、選考会当日の様子を振り返ってもらってもいいでしょうか。

大石
 私は初めてのノミネートだったので、さすがに受賞はないだろうなって思ってたんです。でも当日になって、もう一回冷静になってほんまに可能性ないんかって考えたときに「いや、獲るんちゃうか」っていう気持ちが謎に湧き上がってきて(笑)。

蓮見 おお、頼もしい。

大石 と同時に、もし獲れなかったらめちゃくちゃ腹立つやろうなとも思ったんです。だってほら、自分から戯曲を応募してノミネートされたわけではないじゃないですか。

蓮見 公募じゃないですもんね。こっちからすると勝手に候補に選ばれて、勝手に受かったり落とされたりするわけだから(笑)。

そこがお笑いの賞レースとは全然違うっていうか、せっかく決勝に出場したのに指くわえて結果を待つしかないっていう。僕はそれで過去2回落ちてるので、大石さんのやり場のない気持ちよくわかりますよ。

大石 びっくりしますよね、ノミネートされてからは何もできない(笑)。

受賞を逃したら、たぶん自分は腹立たしさでとんでもないことになる。そう思うと、だんだん居てもたってもいられなくなってきて。

私、近所のでっかい墓地を散歩するのが好きなんですけど、墓に行けばちょっとは落ち着くかもなと思って、それでうろうろ歩いてたら逆に本当に受賞できなかったら絶対許せないっていう気持ちが昂ってくると同時に、自分はこんなに権威に振り回される人間なのかと悔しくて涙が出てきちゃって。そのまま知らない人の墓の前でずっと泣いてました。

蓮見 いやいや、怖いですよ。

大石 でも、受賞の電話がきた。そこで白水社の方に「単独ですか?」って聞いたんです。私の戯曲は一人芝居だし極端な作風だという自覚もあるから、もし受賞するとしたらバランス的に正反対の作品も選ばれるだろうなと思って。

すると「ダブル受賞です」っていう返事だったので、じゃあ蓮見さんとのダブル受賞かなと思ったのを覚えています。

――一人芝居の戯曲が岸田賞を受賞したのは『よだれ観覧車』が史上初だそうですね。東京と京都で合計3回上演され、コアな演劇ファンの絶賛を浴びました。一方の『ロマンス』はダウ90000の第7回演劇公演として全国5か所で上演された、エンタメの粋を尽くしたコメディです。
まさに好対照といえる2作が同時受賞になりましたね。


蓮見 僕は3回目のノミネートなんで、これでまた獲れなかったら本気でキレ散らかしてやろうと思ってたんですよ。なので、当日は僕も不安定な状態でイライラしてました。「頼むからくれよ」って(笑)。

でも、こっちは一大事なのに、世間的に岸田戯曲賞が話題になってたかというと全然だったじゃないですか。そのことにも腹が立ってきて、もう世界中で自分だけがソワソワしてるような気分になっていったんですよね。

「今回は電話口の声が男性だったんで、これは獲ったなって」

大石 あの孤独感はすごいですよね。

蓮見 そう、だから大石さん、墓地にいたなら教えてほしかったです。一緒に待てばよかったじゃないですか(笑)。

とはいえ、結果がどっちに転んでも発表直後にダウのメンバーとYouTubeで生配信しようってことで準備はしてたんです。そうこうしてたら電話が鳴りまして。過去2回の電話が女性からだったんですけど、今回は電話口の声が男性だったんで、これは獲ったなって。

大石 第一声で確信したんですね。



蓮見 けど、その流れでいざ生配信を始めてみると、あんまり喋ることがなくてびっくりして。たぶん、心のどっかで落ちると思ってたんでしょうね。落ちたときのための言葉を無意識に準備してたっていうか。

だから受賞後の心境としては、とにかくすげぇホッとしたっていうのがありつつ、僕、今年で29歳になるんですけど、どうにか二十代のうちに獲りたいと思ってたんで、ギリギリ間に合ってほんとによかったです。

――蓮見さんはこれまでも「岸田戯曲賞が欲しい」ということを方々で公言されてきましたよね。そもそもなぜそこまで強いこだわりをお持ちだったんでしょうか。

大石 それ、気になります。権威に執着があるとか、そういうことではないですよね。

蓮見 ないです、ないです。演劇って今、全然流行ってないじゃないですか。そもそも「岸田戯曲賞って何?」っていう人もいっぱいいる。

だけどやっぱ、自分がやってるジャンルは盛り上がっててほしいし、カッコよくあってほしいっていうのがずっとあるから。

受賞したからには、演劇も岸田賞も、どんな手を使ってでも流行らせたいなって思ってます。

大石 めっちゃ演劇全体のことを考えてるじゃないですか。

蓮見 とか威勢のいいこと言ってますけど、僕は正直、演劇どっぷりでやってきたわけじゃないんですよね。お笑いの仕事も普通にやってるし、演劇作品だって、数そんなに観てるわけじゃないので。

お世話になってる「画餅」の神谷(圭介)さん、「玉田企画」の玉田(真也)さん、渋谷ユーロライブの小西(朝子)さんの3人に勧めてもらったのを中心に観てきたので、ある意味、偏ったものしか知らないっていうか。

大石 そうなんですね。私もいろいろサボってきたせいで演劇の知り合いはほとんどいないので、全然人のこと言えないですけど。

「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」

――大石さんの主宰するダダルズはご自身による一人芝居と漫談を往還するようなスタイルで、蓮見さん率いるダウ90000は演劇とコントの間を突っ走っていくスタイルが特徴的ですよね。おふたりは演劇界において、それぞれ特異なポジションにいらっしゃるなと感じています。蓮見さんはお笑いのフィールドでも活動されていますしね。

蓮見 まあ、少なくとも王道ではないですよね。けど今回の受賞で、胸張って演劇人ヅラできるようになったので、思ってることは全部言ってこうかなって(笑)。自分たちのためだけじゃなくて、僕らの考えや発言が全体のためになるはずだとも思うんです。



それこそ今の演劇界全体に対して感じてるのは、これもいろんなとこで言ってますけど、流行ってないのにお高く止まって偉そうにするのはやめましょうよっていうことで。

大石 偉そうにしてますか?

蓮見 してますよ。してますとも。岸田戯曲賞にしたって、一番売れてる劇作家が受賞すればいいのになってずっと思ってたんです。4年前かな、初めてノミネートされた年に同じく最終候補だった加藤シゲアキさん、絶対受賞してほしかったですもん。

多方面で活躍されてて、知名度があって、圧倒的な集客もある。そういう方がちゃんと受賞したら、岸田賞自体の認知も広まるじゃないですか。そうやって演劇を盛り上げるための賞にしていかないと、演劇人みんなご飯が食べられなくなって、演劇に夢を見れなくなる。やがて志す人もいなくなっちゃいますよ。

大石 さみしい話です。

蓮見 でも、こういう意見ってダサいんでしょうね。

大石 う~ん、ダサいのかな。



蓮見 当然、岸田賞には岸田賞なりの守るべきスタンスがあるわけだから、もちろんそれを貫くのはカッコいいと思いますよ。70年ぐらいの長い歴史の中で、三谷幸喜さん、松尾スズキさん、宮藤官九郎さんといった憧れの先輩も受賞されてますし。

でも過去の選評を読んでみたりすると、選考する側がいつもなんだか妙に偉そうで、それこそ権威にすがってる印象がしたんですよね。てか、知ってます? 岸田賞の第一回って「該当作なし」なんですよ。

大石 え、初回から!

蓮見 幸先悪いじゃないですか。その年はなかったことにして、翌年仕切り直したほうがすっきりするのに(笑)。

自分は過去に二度、「テーマがない」ことを理由に落とされてて。テーマなんて劇場で観客の一人ひとりが見つけたらいいものだと思うんですけど、でも今回の『ロマンス』は入れたんですよ、テーマを。どうしても獲りたかったんで。だから僕はある意味、傾向と対策で受賞したっていうか。

「風の噂で、岸田戯曲賞の候補に入るには…」

――大石さんは「傾向と対策」みたいなことは意識されていましたか。

大石 私の戯曲は完全に私自身の一人語りなので、これまで誰かに読まれることを想定せずに書いてきたんです。なので基本、地の文とセリフの区別もなく、ほぼ改行もないまま文字がダーっと続いていくスタイルの戯曲です。

が、風の噂で、岸田戯曲賞の候補に入るには、いわゆる演劇の戯曲然としたものに寄せないとそもそも対象にならないという話が耳に入ってきて。

蓮見 なんですか、その風の噂(笑)。

大石 ト書きでちゃんと状況説明をするとか、複数人で演じられることを念頭に置いてセリフはカギカッコで括って話者を立てるとか、従来の戯曲らしさを取り入れないと戯曲と見做されないっていう。あと、そもそも一人芝居は獲りづらいとも言われたこともあります。

蓮見 へぇ~。僕らも、演劇で評価されたければ「M−1」に出るのはやめたほうがいいって言われたことがありますよ。なんか鼻につく言い方だなって思いましたけど。

大石 私もそういうことを耳にすると、どうしても反骨精神っていうか、しょうもないからスタイル変えずにいこうと思うタイプなんですけど、『よだれ観覧車』のひとつ前に上演した『家系図』という作品について、岸田賞の事務局から候補作の選定準備にあたって戯曲を提供してほしいという依頼がきたんです。

そこで『家系図』の戯曲とともに「風の噂で、一人芝居は獲りづらいと聞きました。戯曲の賞で戯曲の幅を狭めるのはいかがなものでしょうか?」というような長文のメールを添えて送ったんですけど。

蓮見 ええ~!?

大石 何か体制を変えたいとかではなくただの反骨精神で。かなりイキったメールだったので、担当の方は気持ち悪かったと思います。キモいから、もう戯曲提供の依頼は来ないだろうなと思っていたら、半年後に上演した『よだれ観覧車』でも連絡がきた。

で、普通だったらここでスタイルを変えずに送るんでしょうけど、あんな長文送ったヤツが、ここへきて通常の戯曲の形に寄せてきたらもっと気持ち悪いだろうなって、面白くなって寄せてみました。

蓮見 ややこしい人だなぁ(笑)。

大石 それで地の文とセリフを区別したりとか、私以外が演じることを想定して冒頭に「上演に関する注意」「登場人物」なんかも記載してみたんです。とはいいつつ、こんな一貫性のないヤツ落とされるだろうとは思ってました。そしたら本当にノミネートされて。

蓮見 すごい話ですね。

大石 とはいえ、『よだれ観覧車』は脈絡のない3本の短編と中編(「犬」「赤」「蟬」)が並んでるっていう構成もめちゃくちゃだし、改めてこれが選ばれたことが驚きではあるんです。『ロマンス』なんて、ほんとにかっちりした構成の戯曲じゃないですか。

蓮見 僕は逆に構成が整ってない戯曲こそ受賞するんじゃないかって思ってました。選考委員たちはむしろ、起承転結とかきちっとしてないもののほうが好みなんだろうなって。受賞後、周囲の反応が明らかに変わったりしてません?

大石 どうかな。受賞の実感もいまだにないのが正直なとこではあるんですけど、発表があってから、今日みたいな取材の依頼とか上演のお誘いとか、ぽつぽつお仕事が入るようになってきました。なので、これはパスポートみたいなもんなんやろなと思ってます。岸田賞を獲ったことで行ける場所が増えるんだなっていう。

蓮見 なるほど、パスポートか。ピッタリな表現かもしれないですね。岸田賞が「演劇界の芥川賞」だと言い張るなら、いろんな機能を付けて欲しいとこですけどね。

大石 はい、うまく使っていきたいですね。

(2026・4・6 赤坂にて) 『すばる』2026年6月号掲載

#2に続く

構成/折田侑駿 撮影/山本佳代子
スタイリング/中島有哉(蓮見翔) ヘアメイク/久木山千尋(蓮見翔)

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