『溺れるナイフ』『ちはやふる』『アイアムアヒーロー』……2016年も多くの漫画原作映画が公開された。元々固定ファンがついている漫画作品なら映画企画も通りやすい。
反面、熱狂的なファンからは「原作の良さを壊すな」なんてディスられやすい。
というわけで、近年の漫画実写化の特徴はビジュアルの再現度の高さだ。そのほとんどは原作ファンが見ても違和感なく映像の世界に入り込めるよう、気を遣って丁寧にキャラが作り込まれている。

実写化された『ろくでなしBLUES』


だが、20年前のあの映画は違った。1996年に公開された『ろくでなしBLUES』である。ご存知、90年代の週刊少年ジャンプ黄金期を支え、コミック累計6000万部突破した森田まさのりの名作。吉祥寺の帝拳高校に通うプロボクサー志望の前田太尊と仲間たちを描いた不良漫画の金字塔だ。


90年代の男子中高生なら、知らないものはいないと言っても過言ではない超有名漫画が映画化。しかもヒロインの七瀬知秋役には、当時19歳の死ぬほど可愛い小沢真珠。誰もがその完成を待ち望んだが、実際に公開されたのはとんでもない怪作だった。

凄まじい「ダサさ」だったビジュアル


まず主人公の前田太尊役には、人気キックボクサーの前田憲作。なんだけど、68年生まれの前田は映画製作時はすでにアラサー男である。キックの天才が実年齢より10歳若い高校生役を演じて、学ランを着るという企画そのものにかなり無理があった気もするが、それ以上にファンの度肝を抜いたのが、前田のライバル役で登場する渋谷・楽翠学園の鬼塚グループの圧倒的な格好悪さである。
原作では冷酷なイケメン鬼塚を演じるのは金髪のジャイアン・ジュン。
合成皮の安っぽいコートを羽織り、金色のシャツに真っ青のブレザーという番長らしくない、お笑い度満点の格好でスカす姿には悲壮感すら漂う。

ビジュアルの再現度に徹底的にこだわる現代の漫画原作映像化の常識からはありえない、マイナス地点からのスタートだ。もちろん前田の仲間たちのキャラも皆一様にダサい。凄まじいダサさだ。しかし、この映画は「ダサさ」と引き換えに「ガチさ」を手に入れることに成功している。

「ガチの強さ」を見せた役者陣


バキバキに割れた腹筋でブルース・リーのように吉祥寺の街で暴れ回るキックボクシング日本王者の前田憲作、異様に鋭い蹴りを連発する大型シュートボクサーのジャイアン・ジュン、さらに原作でも人気キャラの島袋役で190cm・105kgのプロレスラー柳澤龍志、楽翠学園の中ボス上山役でキックボクシング日本ヘビー級王者の大石亨とズラリと顔を並べた強者たち。

役者たちが多用する、パワーボムやフランケンシュタイナーといったプロレス技の完成度も一級品。彼らが戦う喧嘩シーンはド迫力で、クライマックスの前田太尊vs鬼塚の決闘は完全に前田憲作vsジャイアン・ジュンの試合である。

これほど格闘シーンに説得力のある日本映画は見たことがない。88年の原作連載スタート時とは違い、90年代中盤にはすでにヤンキー系ツッパリ文化が廃れていたというマイナス面を、役者の「ガチの強さ」でカバーするという逆転の発想。それはアイドルを多用する現代の漫画原作映画とは、また別のベクトルのガチさだ。

なんとエンドロールでは前田憲作の実際の試合映像を流し続ける荒技。
もはや映画と全然関係ないプロモーションじゃ……なんて突っ込みは野暮だろう。とにかく「こいつらマジで強いねん」とダメ押しの説得。
ついでに映画が進むうちに、金髪でガタイのいいジャイアン・ジュンも、現在の新日本プロレスIWGP王者オカダ・カズチカに見えてくるから不思議である。

キャラクターのビジュアル面ではなく、ガチで強さを追究するという異端の漫画原作映画。それは「ただ強くなりたい」と願う少年達が喧嘩に明け暮れる『ろくでなしBLUES』の本質を、見事に再現したと言えるのではないだろうか。


『ろくでなしBLUES』
公開日:1996年2月16日
監督:那須博之 出演:前田憲作、小沢真珠、川本淳一、ジャイアン・ジュン、柳澤龍志
キネマ懺悔ポイント:28点(100点満点)
劇中でやたらと映り込む大塚製薬のスポーツドリンク『エネルゲン』、野茂英雄ブームに乗ってドジャースの野球キャップを被るヤンキー高校生と90年代中盤を象徴する小道具の数々にも注目!
(死亡遊戯)


※イメージ画像はamazonよりろくでなしBLUES [VHS]