羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。



<今回の芸能人>
「まいっちゃうよね」三遊亭円楽
(不倫謝罪記者会見、6月10日)

 写真週刊誌「フライデー」(講談社)に一般人女性との不倫現場を激写されたことを受け、落語家・三遊亭円楽が釈明会見を開いた。スポーツ新聞は“爆笑会見”と表現したが、私には何が面白いのかさっぱりわからず、はっきり言って不愉快だった。

 その原因を考えてみると、不倫そのものに対する嫌悪ではなく“すり替え”のズルさが嫌なことに気づく。

 芸能人が雲の上の存在だった時代は過ぎ、彼らはいかに一般人っぽく振る舞うかに腐心しているが、伝統芸能の世界の人には、治外法権が認められている。その代表例が「女遊びは芸の肥やし」という考え方である。結婚前の人気歌舞伎俳優に子どもがいることが露見しても、特にバッシングされることはない。
それどころか、「モテない役者はダメだ」とか「甲斐性がある」「度量が広いから、オンナが放っておかない」など、変な褒められ方をすることもある。

 落語という伝統芸能に携わる円楽の会見も、善良な人から見れば「度量が広い」と言われるポイントがふんだんに用いられている。『笑点』(日本テレビ系)のプロデューサーに「不倫だけはやめてくれ」と頼まれていた上での不倫発覚。『笑点』に出演できなくなる可能性もあった一大事なわけだが、円楽は、「(「フライデー」の記者の車について)汚い車でございましてですね」「(老いらくの恋と見出しをつけられたことを受けて)名前、変えようかな。円楽あらため、老いらくです」など、悪態をついたり、ボケたりと、スキャンダルをまるで気にしていないかのようなコメントをしていて、私にはここにこの人の“小心さ”が隠されているように感じられる。

 また「私が口説いたんです、彼女に非はないわけ、うん」と、不倫相手の女性をかばっているが、仮に女性からのアプローチであったとしても、不倫であることに変わりはない(女性から誘われたら、自分に責任はないという言い訳は通らない)。
窮地に立たされても、女性をかばう「度量の広い」芝居のように感じられるのだ。

 「度量が広い」役は、円楽夫人も担っている。不倫の証拠写真が掲載されることになった円楽は、夫人に電話をかけて「仕事が済んだら、きちんと説明する」と伝えたところ、夫人は「そんな心配いいから、とにかく仕事がんばりなさい」と言ったそうで、また夫人が用意したスーツの袋に「がんばれ」と書いてあったエピソードを涙ながらに披露している。

 恥をかかせられても激高せずに、どんな時も夫の仕事を一番に考えるあたり、典型的「度量の広い」妻である。大病すると健康のありがたさに気づくのと同様、円楽はこうしたエピソードによって、「傷つけてわかる妻の偉大さ」「妻よ、ありがとう。こんな時も優しくしてくれる妻を持って俺は幸せだ」などとアピールし、不倫騒動を巧妙にお涙頂戴の人情話にすり替えることに成功しているのだ。


 極めつきは、このエピソードである。「『身から出たサビだ』と言ったら、妻が『サビも味になるわよ』って言ってくれた。まいっちゃうよ」である。この発言からは、「妻が許してくれているから問題ない」という円楽の気持ちが透けて見えるし、自分が妻を傷つけておきながら、妻をすごいと称えることによって、「噺家の妻は、不倫ごときで動じるべきではない」と論点を妻のあり方にすり替えているのである。

 6月12日放送の『Mr.サンデー』(フジテレビ系)を見ると、論点のすり替えは見事に成功していると言えるだろう。30~60代の一般人の男女に円楽の会見を見せて、感想を述べ合っていたのだが、各年代の女性たちはいずれも、「さすが落語家の奥さん」と妻を絶賛しているのだ。


 なぜ、女遊びにも動じない「度量の広い」妻が賛美されるのかといえば、それが“夫の成功”につながると思われているからだ。しかし、円楽が成功の1つの指標となる『笑点』の司会にはならなかったことを考えると、女遊びは芸の肥やしになっておらず、いわば契約不履行、無駄な苦労なわけだが、女性たちはそのあたりは不問らしい。

 同番組司会の宮根誠司は、「謝罪会見の見本をあえて見せようとした」「『笑点』新司会の春風亭昇太さんのために、あえてネタを提供した」とわけのわからない擁護をしているが、実は宮根も謝罪会見経験者である。宮根は現夫人ともう1人の女性と二股をかけていた(要は不倫)が、夫人ではない方の女性に子どもができ、出産。宮根がその事実を告げても、夫人は責めなかったそうで、会見でそんな夫人を「ごっつい嫁はんや」と褒め称えていたのである。

 スネに傷を持ち、また世論を変える力のあるオトコが、話のすり替えに加担する。
司会者である宮根が円楽を擁護したら、アナウンサーやコメンテーターも空気を読んでその方針に従わざるを得ないだろう。だから、いまだに「度量の広い妻」を男性のみならず、女性も信奉する。不倫なんかより、そっちの方がよっぽど気持ち悪い。

仁科友里(にしな・ゆり)

※画像は『六代目三遊亭圓楽襲名記念 三遊亭楽太郎十八番集1』/TEICHIKU ENTERTAINMENT(TE)(D)