昨日発売された、今週のモーニング誌に掲載された漫画が大きな話題になっている。タイトルは「いちえふ 〜福島第一原子力発電所案内記〜」。
原発事故後の福島第一原発を紹介したルポ漫画だ。

作者の竜田一人は実際に昨年6月から12月までの半年間、福島第一原発で作業員として働いていた。元々漫画家として活動していたが、さまざまな職を転々としている際にあの事故が起こり、「高給と好奇心。それにほんの少しは被災地の為という義侠心から」福島第一原発の仕事を求め、作業員となった。そう、これは作業員の視点から描かれた、「福島の現実」を描いた作品なのだ。

本作では淡々と「いちえふ」での日常がモノローグを中心に語られている。
「いちえふ」とは、「1F」であり、福島第一原子力発電所のことを指す。現場の人間、地元住民は皆こう呼んでいて、1Fをフクイチと呼ぶ奴はまずいないとのこと。

この「いちえふ」を廃炉に向けて懸命に取り組んでいる作業員達が、どのような環境で、どんな仕事をしているのか。ここまで詳細に描いている作品は他に無いだろう。そこにはいちえふに向かうための装備から、移動のこと、警戒区域の厳重な管理、そして休憩にいたるまで、作業員の1日が描かれている。

そこから見えてくるのは、かなり厳重に放射線量が管理されていること、作業環境が劣悪でこの世の地獄のように言われているが、それは本当ではないということだ。
マスクや手袋の目張りを行ったり、汚染靴で車に乗る時には必ず靴カバーをつけるし、被爆限度を遵守していて、年間線量が限界に達した人(といっても法律で定められている数値の半分以下が会社で規定されている)はリセットされる4月までは再度現場に入れないようになっている。作業員は何かしらの症状が出るような量を被爆しているわけではないのだ。

もともとこの作品が描かれた動機が、休憩中に読んだ新聞や週刊誌などの「福島第一原発に潜入!」といった記事が、一面の真実はあるものの偏った内容がほとんどと感じ、「作業現場のありのまま」を伝えたいというもの。なので、作中でも『冷たい水が飲めるのは東電社員だけ』や、『救急体制の不備が原因で作業員が亡くなった』という週刊誌の記事が嘘であることを、実体験や実際に救護に当たった人の証言から描き出している。

この作品に「衝撃の事実」や「フクシマの隠された真実」は無い。でも、そこには確かに「福島の現実」があるのだ。
撮影禁止である部分も、漫画なら鮮明に描くことができる。全カットをアシスタントなしで描いたという絵は細部まで非常に緻密で、休憩所にあるポスターなどに至るまで描かれている。それがまた「現実」を強く感じさせてくれる。

ちなみに、本作品はモーニング誌の新人賞である「MANGA OPEN」の大賞を満場一致で受賞した。新人賞の作品としては異例なことだが、冒頭4ページがカラーで描かれ、本日発売のフライデー誌に作者インタビューが掲載されていたりする。こちらも本編と合わせて読んでもらいたい。


福島第一原子力発電所は、最近でも汚染水の問題などが起きている。その現場ではいったいどういうことが起きているのか。中では淡々とした日常があり、何よりも作業している人たちも「人間であり、日常がある」という、当たり前のことを認識させてくれる。

なお、本作は読み切りではあるが、竜田氏はまた来年1Fへ行き、働く予定だという。
「一度携わった以上、廃炉まで見届けたいと思うんですよ。自分が生きている間には難しいかもしれないけれど……。
1Fで働いて、またその時の様子を漫画で描く。そんな生活ができればいいな、と思っています」(フライデー誌インタビューより)
続編が描かれることに大きく期待したい。

全ての日本人が多かれ少なかれ原発問題に向き合わなければならない今、是非読んで欲しい作品だ。
(杉村 啓)