9月26日に自民党総裁選が行われ、安倍新総裁が誕生しました。その総裁選直前に、安倍総裁が昼食に3500円以上するカツカレーを食べたことが大きく話題になりました。


このニュースは基本的には好意的にとられていたのですが、一部の新聞などでは「『庶民感覚が失われている』といった非難がネットで起こっている」と書いて、大炎上していたりもしましたね。本当にネットで高級カツカレーのことを非難しているのだったら、その翌日から起きたカツカレーブームはどう説明されるのでしょうか。あちこちのお店でカツカレーが品切れ続出だったようです。

さて、安倍総裁と言えば記憶に新しいのは、2007年に内閣総理大臣を急に辞職したことでしょう。この原因について、安倍総裁は自身が「潰瘍性大腸炎」という病気であることを公表しています。この「潰瘍性大腸炎」という病気について、実は同病患者歴10年以上である私が、少し患者側視点から解説していきたいと思います。


「潰瘍性大腸炎」は簡単に言うと、大腸に潰瘍ができて炎症が起きる病気です。何故潰瘍ができてしまうのかというと、免疫に異常が出て、自分の腸の壁を自分の免疫が異物であると勘違いして攻撃してしまうのですね。そうした結果、腸の壁が傷つき、潰瘍ができるというわけなのです。

この病気の厄介なところはこの免疫の異常にあって、基本的には治るということがありません。薬で症状を抑えるしかないのです。それと、何故この病気にかかるのかということの原因も不明です。
原因不明で、治療法が不明な病気。そう、潰瘍性大腸炎は「難病」なのですね。厚生労働省によって「特定疾患」に指定されている「難病」になります。

もうちょっと詳しく解説していきましょう。

潰瘍性大腸炎は「炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease、略してIBD)」の一種です。IBDには潰瘍性大腸炎の他に、同じ消化管に炎症を起こす「クローン病」があります。
潰瘍性大腸炎が大腸にのみ炎症を起こすのに対し、クローン病(ちなみにクローン人間とかのクローンとは違います)は消化管全体のどこにでも炎症を起こす可能性がある病気なのです。もちろんクローン病も特定疾患に指定されている難病になります。ちなみにアルファベットの略称では潰瘍性大腸炎はUC(Ulcerative Colitisの略)、クローン病はCD(Crohn's Diseaseの略)とも言ったりします。

これらのIBDは共に難病であり、治療法が不明です。なので、ずーっとつきあっていくしかありません。治療法が不明ということは、治らないので、治療というのは症状を薬で抑えることになります。
ただ、薬を服用していても症状が重くなったり緩くなったりを繰り返していく場合があるのです。この症状が重くなっているときを「活動期」、軽くなっているときを「寛解期」と言ったりもします。寛解期を迎えて症状が良くなったと思っても、また再燃することがあったりするのですね。

潰瘍性大腸炎は全国で約11万人の患者がいると言われています(平成21年度特定疾患医療受給者証交付件数より)。基本的には若い人がかかると言われているのですが、あらゆる年代で発症しています。今でも年間8000人以上の患者が増え続けていると言われていて、誰もがこの病気にかかる可能性があったりします。
何せ、原因不明ですから。私の場合も若い頃(20代前半)に発症して、この病気とは結構長いつきあいだったりもします。

いったいどういうきっかけで自分がこの病気にかかったと気づくのか。例えば私の場合はある日トイレに行ったら、びっくりするぐらいの出血があったのがきっかけでした。最初は痔かな? と思ったのですが、病院に行ったところ「そこで出た血は赤かった? 黒かった?」と聞かれました。「赤です」と言ったらすぐに検査となり、大腸内視鏡検査というお尻からカメラを入れて直接大腸とかを見る検査で炎症を発見。
病気が発覚しました。例えば胃潰瘍とかだとちょっと黒っぽい血が、潰瘍性大腸炎だと鮮やかな赤い血が出るとのことで、すぐに検査になったのです。なので、みなさんもお腹が頻繁に痛くなって、トイレに言ったりしたときに大量の出血(しかも赤い)が出た場合にはすぐに病院に行って検査をすることをオススメします。

この潰瘍性大腸炎になるといったいどうなるのでしょうか。基本的にはおなかが痛くなります。ただ痛くなるだけではなく、下痢をしたり便に血が混じるようになっていきます。多いときには、さきほど書いたようにちょっと引くぐらいの血が出るのですね。症状が重くなると、便に粘液や膿が混じったり、発熱をしたり慢性的な腹痛に悩まされることになります。それでなくても自分の免疫が腸を攻撃するのですから、腸が刺激され、30分に一度ぐらいトイレに行きたくなったりして眠れなくなったりすることもあるのです。普通の便意を催したときの腹痛とは、質は同じかもしれませんが、ちょっと頻度が違ったりするのですね。

潰瘍性大腸炎になると何をすればいいのでしょうか。まずは食事制限です。基本的には腸に炎症ができているのですから、刺激物は避けた方がいいということになります。そりゃそうですよね。傷口に辛子を塗るようなものですから、お腹の中であいたたたとなっちゃうわけです。というわけで、私の場合は10年以上カレーを食べませんでした。だから多くの人が惑わされるあの魅惑のカレー臭やカレー写真に対しての耐性が人一倍あったりします。

他にも高カロリーの方がいい(基本的に下痢などの症状があったり消化吸収力が低下したりすることがあるので、エネルギーが高い方がいいのです)、脂の多いものは食べない方がいい(脂肪は他の栄養素に比べて腸への刺激が強いので)とか、腸の中に残らないものがいい(低残渣)とかがあります。

そして、薬です。基本的には症状を抑えるために薬を飲むのです。治らないもしくは治ったように見えても生涯毎日飲まなければならないわけですから、まともに考えると薬代だけでも相当な金額になってしまいます。なので、特定疾患に認定され、薬代などで補助金が出るというわけなのです。

あとは、ストレスです。ストレスは万病のもとなんて言ったりもしますが、潰瘍性大腸炎にとっても過度のストレスが良くないことには変わりありません。なるべくストレスが過度にかかりすぎないようにするといいと言われています。

2007年の安倍首相(当時)は、公務が不可能なほど重くなっていて、辞任後即入院したということで、相当症状が重くなっていたようです。あれこれ気をつけて、薬を飲んでいても、重くなるときは重くなってしまう。完治する方法がよくわかっていないということは、こういうことなのですね。

さて、今回のカツカレー騒動ですが、個人的には一番最初にニュースを聞いたときには「カツカレーのような刺激物が食べられるぐらいまで回復したのか!」と思ったりしました。公務ができないほどの症状だったのが、ほぼ症状がおさまり、カツカレーを食べても大丈夫なまでになったということは非常に喜ばしいことです。

ただ、安倍総裁の場合は新薬が効いたということですが、他の患者の方が同じ薬を飲んで同じように効くとは限らないのが難しいところだったりします。免疫に個人差があるので、どんな治療法がその人に一番効くかは試してみないとわからない状態なのですね。ちなみに私の場合は血液をいったん抜いて顆粒球を取り除いて戻す顆粒球除去療法が効果あり、今では完治に近い状態となっています。でもこれも、全ての人にここまで効果があるとは限りません。

この病気は、比較的知っている人が少なく、テレビなどでも「単にお腹が痛くなって首相を投げ出した」などと言うコメンテーターがいるので、本記事が理解の一助になれば同じ患者として幸いに思います。
(杉村 啓)