エキレビ!ライターでもあるミステリ作家・我孫子武丸が「半世紀に一度の傑作!」と言い切ったドラマ「それでも、生きてゆく」。先日待望のDVDも発売され、ドラマ・脚本・役者への思いが再燃した我孫子氏が、このドラマの脚本家・坂元裕二氏に対談を依頼。
濃密な作家対談を全4回に渡ってお届けします。

<夏だから冒険的な番組をやらせてくれた>

我孫子 最終回でDVDの告知がなかったじゃないですか。僕は「これが後世に残らないとしたらドラマ界はどうにかした方がいい!」と思ったくらいで。それで前回のレビューを書きまして。

坂元 あのレビューには励まされました。

我孫子 視聴率が悪いと話数を短くされたりっていうのがあると思いますが、今回は当初から11話完結という予定で?

坂元 そうですね。
打ち切りという話は出なかったですね。

我孫子 さすがに打ち切りはないとは思ってましたが、最終回でも拡大はなく、DVDの告知もなく、やっぱり数字が響いたのかなぁと。

坂元 拡大がないのはそうでしょうね。拡大はあんな視聴率じゃ当然してくれないし、テレビ局にしてみたら残念な結果の番組だから、プロデューサーも肩身が狭かったかと思いますね。

我孫子 でも、前作の「Mother」が相当な評判になったわけじゃないですか。ということは今回やるにあたってもうちょっと数字も出るだろうという思いは?

坂元 これを書くにあたって僕の仕事は視聴率を気にすることではないし、そのためだけに作る気はなかったですね。
夏クールのドラマって元々視聴率は厳しいので、夏だから冒険的な番組をやらせてくれたという面もあるかもしれません。

我孫子 DVDがすごく売れるっていうことはないですか?

坂元 DVDも売れない時代だから、まあ、どうなんでしょう? でも「Mother」も視聴率の割にはそれなりに売れた印象があります。

我孫子 え? 「Mother」は視聴率よかったですよね?

坂元 いや、視聴率よくはなかったですよ。あれは尻上がりに視聴率が上がって最後が少しよかったのでちょっと錯覚されている部分がありますが、平均的には低めです。「Mother」は4月番組で、「それでも、生きてゆく」が7月番組ですから、個人的にはそんなに変わらない印象を持っています。

我孫子 季節によって誤差がある?

坂元 否定する方もいますけど、夏に視聴率が取れないのはもう歴然としているので。
夏はお盆があったりでそもそも家にいないし、普段それなりにある全体数が大きく下がっちゃうからそこでもうガクっと視聴率は下がるんですよね。夏にドラマをやるっていうことで当初から覚悟はしています。


<わかりやすくしないと視聴率は取れない>

我孫子 ドラマの視聴率って全般的にずっと落ちてるわけじゃないですか。しかも今回は暗いドラマだし、まあ、数字取れなくてもしょうがないのかなって僕も思ってたんですが、その後に「家政婦のミタ」っていうドラマが最終的に40%とか、信じられない視聴率をはじき出して。僕も「家政婦のミタ」はたまたま全部観てましたが、まあ、わかりやすいのはわかりやすいんですが、どう考えても無茶苦茶な話で。ドラマ作りにおいて、昔よりも視聴者を馬鹿にしてるっていうのはないですか? まあ単に年寄りの印象かもしれませんが。


坂元 馬鹿にしてるっていうのはないと思います。間違いなく言えるのは、わかりやすくしないと視聴率は取れないですよね。テレビはやっぱり“説明説明説明”で、水戸黄門的に予定調和な。それが馬鹿にしてるかというと、逆に誠意を尽くしてる思いです。

我孫子 馬鹿にしてるというか、これくらいしないとわからないんだろう? という思い込みは。

坂元 わかりやすくする、ということにものすごい労力を傾けている状況はありますね。
今のバラエティにしてもドラマもにしてもそうですけど、昔に比べたら遥かにたいへんな作業をしてるわけです。昔はもっとゆるく企画して、ゆるく台本作って、簡単に撮っていたのが、今はもう「ここまでしないといけないのか」というくらい、あの手この手で伝えようと。ヒットしたドラマが途方もない労力の上で作られてることは間違いない。

我孫子 坂元さんはさっき視聴率は気にしていなかったと仰ってましたが、他のスタッフの方はどうだったんですか? 落ち込んでいたりとかは。

坂元 現場で落ち込んでいた人はいなかった印象です。達成感はやっぱりみんなあって、打上げも盛りあがって。
どんなに数字取っても打上げが盛りあがらないことってあると思うですけど、打上げもちゃんと盛りあがって(笑)。プロデューサーはだいぶ肩身が狭かったと思うんですけど、達成感はあると感じました。監督も、役者さんも、現場もみんな。


<“先に何かが起こる企画”だと思って。>

我孫子 DVDも全部見直してきました。

坂元 ありがとうございます。

我孫子 改めて、以前レビューで書かせていただいたことは錯覚じゃなかったと(笑)。このドラマを観て以降、呪いにかかったというか、他のドラマを観る基準が上がってしまったというか。テレビドラマ関係者に「これが出来るんだったら君らももっとちゃんと頑張ってよ!」と思うくらいの衝撃を受けました。台詞から、役者の演技から、その動作ひとつまで。小説でもドラマでもそうなんですけども、どうしてもベタに流れがち、お約束を並べてそれで良し、としてしまいがちですよね。でも、このドラマではそういうものを最初から拒否してリアルにこだわっているわけです。

坂元 はい。

我孫子 その秘密というか、これは誰の意思で出来たんだろう? と。ある種の奇跡的なコラボ、ケミストリーということなのか、それともオリジナル脚本だから脚本家である坂元さんの思いが強かったのか。企画スタートの経緯を教えてもらえますか。

坂元 日本テレビで「Mother」をやった後、次に何をやるかというのは特に決めてなくて。そんな時、フジテレビの方から「殺人犯がいて、その妹がいる」という企画骨子を聞いて「面白いな」って思ったんですよ。この話のなにを面白いと思ったかというと、ドラマというものは“過去”と“未来”の両方に物語がないとダメなんですね。過去にトラウマを抱えた人がただ苦しんで生きているだけではドラマにならない。だけど、その話は“未来”に何かが起こる予感を抱えながらドラマが進行する、“先に何かが起こる企画”だと思って。

我孫子 確かに。

坂元 ドラマの企画って、特殊な企画や設定があったとしても、「じゃあ、その後どうなるのか?」っていう部分は書かれてないケースが時折あります。そこを解決せずにはじめると実際途中で煮詰まっていく訳ですが、この企画にはその“先”があると思ったから、その場で「それはドラマになるからやりたい!」と。その後に「瑛太さんにお願いしましょう」という話になって、瑛太さんサイドも「やりたい!」という話になって。その時点でようやくテレビドラマって動き出すんですね。

我孫子 その時点ではまだシナリオも書き始めてはいない、ということですよね。今の話だと“瑛太側(被害者の兄役)”はまだ出ていないじゃないですか。殺人犯とその妹の話、ということは、瑛太さんは殺人犯の役になるかもしれなかったと?

坂元 最初はそれも想定しました。僕の頭の中では瑛太さんが殺人犯の役の場合もあるし、その時点で瑛太さんも興味を示していた。そこからようやく僕が考えだしてプロットを練っていく中で被害者側の人間が出てきたときに「あぁ、こっちが主役だな」と。まあ、様々な要素があって判断されたんですけども、個人的には犯人目線では書けないなっていうのもありました。被害者側に話を振ったプロットで瑛太さんサイドに改めて持っていって、それで本格的に企画が進み始めた感じですね。


<善悪を決めたくないっていうのは何を書くにしてもある>

我孫子 「殺人犯がいて、その妹がいる」という話から始まったということですが、元々何か書きたかった要素というか、犯罪関係で温めていたネタがあったり、昔からこういうの書きたかったんだよな。ということはなかったんですか?

坂元 うーん…… ないですね。このドラマに関しては単体で膨らませながら書いていった感じです。

我孫子 その場に応じて必要な取材をしたりとか、シナハン(シナリオハンティング)したりとかでだんだん固まっていったと。じゃあ、坂元さんの中にもともと何か核みたいなものがあった訳ではないんですね?

坂元 「物語」において何かのネタから持ってきたというのはないですが、まあ、善悪を決めたくないっていうのは何を書くにしてもあるので。「それでも、生きてゆく」の場合だと加害者家族・被害者家族それぞれいるわけですが、そういう対立を描くのがドラマ、考え方が違う2つの立場の人間が出会うのがドラマだと思うので。だから、どんな題材が来てもこういう風になるだろうなっていうのは自分では見えてますね。

我孫子 あるインタビューで、「(犯人の妹役として)満島さんにオファーを出したけどスケジュールが合わなくて最初は断られたけども、<でもこれは満島さんでぜひ!>と坂元さんがこだわった」というのを読んだのですが。

坂元 実は「Mother」が終わったときに、「次は満島さんと仕事がしたい」という思いがあって、“妹”っていうキーワードが出たときに「あ、これは満島さんに頼みたい。満島さんに出てもらいたい」と。そういう目論見もあって企画をはじめたところも大きいですね。

我孫子 そこから、ディレクターやプロデューサーとあれこれ悩みながらシナハン繰り返したり、プロットを練り直したりっていう作業があるんですよね。

坂元 テレビドラマって東京で撮ることが多いんですね。だから、「地方で撮りたいんだ」っていうのを最初に伝えました。どんなに一生懸命撮ってもみんな東京の画に飽きちゃってる部分もあるんですけど、地方に行くとそれだけでいつもと画が違うと思ってもらえる部分もあって。そういうことで、長野、山梨を見に行ってロケ地に決めてもらえました。

part2へ続く)
(聞き手:我孫子武丸 構成・文:オグマナオト