7月4日、今夜10時から日本テレビ系列でドラマ「トッカン 特別国税徴収官」が始まる。原作は高殿円(たかどの・まどか)、「ハヤカワ・ミステリマガジン」での連載時から話題を呼び、すでに3巻までが刊行されているヒット作だ(『トッカン 特別国税徴収官』『トッカンvs勤労商工会』『トッカン the 3rd:おばけなんてないさ』)。

税金滞納者から取り立てを行うのが徴収官の役目だが、その中でも特に悪質な事案を担当するのが特別国税徴収官、略してトッカンの仕事である。ドラマの主人公である鈴宮深樹(すずみや・みき)は、その特別国税徴収官付きの税務署職員だ。彼女の上司である鏡雅愛(かがみ・まさちか)は、やり手だが冷血漢という評判のトッカン。このドラマは、2人のコンビが遭遇するさまざまな事案を通じて、税の問題や社会人として働くことの意味を語っていく作品なのである。
今回は、担当プロデューサーである日本テレビ放送網株式会社制作局・福井宏氏にドラマの背景をうかがった。そもそも、この異色のドラマは、どういうところから生まれてきたのだろうか?

福井 『トッカン』第1巻の単行本が出たのは二年くらい前だったと思います。
黄色をベースに黒いカタカナでトッカンというタイトルだったので、書店で目に止まりやすかったんですよ。税務署の話ってすごく地味なんだけど、おもしろく書かれているという評判があって、その当時から早川(書房)さんのほうにはオファーがあったみたいですね。私自身は、先輩から面白い本があるというのを教えてもらって、別のドラマを担当しているときに読んだんです。すぐに話にひきこまれました。すごくリアルに書かれているのでヒロインがいきいきとしていて。
ーーそういうときは、やはりキャスティングなども考えながら読まれるんですか?
福井 鈴宮深樹というキャラクターは、過去をひきずっていたりして後ろ向きな面もあるんですけど、私は井上真央さんのようなイメージを思い浮かべながら読みました。
後で、本を読まれたかたからはぴったりのキャストだと言われましたね。
ーー彼女は猫背のイメージというか、内向きですよね。ちょっとイラッとするようなこともいいますし。なのに井上真央さんを思い浮かべたというのが面白かったです。
福井 普通は、内向きなキャラクターってドラマでは視聴者の方が共感しにくいものなんですけど、彼女は根底にしっかりした考え方を持っているので、それが表にだせないからぐっとつまるっていうキャラクターなんですね。
ーーだから、あだなが「ぐー子」。

福井 言いたいことはあるんだけど外にだせないからぐっとつまっているっていうのが非常にリアリティがあるな、と感じました。そういうお芝居って大変に難しいんですが、井上真央さんのお芝居ならぴったりかなと。繊細なお芝居を自然にやられる方なので。ご本人も原作がすごく気に入っています。たしかに猫背な感じのキャラクターで自分の意見はそんなには言えないんだけど、あるときは反発してみたりという感じで、すごくしっくりお芝居されています。
ーーCMでちょこっとだけ演じられているところを見ましたけど、たしかにぐー子だな、と思いました。

福井 井上真央さんには、一生懸命ひたむきにがんばるキャラクターのイメージも強いと思うんです。でも今回は、最初は内向きなところから始まって、だんだんそれが変わっていくという成長過程が描けるので、ご自身でも新しいキャラクターとして演じてくださってると思うんですよね。観てくださる方も、井上さんの新しい一面が見えて楽しいんじゃないかなと。
ーー原作のぐー子は、安定している職業だから公務員になった、とか、夢も希望もないことを最初に言うんですよね。あのへんがドラマではどうなっているのか、ちょっと気になっていました。ドラマの第1話では、視聴者が「なんでこんな内向きっぽいんだろう?」ってびっくりしちゃうようなぐー子なのか、それとももう少し受け入れやすいようになっているのか。
原作とは、どれくらい違う演出なんでしょうか。
福井 かなり原作に近いと思います。たしかに彼女は安定志向で、いわゆる主人公っぽいキャラクターではないんですけど、逆にそれが今の女性の考え方としてはリアリティがあるんじゃないかと。不況で就職困難な現在、小学校の作文に書いた将来の夢を本気で目指すことが笑われてしまう風潮というか、そういう、夢を諦めちゃっている人が多い中では、ぐー子が等身大のキャラクターとして映るとおもうんですよね。でも、諦めきっているわけではない。そこのところがドラマとしてどう見てもらえるかどうかっていうところですね。
お化粧をして着飾ったりとか、友人と遊んだりとか、仕事でやりがいのあることをしたいとか、そういう希望は捨てていないけど、何よりまず安定から入らないと生きていけない。そういうことを彼女は過去の経験から強く思っているんですよ。
ーーなるほど。
福井 水曜日の10時の枠には、働く女性がどう生きていくかというのをテーマにしているというイメージがあります。そういう意味では、若い働く女性がどうやって成長していけるか、悩みを持ちながら解決していくか、というところが枠のテーマに沿っているんですよね。
ーーそれは、ウィークデイの真ん中というのが関係しているんですね。
福井 そうなんです。平日の夜10時なので、基本的にお子さんはあまり起きていない。働いている大人に見ていただくというイメージなんです。たとえば土曜の9時ならば、お子さんと一緒に観られるようなドラマを放送するんですが、それとは対称的なんですよ。
ーー原作にはお金にまつわるエピソードがたくさん出てきます。ドラマでは、それらを一話完結のような形で見せていくのでしょうか?
福井 4月期には刑事ドラマとか推理・謎解きドラマ、しかも一話完結のものが多かったんですね。そういう傾向ではあるんですけど、このドラマは一話完結にはこだわらないでいく方針です。ぐー子たちが税金を徴収していく話で、滞納者はどこにお金を隠しているか、どれだけお金を隠しているかということが興味の対象にはなるんですが、そこだけに重きを置くのではなくて、どんな人がお金でどういう苦労をしているのか、どういう考えをもって生きているのかということをヒロインを通して描ければと思っています。普通、脱税の目的って贅沢をしたいとか、そういうことだと思われがちですよね。だから、脱税している人を追及する話というと勧善懲悪的なイメージが浮かびそうなんですが、税金を滞納している人の裏側にはもっといろんな事情があって、複雑なんです。贅沢をしたいから払わないという人もいますが、大半は事業の運転資金のためにお金が必要なので、払いたくても払えないんですよ。
ーーいわゆる自転車操業で。
福井 はい。消費税とか、のちのちは納めなきゃいけないお金にまで手を出してしまう。それで滞納になってしまう人もいますよね。それはルール違反なんだけど、人として同情したくなる部分もある。そこに対するジレンマをこのドラマでは描いています。ただ、題材として地味ではあるので(笑)、視聴率とかテレビの求めている数字にはあんまりはねかえってこないかもしれないんですけど……。
ーーいや、がんばってください!
福井 でも観てもらえれば、共感していただけたり、考えるきっかけになったりするドラマにはなっていると自負しています。ご覧いただいた方に、ひさびさに良いドラマを観たな、と思ってもらえるようにがんばります。
ーー消費税増率の話題もあって、税金は今、火傷しそうに熱い問題ですね。
福井 そうなんです。そこが逆に心配で、気をつけなきゃいけなくちゃいけないところだと思っています。主人公の働く場所は税務署なので、描き方によっては公務員を一方的に擁護しているというイメージを持たれてしまうかもしれない。
ーーテレビは役人の味方なのかと。
福井 そのつもりはないんですけどね。だから、バランスよくいかなくてはいけないなと。冒頭に「公務員は国民のために全然仕事をしていないじゃないか、税金泥棒!」とか言われながら税務署員が滞納者に追いかけられる場面があるんです。一応、コメディタッチでは描いているんですけど、台詞としては多くの人の気持ちを代弁している部分もあるわけです。そうして一般の人の意見にも目を配りつつ、「でも、主張するだけじゃなくて、国民としての義務を果たしてからいろいろ意見を言いましょう。税金の使い道を正しましょう」ということもきちんと描いていくつもりです。
ーー義務と権利は両輪のものであると。

後編に続く!
(杉江松恋)