髙阪剛インタビュー 後編

(前編:朝倉未来に憧れ、青木真也に学ぶ20歳の超新星 髙阪剛は規格外の成長スピードを絶賛>>)

 9月10日の「超RIZIN.5」では、朝倉未来vs青木真也のほか、注目のカードが組まれている。そのなかで、平本蓮の約2年ぶりとなるMMA復帰戦、ふたつのタイトルがかかるメインイベントについて、髙阪剛氏に展望してもらった。

【RIZIN】平本蓮のMMA復帰戦について、髙阪剛は「緊張感...の画像はこちら >>

【平本が積み重ねてきた、打撃を生かすためのMMA】

──「超RIZIN.5」の注目カードのひとつが、平本蓮選手対カルシャガ・ダウトベック選手です。

「自分は、平本がMMAに転向してから積み重ねてきた"努力の証"みたいなものが、すごく好きなんです。彼は『試合に勝つためには努力を惜しまない』というタイプだと思うんですよね。もともとは打撃のスペシャリストですが、組みやグラウンド、寝技もしっかり練習しているでしょう。

 ただ、それは単純に"寝技で極める"ためだけにやっているわけではないと思うんです。自分がこれまで培ってきた打撃、相手を倒す技術につなげるために必要なプロセスとして、組みや寝技を身につけている。そこがすごくいいんですよ」

──MMAファイターとしての成熟度が上がった、ということですね。

「そうですね。勝つ時は打撃で勝っているけど、その奥にMMAが見えるんです。たとえば、ポジショニング。自分の立ち位置を微妙にズラしたりするんですよ。平本はパンチを当てる能力が非常に高い。でも、あえて『ここでは自分の打撃が当たらない』という位置に立つことがあります。

そこって相手からすると怖い位置なんですよ。

 それで相手が反応して動いた瞬間に、平本が倒せる位置に入る。いわゆる"誘い"ですね。立ち位置やポジショニング、プレッシャーのかけ方まで含めて、本当にMMAをやっているんですよ。パンチが当たって相手が倒れるのはわかりやすいですが、その前に何をしていたのかを知ると、『だからあのパンチが当たったのか』となる。それが試合の"厚み"です」

【約2年間の成熟期間を経て迎える復帰戦】

──平本選手は約2年ぶりのMMA復帰戦になります。この時間をどう見ていますか?

「MMAは、時間の経過とともに得られるものや、知り得る情報がすごく多い競技です。技術だけじゃなくて、人としての成熟度とも深く関わっていると思います。いろいろな経験を重ねることで、物事の考え方や見方にどんどん厚みが出てくる。

 若い頃には『こうだ』と思っていたことが、年齢を重ねると『いや、そうじゃなかったな』と別の見方ができるようになります。でも同時に、『あの時にこう思っていたことも正解だったよね』とも思える。そうやっていろいろなものを手に入れていくことが、MMAではすごく大事なんです」

──そう考えると、試合をしていなかった時間はブランクではなく、MMAファイターとしての厚みを増す時間だった?

「そうですね。決して無駄な時間ではなかったはずです。

MMAファイターとしての成熟度を高めるための時間の使い方をしていたんじゃないかなと。あれだけファンがいて、常に話題になり、会場にも姿を見せ続ける。それだけでも本人のなかでは、いろいろな部分で成熟していったと思うんですよね。

 その時間を経て、ダウトベックというすごく強い相手と試合をする。見る側からすれば、『どれだけ成長したんだろう』という楽しみがある一方で、ダウトベックは強いので、『うまくいかない平本蓮を見ることになるかもしれない』という緊張感もある。いろいろな角度から見どころがあり、惹きつけられるカードだと思いますね」

──ダウトベック選手は、ボクシング強国のカザフスタン出身で、自らもボクシングがバックボーンにあります。フィニッシュ率も高いですから(19勝中15KO/TKO)、緊張感の高い試合になりそうですね。

「そうですね。テクニカルなところでいうと、ダウトベックはサウスポー。平本はどちらの構えもできますが、サウスポーでいくなら"相四つ"になります。ダウトベックで怖いのは、もちろん左の一発もあるんですけど、左ボディなんですよ。左が顔にくると思わせておいてボディに変える。

そこで相手の意識を下に散らして、また顔面に戻す。上下に打ち分けてきます。

 ただ、平本は左ボディを簡単にはもらわないと思います。相四つなので、前の手でブロックしやすいですし、ダウトベックがボディを打ってきたところにカウンターを合わせることもできる。体を左サイドへずらしながら左ストレートを当てる、といった技術もすごく高いですからね。お互い打撃のスキルが高いので、今まで見たことのない攻防になるかもしれません」

【シェイドゥラエフとAJ・マッキーは噛み合わない可能性あり】

──大会のメインイベント、現RIZINフェザー級王者のラジャブアリ・シェイドゥラエフ選手と、AJ・マッキー選手によるダブルタイトルマッチ(RIZIN/PFL)はいかがですか?

「これも注目ですね。シェイドゥラエフは、RIZINで試合を重ねながら本当に強くなっていった選手。RIZINがなかったら、ここまで成長していなかったんじゃないかと思うくらいです」

──一方のAJ選手は、元Bellator世界王者のオールラウンダーです。

「本当になんでもできる選手です。試合の持っていき方もうまいし、"負けない試合"をする技術がすごく高い。このふたりは、MMAの種類が少し違うと思っています。だから正直、どういう形の試合になるのか、どれくらい噛み合うのかはわかりません。

言い方は悪いかもしれませんが、ファンが興奮するようなわかりやすい試合にはならない可能性もあると思います」

──AJ選手が、シェイドゥラエフ選手の強みを消してしまう可能性がある?

「ありますね。『RIZIN.40』のホベルト・サトシ・ソウザ戦でも、相手の得意な展開をほとんど作らせなかった。シェイドゥラエフに対しても、『あれだけ強かったのに、今回は何もできないじゃん』と思わせるような試合にしてしまうかもしれません」

──髙阪さんとしては、このカードには少し複雑な思いもある?

「ちょっとありますね(笑)。シェイドゥラエフが何もできなくなる姿は、あまり見たくないです。逆に、これまで見たことのないシェイドゥラエフを引き出す可能性が最も高い相手でもあると思います」

──AJ選手は身長で8cm、リーチで15cm上回っています。サイズ差もありますね。

●AJ・マッキー:身長178cm/リーチ189cm

●シェイドゥラエフ:身長170cm/リーチ174cm

「けっこう差がありますね。これは海外の選手全体に言える話ですけど、最近は体重をうまく作れないケースも続いていますから、『頼むから減量失敗はしないでくれよ』と願っています(笑)」

【プロフィール】

■髙阪剛(こうさか・つよし)

学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちと鎬を削ってきた。格闘技界随一の理論派として知られ、現役時代から解説・テレビ出演など様々なメディアでも活躍。丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、多くのファイターたちを指導してきた。

またその活動の幅は格闘技の枠を超え、2006年から東京糸井重里事務所(現・株式会社ほぼ日)にて体操・ストレッチの指導を行っている。2012年から2015年までラグビー日本代表のスポットコーチに就任。現在は、RIZINで活躍する堀江圭功選手や上田幹雄選手らを指導している。

篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

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