「六甲のおいしい水」の誕生物語
「六甲のおいしい水」はカレーに合う水として発売されたわけではないけれど、カレーに合うことは間違いなし
先日コネタでハウス食品株式会社の「即席ハウスカレー<復刻版>」についてお伝えしたが、この時もう一つ以前から気になっていた「六甲のおいしい水」についてもお話を伺った。
以前「六甲のおいしい水」はもともとはカレーに合う水として発売された、と雑誌に書かれているのを読んだ記憶があるのだが、それは本当なのかどうかずっと気になっていたのである。

さっそくこの質問を広報IR室の方にぶつけてみると、「いや、それは違いますね。1983年に発売を開始した『六甲のおいしい水』は現社長が開発に関わりましたがそういう話は聞いておりませんよ」とあっさりと否定されてしまった。

「ご存知のとおり当社は飲料分野においては後発です。もともと当社が飲料分野に進出するにあたって、まず第一に他社がやっていないもの、市場にないものを、と考えました。そんな中で生まれたのが家庭用のミネラルウォーターです。1980年当時は日本では『水と安全と空気はタダ』という風に多くの方が考えていました。
でもこの頃から、いえ、それ以前からヨーロッパなどでは水は買う、という文化がありました。開発にあたった当時の社長は海外で多くの人々が水を買うことを実際に見ていて、いずれ日本でもお金を出して水を買う時代が来る、と開発を決断。現社長がこれを受け、販売にこぎつけたのです」

今では水を買うことは特別なことではないけれど、当時としてはかなりのカルチャーショックである。
「実際販売する前に社内で社員に商品についてプレゼン、いわゆる説明をするのですが、この時も水を売るということに関して疑問視する声があったようです。当時開発を担当した現社長は返品されてきたら六甲のおいしい水で風呂に入るつもりか、というようなことも社内で言われたそうです」

「それと、販売していく上でも色々苦労はありました。当時は小売店などでも水を売る定番のスペースなどありません。
まずは置いていただく場所を確保することからはじめました。幸いなことに当社はカレーという商品を持っています。そこでカレーといえば、水ですね、ということでカレーの特売コーナーでカレーと一緒に。そしてご飯を炊くときにも使えますよ、と米売場の横に。また、麦茶やコーヒーにもおいしい水を使うといいですよ、と色々なコーナーに商品を置いていただくようにしたのです。そうこうするうちに消費者の方にも小売店の方にも徐々に認知されるようになったというわけです」

すごい話です。
どうやらカレー売場の横に置かれていた時期などもあったため、「カレーに合う水として発売された」みたいな説が登場してしまったようだが、そんなに単純な話ではなかった。

「『六甲のおいしい水』という名前にしたのはお客様の意識調査で『おいしい水』について訊ねたところ、どこそこで飲んだ○○の水」のように飲んだ場所や地名を挙げられる方が多かったんです。そこで当社は、多くの名水の中から『灘の宮水』として酒造りでも評価の高かった兵庫県の六甲山系の水を選び、商品名も特徴がわかりやすいよう『六甲のおいしい水』としました」

ネーミングも「灘」とせずに「六甲」となっているのがいい。だって「灘のおいしい水」じゃ何となく酒の隠語みたいだもの。また、六甲の水は国外では「赤道を越えてもおいしく飲める水」として「神戸ウォーター」と呼ばれ、世界中の船乗りに親しまれていたのだとか。
「六甲のおいしい水」はカレーに合う水として発売されたわけではないけれど、カレーに合うことは間違いありません。

(こや)

ハウス食品HP