世間を驚かせた西島秀俊の結婚報道。いま、この話題がまったくちがう問題に発展している。
〈だいぶ間違った解釈をされてるけど、わざとなのかな...〉
このように疑問を投げかけたのは、コラムニストの能町みね子。「女性自身」(光文社)が「西島秀俊の厳し過ぎる結婚条件 耐えた妻に"プロ彼女"の声」と題した記事を掲載したのだが、ここで使われている"プロ彼女"という言葉が誤用だと訴えたのだ。
能町のTwitterによれば、"プロ彼女"という言葉が生まれた経緯は、ロンドンブーツ1号2号・田村淳の結婚相手について〈「彼女は一般女性というよりはプロの女性だろう」みたいに書いたのが最初〉。それがラジオを通して「プロ彼女」というネーミング誕生にいたった。元タレントとしての人脈を使って芸能人に近づき、かつ、元タレントなのに一般人と自らを称する......淳の結婚相手に漂う狡猾さをシニカルに表現したのが、"プロ彼女"だったのだ。
しかし、それをなぜか「週刊女性」は〈プロ彼女とは、"非の打ち所がない彼女"のこと。
だが、こうした誤用は最近とみに増えている。その一例が、流行語となった"負け犬"だろう。
"負け犬"という言葉が広く使われるようになったのは、酒井順子の30万部を突破したベストセラーエッセイ『負け犬の遠吠え』(講談社)が発端。
ところが、この言葉もマスコミが誤って使用し、"未婚で子ナシの30過ぎ女は負け犬"という、酒井の意図を無視して世間に浸透。「結婚できない負け犬女の生態」だの「理想が高すぎる負け犬女たち」だのといったように、未婚女性を肯定するどころか、正反対に未婚女性を侮蔑する際に用いられている。あげく、本の意図とは真逆の"婚活"ブームすら引き起こしてしまった。
さらに今年、ワイドショーや雑誌を賑わせた"家事ハラ"も、悪質な誤用例だ。
にもかかわらず、旭化成ホームズが"夫の家事協力に対する妻のダメ出し行為"という真逆の使い方でアンケートの実施やキャンペーンを展開。この誤用には抗議が殺到したが、テレビや雑誌ではまちがったままの意味で使用され、メディアでは「家事を手伝う夫を罵る妻たちの実態」「夫が受けた妻からの"家事ハラ"」といった特集が氾濫した。
こうして誤用例をひとつひとつ上げていくと、すべてにおいて"改悪"が行われていることに気付くだろう。
前述の竹信は、"家事ハラ"の定義のすり替えに対し、これまでも同じようなことが繰り返されてきたと述べる。
〈職場での性による排除という深刻な人権侵害を表す言葉〉だった"セクシュアルハラスメント"が、〈男性週刊誌を通じて「お尻などに触る程度のお遊び」「社内恋愛」として広められた〉こと。〈仕事を分け合って失業を防ぐ〉という"ワークシェアリング"が、〈日経連によって「賃下げで失業を防ぐこと」と定義を変えられ、記者会見で「ワークシェア=賃下げ」が繰り返された〉こと。〈女性と対等に気軽につきあえる新しい男性像〉を示す"草食男子"が、〈雑誌などを通じて「恋愛もできないダメ男」の意味へとすり替えられていった〉こと。こうした実例を挙げた上で、竹信はその構造をこのように分析している。
〈共通するのは、発言権を持つ層が、自分たちに都合の悪い新語の意味を「わかりにくい」として言い換え、マスメディアを駆使してそれを拡散し、本来の改革的な要素を骨抜きにしていく手口だ〉
社会に蔓延る価値観を転覆しようとする言葉を、反対に保守的な意味へと差し替えるメディアの下劣さ。
(田岡 尼)