最近、青山裕企の『SCHOOLGIRL COMPLEX』を皮切りに、ちょっとした「女子高生は最高ブーム」みたいなものがきています。
といってもリアル女子高生の生態の話ではないです。もっと観念化された「女子高生」というアイテムです。
たとえば制服。たとえば紺ソックス。たとえばローファー。たとえばナイロンスクールバッグ。
「女子高生」の語が持つイメージの肥大化がぐんぐん加速しているのです。
つーことはあれですよ、逆に言えば中身は女子高生じゃないハリボテ化でもあるってことです。
記号化されていく女子高生。
でも残念ながらそこにときめいてしまうのもまた、事実なわけですよ。
「女子高生」というのは一種のブランド名。
そんなですから、『イモリ201』が出たときは衝撃でした。
もうこのモノローグがすべてを物語っていますよ。
「俺の部屋のお隣に住む井森さんは……21歳無職の自称女子高生だということです」
色々矛盾しすぎですよね。留年じゃなくて、卒業しているのに女子高生を自称している井森さんがヒロインなんです。
卒業して3年。年齢は一応隠していますが、21歳であることは周知の事実。
年齢のことは言われたくないらしく、追求されるとすごい困る井森さん。でも言い張ります。私は女子高生だ! と。
その主張を通すために、普段は下着の代わりにスクール水着を着て、年中制服を着て町を徘徊しているという徹底っぷり。ヒマ人の頂点みたいな井森さんだからできる技です。
でもその技を使いつつお酒飲んでフラフラしていたら、警察にも捕まるってなもんです。
「私は24時間365日女子高生でいたいのっ! 私を構成するすべてのものは女子高生的じゃなきゃダメなのっっ!!」
井森さんのセリフです。
もう単なる痛い子なんです。ぶっちゃけていえば女子高生……のコスプレ。
ストーリーも極度の電波系ラブコメギャグマンガ。ちょいエロもあり、何も考えずに楽しめます。井森さんの飛び抜けた発想で気楽に笑える内容なんです。
しかし、井森さんのこのセリフどうにも引っかかる。
そこまで「女子高生」って特別なんだろうか?
そう、特別なんですよ、少なくともこの作品においては。
左に載っているイラストが如実にそれを物語っています。
今は亡きブルマ、スクール水着。ファンシーグッズとお菓子とクスクス笑い。
井森さんの行動は極端に走り過ぎているため、逆に「女子高生」ではありません。「女子高生的」なものを収集しようと必死です。
精神的にもすでに卒業してしまっているから「女子高生に憧れを抱く大人」の位置。
ああ、井森さん、あなたの奇天烈な行動、それはあなたが女子高生じゃないからなんだよ。
ところがこんな困った井森さんですが、読み進むとなんだか可愛く見えてくるから困るんですよ。
それは女子高生っぽいから?
いいや、正反対。だってだらしないし、単なる「女子高生的なものマニア」なのもきっちり描かれていますもの。
加えて、作中の井森さんの妙に生々しい部分が、井森さんが求めている女子高生的なものと乖離しているんですよ。のんべえでおやじ臭い性格が、作中に登場する他の本物の女子高生との対比で浮き彫りになっていきます。
ということは、なんだ、「女子高生的」な外殻ではなくて、井森さんがかわいいってことなのか。
そんなばかな!
いや待てよ、「女子高生的なもの」が大好きで、お酒が大好きで。
いけないいけない、ゲシュタルト崩壊してしまう。
いや、かわいい、確かにかわいい。やはり外側じゃなくて最終的には中身なのか?
女子高生を構成するあらゆるものを求める心理が一体なんなのかを、気軽な笑いと一緒にするっと滑りこませてくる本作。
人生を謳歌する人間像が魅力的なのか。女子高生的な記号が魅力的なのか。
もし後者が肥大化しすぎたら「女子高生的」な物体だけでも商売できる時代がくるかもしれません。
……え? ブルセラ? そんなのもあったね……!
いつまでたっても人は「女子高生」の呪縛から逃れられぬのか……そうか。
(たまごまご)