篠原涼子主演の月9ドラマ『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』。先週放送の第7話の視聴率は5.8%。
かなりの危険水域に入ってきた感じ。(ノベライズ)
「民衆の敵」視聴率が危険水域に突入。だが高橋一生は理想の高橋一生だった、もうちょっと活躍が見たい7話

ド素人の新人市議だったはずの佐藤智子(篠原涼子)が、いきなり市長になるという展開についていけない視聴者が多いようだ。どうせなら『スカッとジャパン 政治編』ぐらいな感じで、篠原涼子が金と忖度とヘイトにまみれた政治家たちぶった切るようなドラマが良かった……ような気がする。

「独裁政治のはじまり、はじまり~」


「私、あなたなら、自分の力新しい風を起こしてくれるって、信じてた」

智子の友人、新聞記者の和美(石田ゆり子)はリベラルらしい潔癖さで智子と距離を置くようになる。

「でも、大事でしょう。支持率が上がれば、多少強引なこともできるようになるわけだし」
「そんなことする気はないから」
「あなたにはなくても、犬崎さんは?」

福祉政策に力を入れる智子の人気はうなぎのぼり。支持率が上がれば「信任を得た」として、どんな法案でも通してしまうのは現実の政治も同じ。
「福祉、福祉と踊らせておけば、市民は喜びますからね」と言い放つ犬崎は、裏でニューポート開発計画を進めていた。前の市長である河原田(余貴美子)が中止したものだが、自身が実験を握ったためリスタートしたのだ。

「市長と議会の最大会派にタッグを組まれれば、僕たちにできることなんて何もないですよ!」
「独裁政治のはじまり、はじまり~」

新人議員の園田(斎藤司/トレンディエンジェル)と同じく新人議員の未亜(前田敦子)の会話だ。お茶の間の人気者2人にさせる会話のわりにはエグい。彼らは智子もニューポート計画に加担していると思っているが、実際には完全に蚊帳の外だった。

ちなみに1995年、無所属で都知事選に出馬した青島幸男氏が当選の後、すでに決まっていた「世界都市博」を中止したことがある。
東京都議会は圧倒的大差で都市博開催を決議したのだが、青島都知事一人でひっくり返したのだ。なお、現在の東京都議会は最大会派が「都民ファーストの会」、都知事はかつて同会代表だった小池百合子氏である。園田と未亜の言葉を借りれば、両者が結託することで「独裁政治」が始まるということになる。

古田新太がだんだん小沢一郎に見えてきた


ニューポート計画には、建設を反対する住民たちがおり、反対派は工事現場の前に座り込んで工事を妨害していた。ニューポートは具体的な利用計画がない上、指定された臨港地区は非常に広範であり、その地域の住民は立ち退きを要求されていたのだ。反対派のプラカードには「自然を守れ!」のほかに「住環境をこわすな」という文字もあった。彼らにとっては死活問題なのだ。


さらにニューポート開発委員会の議事録は黒塗りだらけだった。和美は黒塗り資料を手にして果敢に犬崎に切り込むが、何も答えてもらえず、逆に犬崎は和美の身辺を調べるよう命令する。現実にも権力者にしつこく質問する新聞記者は、身辺を調査されることがあると聞く。

そしてついに反対派の強制排除が行われる。「代執行令書」には市長である智子の捺印があった。抵抗すれば公務執行妨害で即逮捕である。
報道を見て憤る智子だが、犬崎に「あんたは口を出すな」と凄まれると何も言い返せない。だんだん古田新太が小沢一郎に見えてきたぞ。横顔なんかそっくり。

それでも藤堂(高橋一生)は智子の味方だ。藤堂は「犬崎が勝手にやったこと」と弁明する智子を「それじゃ通らない」と諭す。相手の話を聞きながら、的確なアドバイスを与え、自分に考えさせる。
うーん、理想的な高橋一生だ。もうちょっと活躍が見たい。

秘書も副市長も全員解任! 智子市長のクーデター


和美と話をして、ニューポート計画そのものに疑問を持ちはじめた智子は、犬崎らへの反抗を決意する。ママたちの力を借りて、独断でニューポート計画に関する緊急記者会見を開いたのだ。

率直に謝罪する智子に対して、記者たちからは「犬崎議員の傀儡政権では?」と質問が飛ぶが、「政治に裏なんかあっちゃいけないんです!」と熱弁。副市長の前田(大澄賢也)、秘書の富田(渡辺いっけい)らスタッフを全員解任すると発表する。
市長自らが起こしたクーデターだ。

犬崎らは「市長はストレスで正常な判断ができなかった」ということで智子を休養させる方向で動き出す。さらに和美のプライベートを暴き、社会的に抹殺しようとする。一方、智子は藤堂に副市長になるよう頭を下げるが……。

前回のレビューで予想したとおり、傀儡として抜擢された政治家のスミスが不正を行う一味に反乱を起こすと映画『スミス都へ行く』(39年)と同じようなストーリー展開となった。このまま残り話数で、智子と犬崎一派の“政争”が繰り広げられるのだろう。

だけど、率直なところ、視聴者は“政争”が観たいのだろうか? 裏で蠢いて利権をむさぼる権力者にカウンターパンチを浴びせるなら、徹底的にやらなきゃダメだ。昨今、政治を動かす人、自分と思想が近い人なら、多少の嘘やダーティなことは認めるという考え方は、政治家だけでなく民衆にまで広がりつつある。“リアリズム”を標榜する彼らは、理想を語る人たちを“お花畑”と切って捨てる。犬崎一派を倒すなら、そこまで撃たないと意味がない。

もう一つ、智子の福祉政策がドラマの序盤で触れられていた貧困層のシングルマザー親子(安藤玉恵)や介護離職によって孤独を抱えるようになった若者(渋谷謙人)らの助けになっていないことも気になる。ドラマの中で智子を支持しているのは、一般家庭のママさんたちだ。彼女らも弱者のうちに入るのだろうが、さらに深刻な弱者たちのことを(触れ合っていたはずなのに)忘れているように見えてしまう。

千葉雄大、前田敦子、斎藤司ら人気者たちがまったく筋に絡んでこないのも不思議。副音声やスピンオフドラマのために集めたわけでもあるまいに。余貴美子の前市長、自殺した秘書の細田善彦の扱いの軽さも不可解だ。残り話数は、篠原涼子、高橋一生、石田ゆり子の3人で戦うのだろう。

犬崎たちはダーティな手を使って智子たちを追い詰めるけど、智子たちは市民の支持を得て勝ちました……では、現代の政治的な話題を取り扱ってはいるけれど、現代的な政治の話になっていない。約80年前の映画と同じことをやっていてはいけないと思うんだけど……。第8話は今夜9時から。