「自分だけは大丈夫」と思っていませんか? 超高齢社会の日本において、「認知症」は決して他人事ではありません。まずはその実態を正しく知ることから、安心への第一歩が始まります。


『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』では、20年以上の介護現場経験と介護福祉士の国家資格を持つお笑い芸人・安藤なつさん(メイプル超合金)が、医師の繁田雅弘さんと共に介護の初歩をやさしく解説しています。

今回は本書から一部抜粋し、認知症についての意外と知られていない事実と、日本人の3人に1人が認知症と共に生きる実態について研究データを踏まえて紹介します。

■誰でも認知症になる可能性がありますか?
安藤さん:そもそもですが、わたしたちは誰でも認知症になる可能性があるのでしょうか?「自分は大丈夫」と思いたい気持ちもありますが、読者の方が一番気になるところだと思うんです。

繁田さん:結論から言えば、認知症は誰にでも起こりうる病気です。特別な体質の人だけがなるものではなく、年齢を重ねれば重ねるほど発症するリスクは誰でも高まります。

安藤さん:やはり、「一部の人だけの病気」ではないんですね。

繁田さん:はい。たとえば65歳を超えると、年齢とともに発症する方の割合はぐっと上がっていきます。特に85歳以上で見れば、その割合は30~40%にまで達するという調査結果もあり、これは実に「3~4人に1人」が認知症と共に生きているという計算になります。

安藤さん:3~4人に1人……。そうやって具体的な数字で聞くと、急に他人事ではなくなりますね。この背景にはやはり、寿命が延びた影響が大きいのでしょうか。
長生きできるようになったからこそ向き合わなければならない、現代社会ならではの課題とも言えそうですね。

繁田さん:その側面は大きいですね。認知症の人が増えているのは、日本が長寿国になったからです。かつては発症前に天寿をまっとうする方が多かった。人生が長くなったことで、表面化してきた病気とも言えます。

■支え方で変わる「暮らしやすさ」
安藤さん:認知症の人が増える社会の中で、「どう支えるか」「どう受け止めるか」が、とても重要になってきますよね。同じ認知症でも、地域によって見え方が違うように感じます。

繁田さん:本当にその通りです。認知症に対する受け止め方には地域性が大きく影響します。象徴的なのが、長崎県・五島列島のお話です。そこでは、認知症の方が一人で歩いていても近所の人が「○○じいちゃん、さっきウチの家の前を通ったよ」と自然に家族へ知らせ、家族も「いつもの散歩コースだから大丈夫」と返すのが日常だそうです。地域全体でその人の暮らしを受け入れて温かく見守る土壌があるのです。


安藤さん:へぇ~、認知症のある生活が日常の中に溶け込んでいるんですね。都会では、なかなか難しいかもしれませんが……。

繁田さん:だからこそ、そこに医学的な視点だけを持ち込んで「危ないから行動制限しなきゃ」としてしまうと、その人本来の暮らしを壊してしまうことがあります。「この人は、こういう人生を歩んできた。その延長に今がある」と周囲が理解できると、本人も家族もずっとラクになります。

安藤さん:支え方ひとつで、暮らしやすさが大きく変わるのですね。

繁田さん:そうですね。個別の支え合いはもちろんですが、これからは社会全体でこの課題に向き合っていく必要があります。というのも、数字で見るとその規模の大きさがよく分かるからです。

安藤さん:どういうことでしょうか?

繁田さん:将来、日本でどのくらいの人が認知症になるかを研究したデータによると、2025年時点で認知症の人は約471万人、65歳以上の人口がほぼピークを迎える2040年には約584万人に達すると見込まれています。MCI(軽度認知障害)を含めれば、高齢者(65歳以上)のおよそ3人に1人が認知症か認知症の前段階という状況です。家族や身近な人の中に当事者がいるのは、決して珍しいことではありません。


■遺伝する認知症は「とてもまれ」
安藤さん:3人に1人。本当に、珍しい病気ではありませんね。もうひとつ気になるのが遺伝です。親が認知症だと、自分もなりやすいのでしょうか。

繁田さん:安心してください。大半の認知症は遺伝性ではありません。家族に認知症の方がいても、必ず子どもや孫が発症するわけではないんです。

安藤さん:「家系だから」と思い込む必要はないんですね。

繁田さん:はい。遺伝だけで決まるタイプは全体の数%未満とされ、とてもまれです。家族に認知症の人がいる人もいない人も、リスクはほとんど変わりません。多くの場合は、生活習慣や健康状態、社会的環境など、さまざまな要因が複雑に重なって発症します。


安藤さん:遺伝が運命じゃないと聞いて、少し安心しました。

繁田さん:その「安心していい」という感覚は大切ですよ。認知症は予測が難しい病気でもあります。だからこそ、「もし自分がなったら」という不安が強くなりやすいですよね。

安藤さん:「認知症のことを思うと、どうしても不安になってしまう」という声も、本当によく聞きます。

繁田さん:ある調査では、病気の中で「最もなりたくない」と答えた人が多かったのが認知症でした。それだけ、「どうなるか分からない」「周りに迷惑をかける」というイメージが先に立ちやすい病気なんですね。

安藤さん:不安が大きいからこそ、「まだ大丈夫」「自分がなるはずはない」と否定したくなるのかもしれません。

繁田さん:そうですね。ただ、認知症になったからといって、人格が突然失われるわけではありません。今は支援制度も整っていますし、周囲の関わり方次第で、その人らしさを長く保つことができます。だから「誰にでも起こりうること」として正しく知っておくことが、安心への第一歩になります。


■今回のチェックポイント
・年齢が上がるほど、誰でも認知症のリスクは上がる
・遺伝が原因となるケースは数%

安藤 なつ(あんどう・なつ)プロフィール
1981年1月31日生まれ 東京都出身。2012年に相方カズレーザーと「メイプル超合金」を結成。ツッコミ担当。2015年M-1グランプリ決勝進出後、バラエティを中心に女優としても活躍中。介護職に携わっていた年数はボランティアも含めると約20年。ホームヘルパー2級(現:介護職員初任者研修課程修了)の資格を持つ。2023年に介護福祉士の国家資格を取得。

繁田 雅弘(しげた・まさひろ)プロフィール
栄樹庵診療所院長。メモリーケアクリニック湘南名誉顧問。1983年 東京慈恵会医科大学卒業。1992年 スウェーデン・カロリンスカ研究所 研究員を経て、2003年東京都立保健科学大学精神医学教授、2005年首都大学東京 健康福祉学部学部長、2011年首都大学東京 副学長、2017年東京慈恵会医科大学精神医学講座教授、東京都立大学 名誉教授。2024年東京慈恵会医科大学名誉教授。
生家を改装し、『安心して認知症になれるまち』を育むことを目指す活動拠点の「SHIGETAハウスプロジェクト」代表。著書多数。
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