そしてルルーシュの誕生日である12月5日。『復活』後の世界を描く「コードギアス Next 10 years Project」が発表された。
まずは2021年に『コードギアス』シリーズ初となるスマートフォンアプリゲーム『コードギアス Genesic Re;CODE』がリリース決定。
さらに新作アニメとして『コードギアス 奪還のゼット』が制作される。
これからの10年を見据えた展開を、『コードギアス』生みの親である谷口悟朗監督と脚本家・大河内一楼はどう思い描いているのだろうか。
2人が考える『コードギアス』のこれまでとこれから。TVシリーズの裏話を含め、作品への想いをうかがった。
[取材・文=ハシビロコ]
『復活』後を描く意義
『コードギアス 反逆のルルーシュ』は立ち上げ当初から、長期的な展開を目指していた。だからこそ、たとえ時代が変わっても通用する物語を意識していたと谷口監督は語る。
「『コードギアス』で大切にしたのは『いつ作るか』よりも『なにを作るか』。どんな時代でも通用するよう、物語の基本構造は現実社会に即しすぎない広い視野で作りました。ただ、ここまで長く続く作品になったのはサンライズの谷口(廣次朗)プロデューサーをはじめとするスタッフのおかげです。
実は『コードギアス 反逆のルルーシュR2』の放送が終わって以降、作品を消費し尽くしてしまうような流れに危機感を覚えていました。それは、私に対する最初の依頼内容……シリーズ化できる作品を作って欲しい、というものとは違う結果をもたらします。つまりプロジェクトの失敗です。そうならないために『コードギアス』の世界を広げる新しい可能性を探してほしいとお願いしました」
『コードギアス』には派生作品が存在するが、これまでは第1期から『R2』の間をつなぐ物語が基本だった。大河内いわく、「いわゆる宇宙世紀を描いた『ガンダム』シリーズ」。そのため谷口監督や大河内の築いた世界観から逸脱しない作り方をしていた。
『コードギアス』は作り手によって自由な発想があっていいと考えていた大河内だが、間の時間軸を描く作品には見えない壁があったのではないかと振り返る。
「『コードギアス 亡国のアキト』は第1期と『R2』の間に位置付けられた作品だったため、赤根(和樹)監督には窮屈な思いをさせてしまったかもしれません。
しかし『復活のルルーシュ』でルルーシュを軸にした物語に一度区切りがつき、今はまっさらな大平原が広がっている状態。ようやく新たなスタッフが制約なく作れることに嬉しさを感じています。新作スタッフは枷がないことに不安を感じるかもしれませんが、自由な発想で描いてほしいです」
アプリゲーム『Genesic Re;CODE』や新作アニメーション『奪還のゼット』では、谷口監督と大河内が総監修を担当。基本方針としては、極力NGを出さないつもりだと谷口監督は語る。
「『復活』後の世界をフリーハンドで描くのはさすがに難しいと思うので、社会構造の変化、方向性などを最初にお伝えしました。ただ、私が出したアイデアをそのまま採用するのか、さらにアレンジを加えるのかはお任せしています。
できあがったものは、よほどプロジェクトから逸脱しない限りはNGを出さないつもりです。たとえば実在する特定国家や特定民族、特定宗教などを過剰にフィーチャーすると『コードギアス』ではなくなってしまう。そうでない限りは、基本的にOKです」
「アーサーが最強になってもいい」
本インタビュー前、『Genesic Re;CODE』の開発画面をチェックしていた谷口監督。画面を見たときに感じたのは「こそばゆさ」だったという。
「歴代『コードギアス』作品のキャラクターたちがひとつの画面に集結しており、こそばゆさを感じました。『スーパーロボット大戦』シリーズで私が関わった作品を初めてプレイしたときの感覚に近いです。
『コードギアス』を立ち上げた身としては、子どもが巣立っていくのを見守る親のよう。アプリ開発チームのみなさんが楽しく『コードギアス』を作っている過程や成果を見て、私自身も楽しませてもらっています」
『Genesic Re;CODE』には、ルルーシュやスザク、アキトなど歴代『コードギアス』シリーズのキャラクターも登場する。アプリ開発チームに対し、大河内は「委縮しないでルルーシュたちを動かしてほしい」と期待を語った。
「ルルーシュにこんなことをやらせたら作った人に怒られるのでは、と委縮しないでほしいです。
もちろんキャラクター性を守ってもらうことが前提ですが、ミレイがルルーシュをいじっているときのように、意外な表情を見せることは大歓迎。僕が驚くようなギアスの使い方もたくさん見せてほしいです」
開発チームの発想を尊重している点は、谷口監督も同じだ。
「自分たちが作った作品をほかの方が料理してくれたからこそ生まれた、新たなおもしろさに期待しています。なにかの間違いでネコのアーサーが過剰に強くなってしまったとしてもいい。開発チームのみなさんはそういう遊び方をしてくれたのか、と喜んで受け止めます」
これまでもPS2・PSP用ソフト『コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS』やニンテンドーDS用ソフト『コードギアス 反逆のルルーシュ R2 盤上のギアス劇場』をリリースしたことがあるが、アプリゲームは今回が初めて。
スマホアプリならではの展開方法にも可能性を感じていると、谷口監督は口にした。
「スマホアプリは一度出したら終わりではなく、何年でもアップデートし続けることができます。シーズンごとにエピソードを分けることもできますし、より大きな流れで物語の展開も可能です。開発風景を見ていると、かなりおもしろい作品になりそうなので安心しています。
ただ、ひとつ難点があるとすれば、私が毎日プレイするアプリゲームがまた増えてしまうことです(笑)」
一方大河内は、連載マンガのようなリアルタイムな盛り上がりに期待を寄せた。
「連載マンガや毎週放送されるアニメのように、友だちと一緒に盛り上がってほしいです。『来週はどうなるかな』、『今どこまで読んだ?』のように、みんなと一緒に楽しめるおもしろさがアプリにはあると思います。テレビと違って放送局の地域差もなく、全国どこでも同じものが同じタイミングで見られる。本当に素晴らしいことです。
アニメーションはTVも劇場版も完成してからお客さんに見てもらうので、反応によって展開を変えることはできません。しかしスマホアプリはお客さんの声を反映しながら作り上げていくことができるので、双方向で長く続けられる可能性があると思っています」
ライトノベル作家が描く『Genesic Re;CODE』
『Genesic Re;CODE』は歴代の『コードギアス』作品を振り返えられるほか、新作シナリオも楽しめる。執筆陣はライトノベルなどで活躍する複数名の作家。アニメの脚本家ではなくあえて小説家にオファーしたのは、大河内の提案がきっかけだった。
「僕自身が小説家からアニメの脚本家になった時に苦労したのですが、物語を作るという一見同じような職種でも、実は適した文章ってそれぞれ違うんです。
アニメのシナリオは映像になることが前提です。文章に書かれた物語に、映像や音楽、声などが載ってくるので、想定される情報量は数倍になります。だから、主人公の怒りを沸騰させることに小説だと5ページかかるとしたら、アニメだと音楽の力でほんの数秒でテンションを上げることも可能なんです。
僕が初めてアニメの脚本を書いた『∀ガンダム』ではアニメと小説の違いを理解できていなかったので、富野(由悠季)監督から『遅いッ!』とよく怒られました。たしかにあのとき書いていたものは脚本ではなく小説だったなと、今ならわかります。
今回のアプリはテキストアドベンチャーなので、基本的には文章だけでおもしろさを伝える必要がありました。ならばアニメの脚本家より小説家が適任だろう、と。
ライトノベル業界の豊富な人材も推薦理由のひとつです。アニメ脚本に比べてデビューの入口も活躍の場も広くて大きいですよね。あれは素晴らしいです。
それにしても、まさかこれほど豪華な面々が集まるとは思ってもみませんでした。集めてくれたスタッフ、引き受けてくれた作家さんたちには感謝しかないです。だから僕自身もいつも読むのが楽しみなんです」
アニメファンの変化と『コードギアス』の方向性
「コードギアス Next 10 years Project」のもうひとつの目玉が新作アニメーション『奪還のゼット』。第1期が放送された15年前と比べ、アニメファンからの需要は大きく変化していると谷口監督は語る。
「お客さんのアニメーションの受け取り方はここ10年ほどで大きく変わっていて、短い時間でも盛り上がる作品の需要が高まったと感じています。
ただ、この流れはアニメーションに限りません。ドラマやお笑いも同じで、きちんと組んだコントよりも一発芸の方が飛躍的に売れています。
もちろん重厚な物語を楽しむお客さんもいますが、それは大多数ではなくなってしまった。お客さんをきっちり楽しませようと思ったら、映画やNetflixなどの動画配信サイトのように頭を切り替えて集中して見ることのできる形式が向いています。
二種類に別れた楽しみ方を、企画によって切り替えていく必要があるでしょうね。」
さらに谷口監督は、日本のアニメーション展開が国内向けと海外向けに分かれつつあると語る。『奪還のゼット』にはどのような展開を期待しているのだろうか。
「『奪還のゼット』に限らず『コードギアス』シリーズに関しては、まず国内マーケット向けの展開をしっかりと行ってほしいです。
アニメーションをビジネス化するためにはソフトだけでは難しいので、立体物やアプリなどの多角展開を並行して行う必要があります。まずは日本のマーケットをしっかりクリアしてほしい。そのうえでアジアや北米といった海外にも広げていく流れは、これまでの『コードギアス』シリーズと同様です。
また、昨今のアニメーションビジネスの展開に関してさまざまな意見がありますが、私自身はなんら悪いことではないと考えています。
実は民間がアニメーションを手がけているのは日本とアメリカくらいで、それ以外の国では国の事業として予算が出ている場合がほとんどです。すると国の方針が絡んでくるため、作品の多様性が生まれにくい。対して日本のアニメーションはアメリカと同じく自立しているので、自由に作って稼ぐことができる。そのためビジネス的な視点は日本で商業用アニメーションを作る人間には必須だと、私自身は思っています」
作品も断片も愛してもらえて嬉しい
立ち上げ当初の目標通り、長く続くコンテンツになった『コードギアス』。ファンから「愛されている」と実感する瞬間について尋ねると、谷口監督からはアニメ業界ならではの答えが返ってきた。
「『復活のルルーシュ』に出演した声優の島崎信長くんや村瀬歩くん、ほかにも新人のスタッフさんから『「コードギアス」見ていました!』と言われたときは、作品が愛されていると感じました。時代の流れを感じて複雑な気持ちにもなりますが、嫌な気持ちではありません。
『コードギアス』を見てものづくりに興味を持って、アニメーション業界に来てくれたのであれば、業界に対していくばくかの貢献ができたのだろうと嬉しく思います」
なぜ『コードギアス』は世代を超えて愛される作品になったのか。理由を尋ねると谷口監督は、「正直なところ、まだわからない」とTVシリーズ制作当時のエピソードを明かしてくれた。
「『コードギアス』はさまざまな要素を取り入れた作品ですが、具体的にどの要素がお客さんに受け入れられたのかはわかりません。必死になってアニメを作っていました、としか言えなくて。
TVアニメを作っている間、お客さんの反応はまったくわかりませんでした。現場の作業で手いっぱいだったので『無印』の第24話・第25話の先行試写会にも行けなくて。もしかしてダメだったのかなあ、と不安に思ったときもあります。だからこそ当時の営業さんなど、作品に関わっていながら一歩引いた目で分析できる人の貢献が大きかったです」
「自分でも主役になれる作品」を書きたかった
大河内にとって、「『コードギアス』は今でも大好きな作品であり、みんなで作った大切な作品」。脚本家としても、気に入っているポイントがあるという。
「『コードギアス』は主人公がロボットに乗って活躍するわけじゃないところが気に入っています。
もともと戦って強いキャラクターよりも、考えて強いキャラクターのほうが好きなんです。でも、ロボットアニメだと主人公がロボットに乗って戦うところが一番の見せ場になってしまう。かけっこで一等賞をとる人がアニメの世界でも主役になるのか、と子どもの頃から複雑な気持ちを抱いていたんです(笑)。
もし考えることが得意な人がアニメの世界でも一番になれたら、こんなに素敵なことはない。だからこそルルーシュのように頭脳で戦う主人公を描けたことをとても嬉しく思っています。
『コードギアス』は僕のような、ケンカが弱い人でも活躍できる余地のある作品。主役にはなれないと思っていた、子どもの頃の自分に教えてあげたいです」
脚本打ち合わせでは複数の話数を同時に扱う。そのため前の話にさかのぼってセリフを修正したり、展開をさらに盛り上げるためにエピソードそのものを追加したりと全力を尽くしていた。中には「1晩で書き上げたシナリオもあった」と大河内は振り返る。
「第一期の第7話(『コーネリアを撃て』)は構成にはない話でした。でも、そうすると、コーネリアという新しい敵が出てきて、最初の戦いで負けてしまう。そんなキャラクターじゃあ後半の敵として怖くない。そこで、第8話(『黒の騎士団』)の前に、コーネリアの強さを見せる話を入れたんです。そうすることで、ルルーシュが黒の騎士団を立ち上げる流れに説得力も生まれるし。そこでプロデューサーの河口(佳高)さんに、1日で書くので第7話を追加させてほしいと頼んで、徹夜で書き上げました」
敗戦からのスタートだった『コードギアス』
谷口監督と大河内は2003年に放送されたSFアニメ『プラネテス』で初めてタッグを組んでから、数々の作品をともに作り上げてきた。『コードギアス』においても、その存在は「戦友」のようだったと、大河内は語る。
「谷口監督は自分にとって戦友といえる人ですが、二人で最初に戦った戦は負け戦でした。初めてタッグを組んだ『プラネテス』は、今でも誇れる素晴らしい作品になったし、スタッフの充実感も高かった。でも、当時のサンライズの別作品と比べると、売り上げに大きな差がありました。実際には『プラネテス』は全然悪い結果じゃなくて黒字だったんですが、当時の僕は勝手に敗北感を感じていたんです。
自分は脚本家って作品の参謀みたいなものだと考えているんです。『プラネテス』には後に一緒にコードギアスを作る谷口監督をはじめ千羽由利子さん、中田栄治さん、村田和也さん……他にも素晴らしい人たちがたくさん集まっていたのに、思うような結果にならなかった。あの人たちが評価されないのはとても悔しかった。
だからこそ、今度の『コードギアス』は勝ち戦にしたいと考えていました。「俺の仲間たちは、谷口悟朗は、こんなに素晴らしいんだぞっ」て叫びたい気持ちでした。
一方谷口監督は、長い付き合いだからこそ築けた信頼関係を語った。
「大河内さんについて語るのは、漫才コンビの片割れがもう1人のことを評価するような不思議な感覚がします。
実力を認めているうえであえて言うならば、大河内一楼個人と、谷口悟朗個人はおそらく目指しているところが違っている。でも『コードギアス』という船に乗っている限りは、同じ方向に進んでいます。だからもめることもなく、信頼して任せられるんです」
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最後に『コードギアス』ファンへのメッセージをうかがうと、2人とも「応援してくださって本当にありがとうございます」と、迷いなく感謝の気持ちを口にした。
さらに大河内は、「アプリも新作アニメも、『コードギアス』というコンテンツが大好きな才能ある人が集まって作ってくれています。みなさんにも喜んでもらえると思っていますし、僕自身も完成がとても楽しみです」と期待を込めて語ってくれた。
谷口監督からは、「ルルーシュ編としては『復活』で区切りがつきましたが、だからといって今後ルルーシュが出てこないわけではありません」と意味深なコメントが。
「あくまでルルーシュを中心にしたお話は、私としてはできる限りのことをやり切ったつもりです。今後はほかの方々が見出した『コードギアス』の遊び方を楽しみにしています」と、これからも広がり続ける展開に希望を持たせた。
『無印』からのファンはもちろん、アプリや新作アニメから触れても十分に楽しめるという「コードギアス Next 10 years Project」の2作品。今後の続報に注目したい。