子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【35冊目】「1年違いだが読んでしまう『昭和40年男』」をどうぞ。
【35冊目】1年違いだが読んでしまう『昭和40年男』
書店でタイトルを見たとき、思わず「そう来たか!」と唸ってしまった。
『昭和40年男』(クレタパブリッシング/ヘリテージ)。つまり、昭和40年生まれの男性だけをターゲットにした雑誌である。ずいぶん思い切った読者設定だ。ピンポイントな読者層をタイトルに掲げた雑誌としては『月刊食品工場長』(日本食糧新聞社)なんてのもあるが、そういう業界誌とは違って、一般誌でそこまで絞り込むのは珍しい。
創刊号(2009年12月号)の巻頭言で〈約2年前にポッと浮かんだアイデアは“○○歳からの”とか“○○代の”じゃなく“○○歳のための”雑誌をつくりたいというものだった〉と語る編集長・北村明広氏も、もちろん「昭和40年男」である。
のちのインタビューで同氏は次のように述べている。
〈生まれた年で区切るのは狭すぎるという危惧はもちろんありました。でもコアな愛読者をつくることができるのは雑誌としては魅力的ですし、実際は3歳上、5歳下くらいまで読んでくれるでしょう。昭和40年生まれの男性は90万人近くいますし、前後を含めれば500万人。たった1%が読者になれば5万。これなら成立すると考えました〉(「日本経済新聞」2022年11月6日配信記事)
なるほど確かに、多くの雑誌はファッション、スポーツ、音楽、映画、クルマ、グルメなど、扱うジャンルで読者を選り分けるが、『昭和40年男』は昭和40年(前後)生まれでさえあれば、趣味嗜好を問わない。
たまたま編集長が昭和40年という区切りのいい年の生まれだったというのも幸運だった。これが『昭和39年男』とか『昭和41年男』ではさすがに唐突すぎるし、『昭和40年男』の編集長が昭和50年生まれだったりすると、やはり違和感はある。
かく言う私も、昭和39年生まれ。ズバリ「昭和40年男」ではないが、同じ学年に昭和40年生まれもいた。ほぼ同世代であり、同誌の読者対象に当てはまる。実際、どの号を見ても「あったあった!」と思い出スイッチを押されるネタが目白押しだ。
創刊号の特集は「ヒーローから学ぶ、あと一歩の底力」。そこに登場するのは、仮面ライダー、藤岡弘、、中村雅俊、松田優作、マイケル・ジャクソン、矢吹丈である。若い人にはピンとこないかもしれないが、昭和40年男にとってはヒーローだ。
以後、「タメ年たちのリアル」「生涯現役宣言」「呑べえバンザイ」「家族とは?」といった年齢に則したライフスタイル的特集が続くが、10号の「憧れモノ大全」あたりからホビー色が強くなる。同特集では、中学時代編(78~80年)、高校時代編(81~83年)、成人時代編(84~86年)、社会人編(87~89年)と年代別の「憧れモノ」を紹介し、「2大ブランド研究」としてソニーとタミヤを深掘り。
16号「俺たちブームで大きくなった」では、スーパーカーブームに始まり、ローラースルーGOGO、スペースインベーダー、テクノポップ、レーサーレプリカ(バイク)などのブームを振り返り、18号「俺たちを虜にしたテクノロジー」では、マブチモーター、電子ブロック、カップヌードル、ウォークマンなどを解説する。30号の「興奮のラジカセ」なんかは、リバイバルブームもあって今の若者にも響くのではないか。
一方で、人物・キャラクターにスポットを当てた特集も見逃せない。15号「俺たちが影響を受けた男たち」には松田優作、忌野清志郎、いかりや長介、永井豪、甲斐よしひろ、小林克也、石ノ森章太郎、沢田研二が登場。本人やゆかりの人のインタビューで、その魅力と影響力に迫る。19号「俺たちが愛した悪役たち」ではタイガー・ジェット・シン、アブドーラ・ザ・ブッチャー、人造人間ハカイダー、ブラック魔王&ケンケン、八名信夫、20号「俺たちをドキドキさせた女神たち」ではキャンディーズ、アンヌ隊員らを取り上げる。
いちいち紹介していくとキリがないが、手元にあるバックナンバーから目についた固有名詞をざっと挙げてみよう。ブルーザ・ブロディ、プロ野球カード、太陽にほえろ、トミーとマツ、ブルース・リー、アグネス・ラム、口裂け女、エマニエル夫人、萩本欣一、角川映画、中島みゆき、ミクロマン、西部警察、UWF、シルバー仮面、燃えよドラゴン、松田聖子、南野陽子、めぞん一刻、スター・ウォーズ……。いずれも同世代ならグッとくるものがあるだろう。
もうひとつ注目すべきは、定期刊行化した2号(当初は季刊、7号からは隔月刊)から始まった連載特集「夢、あふれていた俺たちの時代。」だ。特定の一年をピックアップし、その年の出来事、世相、流行を振り返る。
音楽では、中村あゆみ『翼の折れたエンジェル』、安全地帯『悲しみにさよなら』、C-C-B『Romanticが止まらない』、映画では『ゴーストバスターズ』『グレムリン』『ランボー 怒りの脱出』などがヒット。とんねるずが歌った『一気!』のヒットでイッキブームが起こったりもした。新製品として日本ハムのシャウエッセン、NTTのショルダーホンなども紹介されている。さらに、同年デビューのTUBEのベーシスト・角野秀行(昭和40年生まれ)、同年公開の映画『早春物語』(原田知世主演)の監督・澤井信一郎へのインタビューも掲載。この連載だけでも資料的価値がある。
個人的に好きな特集は「俺たち野球で大きくなった。」(24号)、「俺たちの心を震わせたマンガたち。」(33号)、「俺たちニューミュージック世代」(76号)など。野球特集は我が愛する阪神タイガースの話題が江夏豊の奪三振記録と江本孟紀が語る「昭和阪神の真実」だけでいささか物足りないが、マンガとニューミュージック特集はゴージャスだった。
マンガ特集には『すすめ!!パイレーツ』の江口寿史、『ドーベルマン刑事』の平松伸二、『コブラ』の寺沢武一、『エコエコアザラク』の古賀新一、『ゆうひが丘の総理大臣』の望月あきら、『1・2の三四郎』の小林まこと、『翔んだカップル』の柳沢きみお、『愛しのボッチャー』の河口仁、『がんばれ元気』の小山ゆう、『まことちゃん』の楳図かずお、『超人ロック』の聖悠紀が登場する。これはマンガ好きにはたまらない。
ニューミュージック特集は、アリス(谷村新司、堀内孝雄、矢沢透)のインタビューに始まり、岸田敏志(智史)、永井龍雲、渡辺真知子、尾崎亜美が当時を語る。中3のときに自分のお金(小遣い)で初めて行ったコンサートがアリスだったし、ほかの4人もアルバムを持っていたので、こちらもうれしい記事だった。
誌名・コンセプトからして当然ながら、とにかく「昭和40年生まれ」へのこだわりがすごい。厳密には「昭和40年1月1日から41年4月1日生まれ」を想定読者としており、「タメ年」と呼ぶ。創刊から長らく「タメ年のすごいヤツ」「荒海に生きるタメ年男」と称したインタビューコーナーもあって、渡辺久信、山本昌広、吉井理人、与田剛、杉本哲太、本木雅弘、野村宏伸、本田恭章、樋口真嗣、野口聡一らが登場していた。
なかなか錚々たる顔ぶれだが、そういえばプロ野球にも上記の山本昌広や古田敦也が結成した「昭和40年会」というのがあり、現代アートにも「昭和40年会」がある(後者には会田誠、小沢剛、大岩オスカール、松蔭浩之らが所属)。どの年代にも傑出した人物はいるはずだが、「昭和40年」にこうした動きが目立つのは、区切りのよさに加えて、日本が一番元気だった時代に育った世代ということもあるかもしれない。
創刊からしばらくは「今、この本を手にしているあなたへ」と題した編集長からの巻頭メッセージが毎号掲載されていた。毎回似たようなことを書いていて、くどいと言えばくどいのだが、その号で初めて手に取る人もいるわけで、新規読者を逃すまいという気持ち、この雑誌に懸ける熱い想いは伝わってくる。
ここまで紹介してきたのはカタログ情報誌的な側面だが、2号(2010年春号)で〈『昭和40年男』は雑誌から情報を発信していくことだけを目的としているわけではない。みなさん同士がパワーを交換したり、少しでも悩みを共有して軽減できるようなコミュニティの形成を目指している〉と綴っているとおり、読者の交流の場としての側面もあった。
「昭和40年男たちの学年集会」と題した読者投稿欄のみならず、オフ会的なイベントも定期的に開催。「タメ年たちの大活躍」というコーナーでは、有名無名問わず昭和40年男の活躍情報や読者からのイベントPRなどを掲載したり、「みんなでつくろう!昭和40年男」と謳った告知ページでは「同窓会レポート」「昇進報告」「悩み相談」「コラボ企画」などを募集している。こうした双方向的な記事やコミュニティ的性格は、雑誌がメジャー化していくにつれ徐々に薄れていったが、そんなノリが成立したのも「タメ年」という絶対的な共通項あればこそだろう。
同じ年齢によるくくりでも、『小学一年生』などの学年誌は毎年読者が入れ替わる。それに対して、生まれ年で区切ってしまうと、ずっと同じ読者を相手にしなければいけないわけで、マンネリ感が出てしまいそうな気もするが、『昭和40年男』の場合は、逆に連帯感につながった。また、一般的な雑誌においては読者の高年齢化が問題となるが、『昭和40年男』は読者とともに年を取っていけばいいという点も画期的だった。
創刊時点で想定読者層は43~44歳。立派な中年であるからして、当初から健康テーマも扱っていた。そこから17年を経た今、昭和40年男は還暦を迎えた。果たして、96号(2026年4月号)の特集は「華麗なる、60代 俺たちはどうする?」である。表紙と巻頭スペシャルロングインタビューは田原俊彦(昭和41年2月28日生まれ)。トシちゃん、カンレキ!なのだった。
特集内容は「俺たちが生きてきた時代」を振り返り、武田鉄矢、横山剣、柳沢きみおといった人生の先輩に「兄貴の流儀」を聞く。「タメ男の人生」では、アーティスト・会田誠が老境と芸術を語り、モンチッチを作り続ける会社の社長が経営哲学を語る。ほかにも「偉人たちの60代」「60代を読む 新しい人生を明るく照らす本」など、さまざまな切り口から60代を考える。
しかし、創刊編集長の北村氏の名前は現在の同誌にはない。31号(2015年6月号)で一旦、編集長を退きプロデューサー(発行人)となったが、数年で復帰。兄弟誌『昭和50年男』(2019年)や姉妹誌『昭和45年女』(2021年)を立ち上げるなど精力的に活動していたが、2023年1月にクレタパブリッシングからヘリテージに事業譲渡された際に、それらの雑誌から離れたものと思われる。
『昭和50年男』『昭和45年女』はすでに休刊し、『昭和40年男』だけが残っている。やはり昭和40年生まれ強し、と言いたいところだが、実は2020年に『昭和39年の俺たち』(一水社)という雑誌が創刊されており、現在も刊行中だ。なぜ昭和39年なのかはわからないが、あからさまなパクリである。
まさに私の生まれ年で、判型・デザインとも実話誌的な体裁のわりに記事自体はまあまあ悪くない。ゲリラ的な雑誌も好きではある。が、企画自体がここまで丸パクリだと、さすがにちょっと引いてしまう(それでも何冊かは買ってしまったが)。
それはさておき、こうなると気になるのは『昭和40年男』がいつまで続くのか、ということだ。あと10年もすれば昭和40年男も70代となり、「終活」の特集が出てくるはず。自分が死ぬのが先か、雑誌がなくなるのが先か。この勝負には負けたくない。
文:新保信長
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