厚生労働省が9月6日、「保育所等関連状況取りまとめ」(平成31年4月1日)で「待機児童数は1万6772人で前年比3123人の減少」と発表した。発表文では、「調査開始以来最少の調査結果」であることを、あえて赤字で強調している。

 さらに政府が掲げる「子育て安心プラン」(2020年度までの3カ年計画)についても、「2020年度末までの(保育の)受け皿拡大見込み量は約29.7万人分の見込み」「これまでの経緯を踏まえれば、毎年度の計画の見直しにより、政府目標の約32万人まで増加すると想定」と、大風呂敷を広げている。

 本当に安心できる子育て環境ができるのだろうか。

 厚労省発表を受けたメディアは『待機児童過去最少、「ゼロ」見通せず』『待機児童過去最少1.6万人、「ゼロ」へ課題山積』と、さすがに懐疑的だ。

 そこへ「『潜在待機児童』7.3万人最多」と、待機児童問題の本質を、ズバリ直球で攻め込んだのが東京新聞だった。表向きの待機児童数は減っているが、自治体が待機児童の集計から除外した潜在待機児童数は過去最高になっており、国を挙げての「待機児童ゼロ作戦」の実態との乖離を伝えている。

 潜在的待機児童とは、認可保育施設に入所できなかった子どものうち、ほかに空きがあっても特定の保育園等を希望しているなどの理由で、自治体が待機児童から除外した数。

家庭の事情や通園環境などで、空きがあっても20分も30分もかかる遠方の保育園には通えないなどのケースがある。決して親のわがままではないのに、待機児童からは除外されてしまうのだ。こうした実態までカバーしないことには、問題の根本解決にはならないだろう。

待機児童数最多は東京都で3664人

 待機児童のデータに戻ろう。保育所関連の全体状況は、利用定員は約289万人で前年比8万8000人増。利用する児童数は約268万人で6万5000人の増加。

人口減少時代にあって児童の総数が減るなかで、定員、利用者数がともに増えていることは改善状況にあることを物語っている。

 この問題の大きな特徴は、大都市問題との関連性だ。利用児童数(268万人)のうち都市部(7都府県・政令指定都市・中核市)は161万人と60%、待機児童数(1万6772人)のうち都市部は1万625人で63%を占めている。大都市とその周辺部において深刻な状況になっていることがわかる。

 待機児童数の都道府県別上位は、東京都3690人、沖縄県1702人、兵庫県1569人、福岡県1232人、埼玉県1208人。福岡県だけが前年よりも237人増で、ほかの4都県は減少している。

大都市圏以外は沖縄県だけだが、沖縄県は全国唯一の人口自然増加県である。

 待機児童50人以上の自治体上位は次の通り。東京都世田谷区470人(前年比16人減)、兵庫県明石市412人(同159人減)、埼玉県さいたま市393人(同78人増)、岡山県岡山市353人(同198人減)、兵庫県西宮市253人(同160人減)。いずれも大都市、政令指定都市、中核市である。

待機児童数100人以上で待機児童率の高い自治体の共通点

 注目したいデータがある。「待機児童数が100人以上で待機児童率の高い市区町村」だ。

上位5市町村は次の通り。

※待機児童数、待機児童率
・沖縄県南風原(はえばる)町 208人、9.92%
福岡県福津市 124人、7.97%
・沖縄県南城(なんじょう)市 145人、7.24%
福岡県筑紫野市 133人、5.86%
福岡県大野城市 143人、5.83%

 沖縄県と福岡県の自治体が上位5位を占める結果となった。この5市町はいずれも人口増加自治体である。住民基本台帳に基づく人口(2019年1月1日現在=日本人人口)だと、福津市(人口6万346人)は前年比で1615人も増えている。3年連続の増加で社会増は全国3位だ。福岡市、北九州市の中間にある同市は、大型商業施設の誘致で生活の利便性が向上し、大規模開発による住宅地の拡大などで子育て世代の流入が増え、人口が増え続けている。

 1位の南風原町は那覇市に隣接している自治体で土地区画整理事業が進み、戸建て、マンション、アパートなどが次々に建設された。2017年1月からは中学3年までの子どもの医療費の窓口支払いの無償化が実施されている。人口は3万9172人で前年比731人増だ。

 いずれも急激な人口増に自治体側が保育需要をつかみきれず、待機児童が増える結果となっているようだ。

 待機児童数がゼロという県は6県ある。青森県富山県石川県山梨県鳥取県島根県だ。

共通しているのはいずれも人口減少県であること。さらに年少人口(15歳未満)の比率が全国平均(12.37%)を下回っている県が3県(青森、富山、山梨)ある。もともと子ども人口が少ない県なのだ。待機児童数ゼロの裏側に人口減や年少人口の少なさという、より大きな問題を抱えているわけだ。

 人口の減少が深刻化するなか、将来を担う子どもたちの生育に大きな影響を及ぼす待機児童問題は、国にとっても自治体にとっても切実で重要な問題だ。目先の対策だけで終わるのではなく、一極集中、地方活性化、保育士待遇問題など、総合的な国づくり、まちづくりの施策のなかで対処していくテーマなのである。

 予算配分のあり方も含めた抜本的な見直しが必要ではないだろうか。
(文=山田稔/ジャーナリスト)