2018年のインバウンド(訪日外国人旅行者)数が12月18日時点で、ついに3000万人に到達した。過去最多は17年の2869万人だった。

政府の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」がスタートした03年のインバウンド数は521万人だったが、15年間で5.75倍に膨らんだ。

 インバウンドの内訳は、依然としてアジア圏が大半。18年1~10月のトップ5は、中国716万人、韓国627万人、台湾407万人、香港183万人、アメリカ127万人となっている。上位4カ国・地域だけで全体の74%を占めている。東南アジアとインドが10.4%。この数字を加えると84%超がアジア圏で、政府が誘客に力を入れている欧米、オーストラリアは11.7%と伸びていない。

 インバウンドの人々は、どこを訪れているのか。観光庁の訪日外国人消費動向調査「地域調査」の結果(18年1~3月期)が興味深い。まず、都道府県別の訪問率。1位は大阪府で39.1%、2位は東京都で37.2%、3位は千葉県で29.6%となっている。以下、京都府福岡県北海道奈良県沖縄県愛知県兵庫県と続く。もっとも低いのは福井県高知県で共に0.1%。
岩手県秋田県福島県島根県徳島県が0.2%だ。

 別府温泉などの観光地がある大分県が6.1%で11位、港ヨコハマの神奈川県が5.1%で12位となっている。東北、北陸、中国、四国の各県への訪問率は低い。

 都道府県別にみるインバウンドの1人当たり旅行中支出は、北海道が11万円ともっとも高く、次いで東京都9万7000円、長野県7万7000円、沖縄県6万9000円の順。北海道は平均宿泊数が5.1泊、長野県は4.9泊、沖縄県は3.8泊と長めだ。リゾート型滞在で、その分消費額が大きくなっているのだろう。ちなみに東京ディズニーランドがある千葉県は、宿泊数は0.3泊、旅行中の支出は1万4277円にとどまっている。

 インバウンドの総数は確実に増え続けているが、都道府県格差はかなり大きいのが実態だ。

●新しいアクティビティに人気が集まる

 実際、日本でどんな楽しみ方をしているのか。12月中旬に北海道・富良野を訪れ、その一端に触れた。ホテルで見かけたインバウンドは、アジア系が大半で欧米系はごくわずか。世界的なスキーリゾート地となったニセコとは、ずいぶんと様子が違う。
富良野を訪れる外国人たちもスキー・スノーボードを楽しむ客が多いようだが、最近は新たなアクティビティが人気になっているという。

「富良野を訪れる外国人は、かなり増えています。夏はラベンダー、冬はスキー、スノーボードなどが人気です。最近は冬場に実施されている熱気球のフリーフライト体験も人気になっています。大人ひとり1万4000円ですが、真っ白な雪原、十勝連峰を上空から眺められる貴重な体験に惹かれるのでしょうか」(観光業者)

 筆者が熱気球フライトの現場を訪れた時は、シンガポールからやってきた家族連れが一緒だった。夫婦と小学生の姉妹、祖母の5人組。子どもたち向けのサプライズ企画だったらしく、真っ白な畑の上に置かれた熱気球を見つけたとき、子どもたちは「キャー」と歓声をあげ喜んでいた。

 冬の富良野のアウトドア体験はスキーやスノーボード以外にもスノーモービル、犬ぞり、スノーラフティング、パラセーリング、ワカサギ釣り、乗馬など多彩。雪に触れることが少ないアジアからの客には魅力的に映るのだろう。富良野のインバウンド宿泊延数(宿泊客×日数)は、03年に5678だったのが17年には13万1637へと23倍に拡大した。

「そのうち富良野もニセコ(倶知安町)みたいになっていくかもしれない」と観光業者が漏らしていたが、その可能性は十分ありそうだ。

●ホテル建設ラッシュ続く一方、京都では簡易宿所の廃業が急増

 インバウンド増加に伴い、全国的に宿泊施設の建設ラッシュが続いている。
東京、大阪、京都、福岡など、各地から新しいホテルの開業のニュースが届く。超高級コンドミニアムやリゾートホテルが建ち並ぶニセコでは、最近、キャビンスタイルホテルがオープンし、話題となっている。国道5号線に面した倶知安駅から車で5分ほどの場所に開業したのは「ファーストキャビンニセコ・ぽんの湯」。

 ビジネスホテルとカプセルホテルの中間のリーズナブルな価格で泊まれるホテルで、大浴場(温泉)もあり、長めの滞在にはうれしい。インターネットの予約サイトでチェックしてみると、男性用のカプセルルーム(シングルベッド1台)が1泊7650円、4人部屋(ダブルベッド2台)は2万2780円となっていた(18年12月19日に検索)。

 シティホテル、リゾートホテル、ゲストハウス、民泊と、インバウンドを受け入れる宿泊施設は多種多様だが、その一方で京都では最近、ゲストハウスなどの簡易宿所の廃業が急増している。

 民泊新法の施行から半年たったが、京都市は規制が厳しく年間60日間程度しか営業できない民泊の届け出は少なく、通年営業可能な簡易宿所の届け出は2797件に達した。その一方で、廃業が昨年4月から11月までの8カ月間で97件あった。16年度は16件、17年度は73件だったから、かなりハイペースだ。競争が激化し、淘汰が始まったとみられている。

 20年の東京五輪開催に向けて、官民あげてインバウンド大歓迎のムードが強いが、インバウンドをめぐる自治体格差、観光公害、宿泊施設の過剰など課題も山積している。
(文=山田稔/ジャーナリスト)

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