「ヤクザ」「暴力団」に関する本は、ときどきヒットする。例えば暴力団が東京電力福島第一原発事故の廃炉作業に入り込んでいるということを記した鈴木智彦氏の『ヤクザと原発』(文春文庫)や、魚の密漁に深く関わっていることを描いた『サカナとヤクザ』(小学館)は、いずれもよく売れた。



 これらの本では、社会的にはグレーゾーンの仕事に暴力団が関わっており、そこで「シノギ」を行っているということが克明に記されている。

 一方で暴力団は衰退傾向にある。暴力団を取材し続ける溝口敦氏は『ヤクザ崩壊 半グレ勃興』(講談社+α文庫)でヤクザの衰退・苦境と、新たなグレーゾーンビジネスの担い手として「半グレ」が勃興しつつあることを記している。

 以前、筆者はあるトークイベントの席で、鈴木氏に質問したことがある。

「どんな人がヤクザの本を読んでいるのですか?」

「ヤクザファン、っていうのがいるんです」

 筆者は目を白黒させた。そんな人が、いるのかと驚いた。


●暴力団は衰退し、ヤクザ雑誌も減少する

 暴力団員と準構成員の人数は、2008年には構成員4万400人、準構成員等4万2,200人、あわせておおよそ8万2,600人だったものが、2017年には構成員1万6,800人、準構成員等1万7,700人、あわせておおよそ3万4,500人となっている。およそ10年で半分以下に減ってしまったのだ(全国暴力追放運動推進センター『暴力団情勢と対策』による)。

 背景としては、暴力団の取り締まりの強化だけではなく、それにともなう「シノギ」の困難さ、暴力団員の経済的苦境などが挙げられる。
 
一方で、そんななかでヤクザ専門誌も減少し続けた。暴力団の情勢を扱う専門誌は、「実話時報」「実話ドキュメント」「実話時代」とあり、一般メディアでも「週刊アサヒ芸能」「週刊実話」「週刊大衆」があったものの、「実話時報」は2012年8月号を最後に一般娯楽雑誌へと転換して「実話時報ゴールデン」となり、2015年6月号を最後に休刊になった。

「実話ドキュメント」は竹書房から刊行されていたものの、2013年7月号で竹書房からの発行を終了した。
理由は、ヤクザ雑誌をやっているために銀行から融資を受けられないというものであった。その後10月号からジェイズ・恵文社により発行を再開したものの、2018年5月号をもって紙媒体での刊行を終えた。残る専門誌は、「実話時代」だけである。

「週刊アサヒ芸能」などの一般向けメディアで暴力団情報を取り上げる場合、山口組(分裂した神戸山口組や任侠山口組も含む)関連情報がほとんどであり、その他の暴力団を取り上げることは少ない。ヤクザファンの間でも、人気は「山口組」だけが集めているという状態にある。

●「ヤクザファン」とは何者か?

 鈴木智彦氏の著作を読むと、暴力団員は独立して仕事をしているわけではなく、暴力団員の仕事を必要としている、グレーゾーンのことを要求する一般人がいるなかで仕事をしているということがよくわかる。
つまり、暴力団員へのまなざしが厳しい現代社会になってもなお、暴力団を必要としている人がいるという状況があるのだ。

 それは筆者のような、淡々とした日常生活を送っている人間にはわかりにくい。しかし、暴力団の周囲にいる人たちが「ファン」になって、その人たちがヤクザ専門誌を読むということは考えられるのだ。

 ヤクザ専門誌の読者とは、暴力団構成員、準構成員、暴力団と関わる仕事をしている人たち、その周囲にいる人たちである。その人たちがヤクザ業界の動静を気にするようになり、それで手に取る、という構図が考えられるのだ。あとは、「物好き」といったところだろうか。


 ヤクザ専門誌は、一般の書店では手に入りにくい。コンビニでも、扱っている店と扱っていない店がある。繁華街のなかの小さな書店で大きく扱っている例もあるという。

 ただ、ヤクザファンの世界も縮小傾向にある。専門誌は1誌になり、母体となる暴力団構成員・準構成員の人数も減っている。そのために一般社会と暴力団との接点は年々希薄になっていく。


 かつては、山口組組長田岡一雄氏の息子・満がプロデュースする『山口組三代目』という映画がつくられ、高倉健が主役になった。また田岡一雄氏が大横綱・大鵬に化粧まわしを贈ったということもある。それだけ、暴力団が一般社会に親しまれていたということだ。

 暴力団と一般社会の関係が濃密だった時代と今とでは状況が異なり、暴力団の人気もなくなっていった。それでもなお、残り続けているファン層がいるのだ。

 そのような状況のなかで、唯一生き残ったヤクザ専門誌が「実話時代」である。
獨歩舎が編集し、三和出版が発行・発売をしている。内容は、暴力団の集会のグラビアや、暴力団の動静、過去のヤクザを描いたノンフィクションなどである。また、山口組および分裂した各団体の報道には力を入れている。
(文=小林拓矢/フリーライター)