60年代からブラック・ミュージックを探求し続ける音楽評論家、鈴木啓志さんが忘れられないレコード・レーベルの足跡を追う大人気連載《なるほど!ザ・レーベル》。No.72(2006年12月号)の連載開始から17年、No.172で第100回を迎えた。

第3回 前編はこちらから

 【第3回】ドゥー・ワップ不朽の名作を生んだ西海岸の〈ドゥートーン/ドゥート〉 -後編

〈アース・エンジェル〉の大ヒット -(2)

50年代中期にロックンロール時代に突入しても、ドゥーツィはジャンプ・ブルースに対する愛情を緩めることはなかった。チャック・ヒギンズ、ロイ・ミルトンといったバンド・リーダーがいい作品を残し続け、それが『Rock ‘N’ Roll versus Rhythm And Blues』(Dooto 223)にまとめられていることがそれを物語る。彼らの全盛期はとっくに過ぎていたが、ジャンプ・バンドとしての筋を通しているのは、ドゥーツィの耳の確かさを物語るものといっていいだろう。是非お聞きいただきたいのが、チャック・ヒギンズのバンドで弾くジミー・ノーレンのギター。後にJBのバンドでファンク・ギターの真髄を聞かせるあの人ですぞ。さらにヘレン・ヒュームズ、ミッキー・チャンピオンなど女性陣も加わり、50年代中期のドゥートーンは潤った。驚くことに、55年にはマディ・ウォーターズ譲りのストーミー・ハーマンによる“Bad Luck / The Jitterbug”(Dootone 358)が残されているほどで、ブルースへのこだわりを感じる。ここが、54, 5年を境にバンド・スタイルがすっかり変わってしまった東海岸のアトランティックと大きく違うところで、そこに企業家としての限界があるのかもしれない。

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HELEN HUMES AND HER ORCHESTRA- “Woojamacooja / All I Ask Is Your Love”
(Dootone 374)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ROY MILTON - “Never Would Have Made / I Want To Go”
(Dooto 377)

レイ・チャールズになり損ねた男

もしドゥーツィにアトランティックのアーメット・アーティガンやジェリー・ウェクスラーのような先見の明があったなら、第二のレイ・チャールズだって作り出すことができたかもしれないのだ。それがウィリー・ヘイドゥンだった。彼はノース・カロライナの出身なのだが、ゴスペル・カルテットでツアーしている際に、ドゥーツィにスカウトされた。実際最初のレコード〈バック・ホーム・アゲイン〉はファイヴ・バーズのコーラス入りのほとんどカルテット・スタイルの曲だった。もし、ドゥーツィがそのゴスペル臭さに着目し、よりR&Bっぽいバンド・アレンジャーを付け、さらに新時代にふさわしい曲を歌わせれば、新しいR&Bシンガーとしてブレイクしていたかもしれない。

だが、ドゥーツィはそうはしなかった。相変わらず〈ブレイム・イット・オン・ザ・ブルース〉で代表されるように、ジャンプ・ブルースの手法で彼を扱ったのである。それはそれでぼくなどには愛着があり、『Blame It On The Blues』(Dooto 293)(最近未発表テイク、未発表作品も含めCD化された)は大切な1枚となってきたわけではあるが。

ブルースといえば、もう1枚珍しいアルバムがある。〈トラブルズ・トラブルズ・トラブルズ〉(B.B.キング!)というモダン・ブルースの傑作で知られるロスコー・ホランドの『For A Piece』(Dooto 812)がそれ。61年にコメディのシリーズで出されたため、ブルース・ディスコグラフィーからは省かれているが、ブギ・ピアノを基調としたノヴェルティなもので、省く必要は決してなかった。恐らく、このレーベルで一番手に入れにくいLPはこれだろう。

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ロスコー・ホランドのレア盤『For A Piece』(Dooto 812)[LP]

ドゥーツィはゴスペルも並行して録音しており、ビリー・ワトキンスのお父さんのバーサ・L・ワトキンスのいたザイオン・トラヴェラーズがよく知られている。60年代に入ってからはビリーも一緒にレコーディングしているウェスト・コーストの実力派で、『Down By The River』(Dooto 807)はぼくの大切な1枚だ。もう1枚『Best Gospel Singers』(同 225)というコンピもあり、今はそれらからCDが作られている。

ドゥートは人気コメディアン、レッド・フォックスがいたおかげで、70年代まで活動し、メイル・オーダーも受け付けていた。60年代中期ムーン&マーズというデュオが“Be By Your Side / Copper Penny”(Dooto 477)というダイナミックなソウル・ナンバーを作っていることからもわかる通り、ソウル時代にそれなりの気は配っていたのだろう。

1991年8月20日に亡くなった時、彼はちょうど80歳だった。

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

MOON AND MARS – “Be By Your Side / Copper Penny”
(Dooto 477)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編
前編はこちらから

【CDで聴くドゥートーン/ドゥート】(選・文/編集部)

Various Artists
Blues For Dootsie: The Blue & Dootone Sides
(Ace CDCHD 1115)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ドゥートーンのブルース・サイドをまとめた編集盤

Various Artists
Dootone Rock ‘N’ Rhythm And Blues
(Ace CDCHD 839)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ロイ・ミルトン、ヘレン・ヒュームズらジャンプ・ブルース中心の編集盤

WILLIE HEADEN
Blame It On The Blues
(Ace CDCHD 1118)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

未発表曲・テイクを含む、ウィリー・ヘイドゥンの単独編集盤

THE ZION TRAVELERS
The Dootone Masters
(Ace CDCHD 637)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ザイオン・トラヴェラーズの編集盤

THE PENGUINS
Earth Angel
(Ace CDCH 249)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

「アース・エンジェル」を含む、ドゥートーン時代の編集盤

Various Artists
The Dootone Story
(Ace CDCHD 242)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ペンギンズ〈アース・エンジェル〉他のドゥー・ワップ・グループや、ロイ・ミルトン、チャック・ヒギンズのジャンプ系も収録した、レーベル・コンピ

Various Artists
Dootone Doo Wop Vol.1
(Ace CDCHD579)

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第3回】ドゥートーン/ドゥート -後編

ヴォリューム3まである、エイス編集のドゥー・ワップ集の第1弾

(初出:『ブルース&ソウル・レコーズ 』2007年4月号No.74)

鈴木啓志

1948年北海道函館市生まれ。3歳の頃から東京に住み、現在川崎市在住。横浜国立大学経済学部卒。在学中にブルースやソウルのファン・クラブに深く関わるようになり、同時に執筆活動を開始、ブラック・ミュージック専門の音楽評論家となる。著書としては『R&B、ソウルの世界』(ミュージック・マガジン)、『ソウル・シティUSA~無冠のソウル・スター列伝』(リトル・モア)、『ゴースト・ミュージシャン~ソウル黄金時代、アメリカ南部の真実』(DU BOOKS)、『US Black Disk Guide』(編著/ブルース・インターアクションズ)などのほか、趣味の将棋の知識を活かした『東海の鬼 花村元司伝』(日本将棋連盟)もある。

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