新型コロナ感染症の拡大に伴い、家で映画を観る機会が増えたという人も多いのではないだろうか。コロナは映画鑑賞の画面サイズをミニマムまで抑え込んだが、その一方で「映画を観る時に何を飲むか、食うか」の酒肴ユニヴァースを、懐さえ許せば無限にまで拡大した。
何だって飲食することができるし、一切口に入れないことも可能だ。

もちろん以前からもそうだったのだが、昨年からのテイクアウトの流行によって、家飲みレベルはかなり底上げされたのでは、と見積もる。

例えば、コロナ以前はテイクアウトをしていなかった行きつけの飲食店でパテとローストビーフを購入し、それに合うワインを見繕ってもらい、駅前のパン屋でバゲットを買い、ちょっと有名なパティスリーで甘いものを買い、帰宅して食材を皿に盛り付け、ワインを抜栓し、グラスに注ぐ。準備ができたら、映画を再生する。制作会社のロゴが出ている間に、まずバゲットのみで赤ワインを楽しむ。少しパテを切って、マスタードを塗りつけて食べる。ローストビーフで付け合せのクレソンやルッコラを巻いて一緒に口に入れる。肉の脂と葉物の清涼感を同時に味わう。赤ワインを再び飲む。例えで書いていても飲みたくなってきた。

喫煙者などは、更に素晴らしい時間を過ごすことができているだろう。紙巻きから葉巻まで、映画を観ながら楽しめる。
美味そうに紙巻きを吸う主人公を眺めながら、禁断症状に怯える必要はない。こちらも思い切り吸えばよろしいのだ。

と、映画体験は、コロナ以前と以後で、ある意味では豊かになった。ただ、豊かになると人は困る。リュミエール以降、公開された映画の本数よりも、酒と肴の組み合わせが多すぎるからである。

というわけで、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴のおすすめ教えます!とは言わない

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


「映画を観る時には○○がおすすめ!」なんてそんなモン、自分の好きなもの飲んで食って映画観るのが一番良いに決まっている。むしろ、勧められてそうでもなかった場合「ああ微妙だなこれ、やっぱあれにしたほうがよかったのかな」と考えている間に映画は終わってしまう。

けれども、本コラムは「家で映画を観る時に飲みたいお酒と肴」というテーマであるので、「自分の好きなもの飲んで食ってろ」で終わらせてしまうわけにはいかない。なので、映画鑑賞の時に飲む酒、合わせる肴について、少し考えてみようと思う。

まず、自宅で映画鑑賞をする場合、飲食物に関しては以下のような選択が考えられる。

①映画館で売られている飲食物に寄せる

②鑑賞する映画にあった飲食物を用意する

③好きなものを飲み食いする

④家にあるものでなんとかする

⑤食わない

上記のうち、③④⑤については筆者が介入する余地はないので、主に①②に触れていく。

映画館で売られている飲食物に寄せる

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


映画館で売られている飲食物に寄せるためには、なるべくセッティングも重視したい。セッティングで飲食物の味は大きく変わるからだ。例えば、家の中をキャラメルポップコーンの香りで満たしておくとか、半券を自作しておくとか、シネコンの場内BGMやアナウンスをスピーカーから流しておくとか、雰囲気から盛り上げていきたい。


また、トレイやカップも用意できれば更に雰囲気が出る。どちらもAmazonで販売されているので、家から一歩も出ずに揃えることが可能だ。しかし、トレイは膝置きのものがほとんどなので、やや安定感に欠ける。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


飲み物に関しては、アルコールであればビールが主流だろう。銘柄は好きな物を選べば良いが、プラカップはペラッペラなものではなく、ハードタイプのカップを選ぶのが、飲み口の面からも推奨される。

一方、コーラなどの炭酸ならカップに氷をギッチギチに詰め、できるだけ豪快に注いで若干炭酸を飛ばすことで、ディスペンサーの味に近づけることができる。氷は冷凍庫の製氷機やかち割り氷ではなく、クラッシュアイスが望ましい。またドリンクはできるだけ冷やしておくと良い。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


氷の話が出たので、少しだけ役に立ちそうなことを記述する。というか、本コラムは多分、これより以下数段楽しか役に立たないと思うのだがそれはさておき、筆者はライターの他にバーテンダーとしても働いているので、酒の作り方については少し解る。なので、「家飲みで美味い酒を作る方法」を開陳しておく。

とはいえ、材料は何も変わらない。
例えばハイボールを作るとして、バーテンダーだけが使う業務用のラフロイグがあるわけでもないし、炭酸水も多くの場合はウィルキンソンを使う。しかし、店と家では味が違う。なぜか、もちろん製作者のスキルもあるが、最も違うのは「氷の質」である。

言い換えれば、氷を使用するカクテル、あるいは飲み方に関して、氷の質を上げるだけで酒の味は格段に変わる。具体的にどのような氷を用意すればに関しては、氷屋で買い、ストッカーで保管しろとなるのだが、家庭では無理なので、妥協案としてコンビニで販売されている板氷を使うと良い。

コンビニの板氷は、おおよそ一貫を縦に三等分した形で使われている。これを5~6分割して、1本の細長い氷にすると、ハイボールやジントニックなどに使う1杯分となる。そのまま1本氷として使ってもいいし、更に3等分しキューブとしても良い。

割り方はアイスピックでも包丁でもどちらを使っても良い。ただ、包丁の場合は刃が痛むので注意が必要だ。また、氷が締まっていないと割れづらい。最初は上手く割れないかもしれないが、数をこなせばすぐに慣れる。
氷を冷凍庫の製氷皿から変えるだけで、酒の味は劇的に変わるので、ぜひ試してみて欲しい。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


閑話休題。食べ物に関しては、やはりポップコーンが王道だろう。袋売のマイクポップコーンでも良いが、やはり映画館の味には届かない。なので、カークランドやプライムタイムなどの電子レンジ調理が必要なタイプが望ましい。もちろんフライパンで加熱するタイプでも良い。ちなみに、マイクポップコーンは、1957年に日本初のポップコーン企業として設立されている。同年の邦画配給収入は渡辺邦男の『明治天皇と日露大戦争』で、明治天皇を演ずるは、アラカンこと嵐寛寿郎である。

話を戻して、バターやキャラメルに関しては、自分でオリジナルを制作するのも楽しいし、ポップコーンフレーバーも市販されている。こちらはシネマイクポップコーンのようにシャカシャカと振って味をつける。映画館では音が気まずいが、自宅であればダンスをしながら振ろうが叫びながら振ろうが自由自在な点も嬉しい。

もっと映画館の味に寄せたいといった方には、ポップコーンマシンの導入も視野に入る。
家庭用ポップコーンマシンは数千円~1万円程度で購入可能だが、レマコムなどの業務用マシンもエントリーモデルであればそこまで高くない。例えば、同社の「RPM-E8」は、標準価格88,000円(税抜)のところが、今なら公式サイトで27,300円(税抜)で購入できる。製造能力は2分あたり8オンス(227g)をほこる。一度に食べきれなくても、照明ランプによる保温効果があるので安心だ。また1年間の保証がついている点も頼もしい。

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ポップコーン以外のフードとしては、ホットドッグや小粒なチキン、チュリトスなどが挙げられる。ホットドッグは「コンビニの100円惣菜パンよりも美味く、サービスエリアで販売されているものよりもやや美味いが、専門店で食べるよりはだいぶ不味い」ラインを積極的に攻めていきたい。LAWSONの「GOOODOG」あたりは、結構良い線いっている。パン・ソーセージ双方、それなりにやる気はあるものの、頑張りすぎていない感じが丁度良い塩梅だ。

チキンに関しては、TOHOシネマズの「ちょびっとチキン」を再現できれば最高なのだが、筆者は未だ見つけられていない。もし誰か知っていたら教えてください。キロで買います。
ちなみに、チュリトスについてはあまり興味がないのでサラっと書くが、100本入りの冷凍が通販できる。

他にも、ハムやチーズを挟んだサンド系があるが、これは見た目がドトールやスターバックスの商品と似ているので、そちらをテイクアウトすれば何となくの雰囲気は出るはずだ。ただ、ホットドッグと同じく、美味すぎてはいけない。

鑑賞する映画にあった飲食物を用意する

次に、鑑賞する映画にあった飲食物を用意するケースだが、別にジブリ飯のように凝った料理を用意する必要はない。あくまで映画が主演で、飲食物は助演である。だが、ジョー・ペシのように、助演の力によって主演が引き立つこともままある。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


Netflix映画『アイリッシュマン』より、真ん中がジョー・ペシ
無論、映画に出てくる料理を再現するのも楽しい。丼に米を投入し、サイドに野菜を敷き詰め、スーパーで出来るだけ得体の知れない魚をぶっ刺して『ブレード・ランナー』を観るのもいいだろう。「ふたつでじゅうぶんですよ!」と言ってくれる友人が居るとモアベターだ。

デパ地下、もしくはふるさと納税か何かで分厚いヒレ肉を手に入れ、レアで火入れして『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』を観るのも良い。できるだけ口を尖らせて「いい肉使ってるね!」とコメントすれば尚良い。ところで、ラストで源静香の手にはバギーちゃんの遺品と思われるネジが握られているが、あれってポセイドンの部品ではないのか。

話を戻して、『時計じかけのオレンジ』を観る時には、10オンスくらいのロングランブラーに牛乳を入れて、ベロセット・シンセメスク・ドレンクロムのミルク・プラスだと言い張るのも良い。ぜひ、シニーをビディーながらステーキウィークをキメてスルージーして欲しい。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴

映画『時計じかけのオレンジ』より
ダーウッド・カービィ・バーガーと5ドルのシェイクを用意して『パルプ・フィクション』を観るのも素晴らしい。ダグラス・サーク・ステーキもいいが、ダーウッド・カービィ・バーガーのほうがしっかりと映されるので、再現も比較的容易だ。

上記はやや用意が面倒なので、簡単かつオールマイティーに使えるネタを考えたい。その筆頭としては、映画やドラマでよく登場する中華料理のテイクアウトボックスを使うという手がある。Amazonだろうが楽天だろうがどこでも購入できる。あの中に適当に料理をブチ込めばよろしい。

入れる料理は本当になんでも良いのだが、手近で用意できるものを挙げるのであれば、冷凍チャーハン(メーカー問わず)の上に、セブンプレミアムの青椒肉絲をドロップするのがおすすめだ。現在、コンビニ冷凍食品における中華料理ランキングにおいて、セブンプレミアムの青椒肉絲は一歩先を進んでいると言わざるを得ない。

当該青椒肉絲の内容は、豚肉・ピーマン・筍という鉄板の構成となっており、驚くべきことに豚肉の割合が比較的多い。「青椒」と「肉」は6:4くらいのイメージである。このような冷凍食品は、得てしてある食材の量が極端に少なく設定されていて、物足りなさを感じることが多いが、セブンプレミアムの青椒肉絲は、完璧な配分で青椒と肉が絲されている。唯一残念な点があるとすれば、『カウボーイ・ビバップ』の第一話鑑賞のお供とするには向かないことであろう。

他にも、ボックスにレタスなどの葉物を敷き詰めて、その上にセブンプレミアムの「焼鳥炭火焼」をドロップするのも素晴らしい。焼鳥炭火焼はレンジで解凍しても美味いが、凍ったままフライパンに乗せて酒を振り、蓋をして蒸すことにより味がワンランク上がる。仕上げに一味唐辛子を親の仇と言わんばかりに振りかければ、完全無欠の一品が爆誕する。余談だが、セブンイレブンでは絶対に冷蔵食品よりも冷凍食品をセレクトするべきだ(餃子は除く)。

セブンセブンばっかり言っているが、冷凍食品のレベルは基本的にセブンイレブンが高いのだから仕方がない。LAWSONにもナガラ食品の「ホルモン鍋」という一騎当千が居るが、映画鑑賞をしながらだと、温度低下による味の劣化が気になってしまう。FamilyMartのお母さん食堂も悪くないものの、商品によって美味い不味いの波が激しい点がややネックである。といった理由から、今回はセブンイレブンをメインに話を展開した。また、セブンイレブンはコンビニホットスナック最後の砦として「微妙に美味くないアメリカンドッグ」を販売し続けてくれているというリスペクトがあるため、贔屓したという裏事情もある。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴


さて映画に出てくる食事のなかで、「微妙に美味くない」けれど「なんだか美味しそう」の筆頭といえば、マカロニチーズだろう。これもAmazonだろうが楽天だろうがあらゆる場所で通販できる。ネットでよく見るのは「クラフト」のもので、マカロニとチーズミックスがセットになっている。マカロニを茹で、バターと牛乳を用意して、チーズミックスを絡めて食べる。

マカロニチーズは、味というよりも、出来上がるまでの作業工程が楽しい。映画でもなぜかマカロニを茹でるシーンから、チーズミックスを絡めるシーンまで通しで描かれることが多い。最近ではNetflixの『マルコム&マリー』でも、モノクロの画面からでも濃厚なチーズの香りが感じられるほど、これでもかとマカロニチーズ調理シーンが登場した。ところで、マカロニチーズをあんまり美味そうに撮らない技術は、タランティーノが一番巧い。

ちなみに、マカロニチーズの調理すら面倒くさい人のために、水を入れてレンチンしてミックスチーズを混ぜるだけで完成する「イージーカップ」も販売されているので、ぜひ試してみてほしい。

また、最近ではSFメシ的なものも時折SNSで話題なっている。個人的には、パックの業務用水ようかんをスライスしたものを、『スノー・ピアサー』を鑑賞しながら食うのが好きだ。その際の鉄則として、原料を思い浮かべてはいけない。

家飲みのレベルが向上した今、家で映画を観る時に飲みたい酒と肴
映画『スノー・ピアサー』より
食品用ゼラチンカプセルに磨り潰した食材やカラフルなチョコチップなどを入れて、オリジナルの錠剤を作って『AKIRA』を観ながら山形に思いを馳せるのもまた楽しい。ただ、ついカプセル内にスピリタスなどのアルコール飲料を入れて、健康優良不良少年少女気取りをしたくなってしまうが、結構危ないので推奨できない。

酔っ払ってしまっては映画に集中できないし、なんなら飲み方もよろしくない。飲み方に関して、ここだけ真面目に書くが、基本的に350ml程度の缶チューハイ1本は、バーで飲む1.5~2杯分に相当するので、割と気をつけたほうがよい。コロナによる家飲みのレベル向上は楽しみも増やしてくれたが、楽しいぶん中毒性も高い。

と、つらつらと書いていたら、「緊急事態宣言の2週間延長を要請へ」といったニュースが耳に入ってきた。まだまだ厳しい時期は続きそうである。だが、あらゆる管制の中でも、楽しみやユーモアは必ず見いだせることは、歴史が、映画が証明している。映画はほどほどにしなくても何ら問題はないが、暴飲暴食はほどほどに。それでは楽しい映画ライフをお送りください。本コラムがその一助になれば幸いです。

(文:加藤広大)
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